アリゼル・フイカ
鈴の音が聞こえた。
チリーン、チリーンと鳴らすそれは屋敷の門前から聞こえてくるのだ。
メグチはその音に聞き覚えがあるのか面を歪め小さく息を吐いた。
何かを思って彼女は口にする。
「あー、こんな時間にまで……」
「?」
疑問が過ぎったが、心当たりのある彼女に対して浮かんだ言葉は安易なものだった。
「誰なの?」
ミズキの質問に、メグチはハッと面を驚かせる。
「いや、えと、オルファナスの姫ですよ」
ふとした質問だったのだが、メグチは必要以上に戸惑っていう。
先ほどの呟きを聞かれたのだと思ったのだろうが、それにしては不自然に思えた。
疑いが口をつく前に、ミズキ達は門前にたどり着いた。
門前の通りに人力車が一台停車していた。車を引く人は不気味にこちらを一瞥もせず生気なく正面を見据えていた。
その二人は深く黒いハットを被り、作り物のような双眸をしている。端的にいえば、人には見えなかった。
車の戸が合図したかのように音を立てて開く。と、まず先に降りて来たのは黒い礼服を模した格好の清廉な女性だった。
ミズキは人の登場にほっと胸をなで下ろすが、その女性がやけに音も出さないで下車して来たのを見て慄く。
その女性は人形のように端正で美しい面をしている。こちらにその面を向けることなく車の側に立つとじっと立ち尽くした。
挨拶もしないなんて態度が悪いと思ったが、それ以上に不気味さが勝った。
しばらく思慮しミズキもメグチもお互い顔を見合わせた。何か口にしようと考えた時、車の方から声が飛び出した。
「フィロルドの御前で一言も発さないのは失礼でしょう? アリマ、自己紹介くらいなさい」
凛然とした声が、車の側に立つ礼服の女性をアリマと呼んで一喝した。
すると、それに応えるようにアリマは笑みを作っていう。
「アリゼル・フイカ様にお仕えしてます。アリマ・スレートと申します」
作った笑みに反して中身は淡々としていて、文字通りの自己紹介を告げた。
どうも、とミズキとメグチは頭を下げる。しかし、彼女は興味がないのか反応を示さなかった。
「ごめんなさいねぇ。アリマはこういう事が苦手なのよ。自分では動かないの、私の命令があって動くの。不器用なのねーーまぁ、従順で私はとっても好きなんだけど」
クスッと微笑を刻んで降りて来たのは、純白のワンピースに身を包んだ美麗な女性だ。
火遊びなんて知らなそうな純朴な瞳。ミズキとは対照的で眩く思い、思わず目を逸らす。
「では、改めて」
と、彼女はスカートの部分を摘んで会釈混じりにいう。
「王都オルファナスの姫、アリゼル・フイカと申します。以後、お見知り置きを」
キラキラと向く瞳を前に、ミズキは怪訝そうに面を歪めるのだった。




