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イヴの世界  作者: あこ
二章 王都招来
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ネコ


「それでは門の前までお送りいたします」

 皇女レイナと従者メルナ・ルフェルナ、魔術師クリシュ一行の退出に使用人のアヤチが申し出た。

 ルフェルナはわざわざどうも、と頭を垂れてメグチを先頭に立たせた。

 アヤチに倣ってミズキも先頭に立とうとするが、リリィに止められて皇女一行の後方で傍観する形になった。ミズキはリリィの近侍ではあるけど、クラクの使用人の立場であるため複雑である。が、リリィの言うことが一番なためそれを受ける。

 エントランスから前庭に出ると、門の方から嬉々とした声で駆け寄ってくる人物がいた。

「見てみてー、そこにネコがいたのー」

 能天気な声で、その腕に茶猫を抱え込んでいる。その表情は随分嬉しそうだ。

 嬉しそうな顔で猫を抱えてきたのはメグチだ。獣人の彼女が動物ーー使い魔の猫を抱き抱える姿はミズキにとって少し滑稽な様子に見えた。獣同士という点では投合している部分もあるのだろう。

 そんな考察を頭の中で巡らせていると、先立っていたアヤチが大きくため息を吐いた。

「全く、客人の前でなんですか?」

 姉の睨みに、メグチは一瞬怯むがニコッと笑って誤魔化した。

 アヤチの呆れは益々大きくなって、吐く息まで大きくなる。そこにリリィがメグチと一緒になって猫の姿を喜ぶものだからアヤチの頭を悩ますばかりだった。

 使用人の振る舞いとしては不正解なメグチ。流石に、皇女一行も眉を顰めたと思い恐る恐る横目で確認すると先ず目に付いたのは皇女レイナのニヤついた顔だ。

 面を覆い隠すように俯いた顔に微笑を植え付けたその表情はやけに印象に残った。彼女もアヤチやリリィと同じ猫を可愛がりたい同士なのだろうか。

 アヤチが大きく息を吐いて、皇女一行を前に振り向こうとした時、途端に声が上がった。

「ひっ……私にネコを近づけるなっ!」

 その声の主は意外な人物から放たれたものだ。

 飄々として大柄な魔術師であるクリシュは物事を冷静に達観する人物だが、目の前のネコに随分な弱音を吐いていた。

 その顔つきも、まるで悍ましいものでも見せつけられたみたいに顔面蒼白でレイナの従者ルフェルナの背後に隠れてしまった。隠れるといってもルフェルナと比べ大柄な彼女の身体を隠せるわけもない。

 ルフェルナは呆れたように面をしかめいう。

「相変わらずネコが嫌なんだな」

「バカか! ネコは最悪の魔獣なんだ、愛玩にしていい使い魔じゃないっ!」

 取り乱すクリシュに、レイナが隠れて笑みをこぼしていた。

 クリシュの取り乱しように比べて、ネコを愛玩だとしているメグチとリリィは不思議そうに顔をかしげる。ミズキもネコを最悪の魔獣に見えるわけもなく目を丸くさせていた。

「ああ、くそっ。メイヘンのとこもそうだし、ネコを使役するならちゃんと管理して貰わないと……」

 クリシュはぶつぶつと愚痴を漏らして、ネコを抱えるメグチの方を見てしっしっと手を払った。

 アヤチはメグチの方に向き直って言う。

「クリシュ様はネコが苦手なようなので、ネコを連れて行くように」

「苦手ではなく嫌いなんだ!」

 クリシュの訂正に、アヤチは少し面倒そうに面を歪めたがそのようでといった風にメグチに目くばせする。

 メグチは名残惜しそうにしていたが、はーい、と呑気な返事をした。

 最後にリリィがネコを撫でてからメグチはネコを連れて姉の命を守って、クリシュの目の届かない場所へと離れていった。

 ネコが視界から消えてなお、クリシュはぐちぐちとなんで今日はこんなにネコに遭遇するんだと愚痴を漏らしていた。

 初対面の印象に比べ女々しい姿に、新鮮味を覚えたミズキ。今の状態のクリシュなら近づきやすいかもしれないなんて考えていた。

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