皇女レイナ・2
王族と言われて抱くイメージは、やはり高慢であり高貴であり庶民と一線を画す品格を兼ね備えている。そんな浅慮を思って対峙した相手は思った以上に高慢ではあったが、高貴であるかと言われれば微妙な線だった。
流石に、本人を前に想像と違いますね。なんて言えるはずないが、皇女レイナは高慢というよりは子生意気な少女と揶揄した方が正しい気がした。
ミズキの神妙な面持ちに、巨躯な魔術師ーークリシュが微笑を浮かべる。
クリシュのことを不気味に思うミズキ、その隣で立ち話している状況を心配してかアヤチが声をあげる。
「応接間の方にお連れしましょうか?」
「……いや、いい。フィロルドの姫様とは話は済んだ。近侍を一眼見たかっただけだからね」
と、アヤチの気遣いを断って微笑んで言う。
「はた迷惑な話ですよ、全く……」
レイナの従者ーーメルナ・ルフェルナが呆れたようにいう。
彼女は騎士風の格好で、腰にはそれを象徴する剣を携えている。初対面の時から面倒そうな顔をしているがその矛先はクリシュに向けられていた。
クリシュはそれを横目に、気に留めずくくくと低く唸る。
ルフェルナは露骨にため息を吐いて続けた。
「オルファナスはフィロルドの近侍に、ルバートを指名したはずなのに、こんな……」
と、ルフェルナはミズキの方を一瞥して何を思ったか言葉を続けるのを止めた。
意図のわからない言い様にミズキはむかっとくるが、隣でアヤチが難しそうな顔をしているのを見て収める。
その中でクリシュは嘲笑を崩さず、ルフェルナの皮肉のような言い様に追及する。
「それは相談役の妄信に過ぎない。最後に決定するのはフィロルドの姫であるし、王になったレイナだ」
彼女の言葉にルフェルナは苦虫を噛み潰したような顔をする。一方レイナはそっぽを向いていた。
リリィがクリシュとルフェルナの言葉を気にしたのか、ミズキのそばにきて囁くように耳打ちしてくる。
「気にしなくていいからね」
「うん……」
反射的に反応したが、心の奥底では微妙な心境を抱いていた。
クリシュの言葉を鵜呑みにすると、リリィだけでなくオルファナスの王にも認められないといけないようだ。だが、その王になることを控えているレイナは渦中のミズキをあまり気にしていない様子だった。
ミズキが彼女にかける言葉を考えていたところ、クリシュがミズキを見下ろして話をかけてきた。
「お前がクラク襲撃から守ったらしいな」
「守ったというか……」
ミズキは首が痛くなるほどクリシュを見上げながら目線を逸らしていう。
たいそうなことを彼女はいうが、実際はまわりが守ってくれたことだ。ミズキ自身、やみくもにもがいたその結果に過ぎないと思っている。
クリシュはふっと小さく笑い、少し曲げた背丈を伸ばしていう。
「ま、私は相談役のババアが妄信しているルバートよりフィロルドの姫が選んだ近侍の方がよっぽどマシだ。近侍に必要なのは、何も強さだけではないからね」
彼女の好意的な反応に、ミズキは少し嬉しくなる。リリィも同じ思いをしているようだ。
しかし、クリシュとは反対にルフェルナは納得のいかない様子。ミズキに注がれる視線は痛いものだった。
「ーーとはいえ、最終判断はレイナに委ねられる。お前も姫だけなく、王にも認められるようにな」
クリシュの言葉は重く放たれた。
そして、なぜだかミズキだけなく他の人にも当てられた言葉にも聞こえた。
皇女レイナは、会話を流すように、はいはいと吐き捨てていう。
「もう用は済んだでしょ。次の姫のところに行くわよ」
彼女の急ぐような言葉に、クリシュは微笑を刻んだ。




