アリゼルとアリマ・2
不敵な笑みを浮かべた姫、アリゼルは少し何かを思慮したように面をしかめ口にする。
「都合が悪い、みたいね」
不服そうな面をしながら瞳の中に笑みを含ませている。愛想笑いといった表情だ。
ミズキの隣にいるメグチは複雑そうな面持ちをしている。メグチは何かを言いたげに口元が動いていたけれど、それだけでアリゼルを引き止めたりはしなかった。
それを一瞥したアリゼルが微笑を刻む。ただ彼女もそれを追求することはしなかった。
「ーーま、フィロルドの近侍を目にできたのだから無駄ではなかったかしらね。だけど、私のアリマに比べれば全然頼りなさそうですけど」
嘲笑混じりの言い様にミズキは少し腹立たしく思う。が、アリゼルの隣にいる近侍のアリマと自分を客観的に比べてもアリマの方が優ってるのでただただ虚しい怒りだった。
アリマは主人に褒められているというのに、寡黙で無表情を崩さない。それどころか目線すら揺れ動かない徹底ぶりに感服する。
「それじゃあ、帰るわね。行くわよ、アリマ」
アリゼルは最後まで表情に笑みを作ったまま人力車に乗り込んで行った。主人の誘いにアリマは追って乗り込む。
人力車の扉が閉まり、車内の明かりが窓ごしにつくのが見える。すると、先ほど聞こえていた鈴の音が鳴り始め人力車を引っ張る人形が動き始めた。
と、不意に窓が消失したように開いてアリゼルの笑みが印象的な面が出てくる。
「メグチ、それにミズキ。またお会いできる日をお待ちしております」
そう言って、向けられた視線は不敵に熱を帯びていた。
彼女らが不気味な人形の人力車で去った後、ミズキは愚痴のように呟く。
「何なの、あの姫と近侍」
アリゼルもアリマも独特な個性があった。特にアリマは忠誠心からか寡黙を貫いていて不気味な存在に思えた。
「……アリゼル様もアリマさんもすでに巡礼をしている方ですから」
「巡礼って……」
巡礼は姫が行う義務のようなもの。また世界の平穏を願うために必要な儀式。
簡易的に浮かんだ定義に、一つ疑問が生じる。
「巡礼中って帰って来れるの?」
「それはもちろん、帰って来られますよ。今回は王位継承式ということで、巡礼中でも召集されています」
「あー、そっか」
ミズキが勝手に思っていたことだが、巡礼は終えるまで帰らないものだと思っていた。神聖なものだと聞いていたから、余計だった。
「でも……」
「?」
そう口にしたメグチは、途端にハッとなって話題を転換させる。
「そだ! 夜食にしませんか? リリィ様にもお持ちしましょう!」
「夜食?」
疑心になるが、気づけば緊張が解け空腹を感じていた。
露骨に話を逸らされたが空腹は正直らしく、お腹の音に誘われていう。
「ま、まあ、そうだね。何を作るの?」
「そんな凝ったものは作りませんよー。ナンシでも剥きましょうか」
「いいね」
ナンシは梨のような果物だ。
空きっ腹にちょうどいい果物を剥いてくれるということなので、先ほどの疑心はすぐに消えた。




