別宅での過ごし方
王都オルファナス、二日目の朝。相変わらず朝は微睡み、寝起きの悪いミズキはリリィに起こしてもらっていた。
というよりはリリィがクラクの屋敷にいる時よりも早めに起きて、ミズキに至ってはクラクの屋敷でやっていた仕事のないため惰眠を貪っているせいもある。
目を覚ましてリリィと会うと、今日の朝は少し違っていた。
すでにリリィは着替えを済まし、王都へ出る支度もできていたのだ。
反面、起こされているミズキは寝ぼけたまんま彼女の姿を訝しげに見るがそこで思い出す。
そう今日、リリィは王都各所に訪問。公務を行う日だ。
ミズキはこの一週間の予定をある程度、頭に入れているつもりだったが彼女の姿を見てそれを思い出した。
公務に向かうリリィに気付いて、見送りするから待ってと声をかけ彼女を部屋から追い出してさっさと着替える。
身なりを最低限整えて別邸の玄関前に急ぐと、リリィはミズキの言葉を守って待ってくれていた。
息を切らして玄関に来たミズキを見て、リリィは微笑んで隣にいる細身で背丈のあるなんだかだらけているように見える人に一瞥していう。
「ごめんなさいね。慌ただしい近侍で」
「いえ、いえ、そんなことありませんよ」
少し腑抜けた調子を伺える声色で話す女性。彼女のことは見覚えがあった。
彼女のことを思い出そうとしていると、玄関の外から別邸の従者、アヤチとメグチが入ってくる。
「外の方に馬竜車をご用意しました。どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ」
アヤチの気品ある姿は、獣耳から尻尾までその佇まいを表していた。反して、隣にいるメグチはアヤチを真似てお辞儀をするが獣耳と尻尾はどこかぎこちなく揺れている。
「うん、ありがとう。二人とも。ササキはもう馬竜車に?」
「ええ、すでに御者台に乗られています」
リリィの問いかけに、アヤチはスッと答える。
アヤチとリリィが話しているところで、ミズキはハッとして気づく。
「あ、王宮の使者?」
「あらら、気付いていなかったのですか?」
ひょろりとして揺れる王宮の使者の彼女は笑みを滲ませいう。
「フーヴェスト・コウです。お久しぶりでございます、フィロルドの近侍さま」
畏まった紹介に、ミズキは反射的にお辞儀をした。
「此度はリリィ様の各所ご挨拶に同行するために参上致しました」
「挨拶?」
具体的な公務の内容を知らされていないため、ミズキは疑問する。
「識者に会うの。王宮や、騎士団、教会に訪問する予定よ」
「はあ、それって私も一緒にいけないの?」
昨日も、公務について自分は連れて行けないと言われたが改めて質問する。
「本当は近侍も一緒なんだけど……」
と、昨日は真意を聞けなかったがリリィはバツが悪そうにフーヴェストの方をチラと見た。
「簡単な話ですよ。王都の識者はミズキさまを近侍としてまだ容認されていない」
「え?」
あまりにとっぴなことに阿呆な声が飛び出す。
「単に近侍として姫に認められようとも、国から承認されなければ正式な近侍とは言えない」
ピシャリと言い放つフーヴェストに、ミズキは険な視線を向けた。
「でも、私はリリィの近侍でここに来ているんだけどっ!」
「それはあくまで姫の意思でしょう」
気怠い瞳が真意を突きつける。
フーヴェストは押し黙るミズキを横目に、ぽりぽりと頭をかいていう。
「兎角、ミズキさまは王都からしたら仮の立場。この先、ちゃんとした立場を貫きたいのなら振る舞いを考えることですね」
「……っ」
途端に悔しくなるミズキ。それをリリィはフォローするようにいう。
「大丈夫よ、ミズキ。私がしっかりくっきりアピールしてあげるから!」
「ありがと……」
急に自信がなくなって、お礼をいう口元は震えていた。
「あなたが一番の近侍だって私が一番知っているもの。きっと国も認めてくれるわ」
「あはは……」
顔合わせもできない立場に希望を感じないが、気休めにはなった。
「それでは行きましょう、リリィ様」
フーヴェストの呼びかけに、リリィは小さく頷いた。




