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イヴの世界  作者: あこ
二章 王都招来
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時計台で王都を見下ろして・2


 リリィに連れられ向かった先は、別宅の裏手を出た先にあった。

 裏手の花垣に隠れた戸を潜ると、街の路地に出る。そこから道なりに通っていくと時計台近くの広場に出た。

 広場は街灯が立ち並び、中央には赤い花々を咲かせた花壇がある。

 ここは昼間にウィンドショッピングを楽しんだ場所とは反対側に位置している。ここに来れば、オルファナスの象徴である時計台がより高い建物であることを知らされる。

 時計台の近くで、不意にリリィが足を止めた。

 高く聳える時計台にリリィは視線をあげると、儚げに面を傾けた。

 相変わらずリリィの顔つきには趣がある。見惚れてしまうのも無理はない。

 見惚れていると、リリは静かに言葉を紡ぎ出す。

「ここはね、初めてオルファナスに来て連れてきてもらった場所なんだ」

「そうなんだ……」

 神妙な面持ちで紡いだ言葉に、ミズキは小さくうなずき答える。

「十年くらい前かな……。エリザベスがここに連れて来てくれたんだよ」

「そ、そう……」

 不意に面喰らってしまう。その表情を垣間見たリリィがクスリと笑っていう。

「あ、そっか。ミズキに昔の話をするのは初めてだね」

「うん……」

 ミズキが驚いたのは、リリィが昔話を始めたからだった。

 リリィはこれまで自分の話をしたことがなかった。何度か訊ねたことはあるが、彼女は曖昧な返事をするだけでまともに取り合ってくれたことはない。だから、彼女が自分から話を紡いだのには驚く。

 リリィ自身もそう思っているのか、苦笑を浮かべる。

「ふふ、この時計台ね。普通は上がれないようにできているんだけど、秘密の通路があるんだ」

 悪戯な笑みでいう彼女にミズキはついていった。

 時計台にはちゃんと入口らしき扉がある。しかし、そこは鍵がかけられ入れない。彼女のいう秘密の通路は扉も何もない壁のところだった。

 その壁の前で、リリィはこんこんとノックするように叩いた。すると、壁はカコンと音を立てて人一人が通れるほどの隙間ができる。

「こんな入口が……」

「エリザベスが教えてくれたんだよ」

「はぁ……」

 ルバートがそのようなことを教えるのは意外なことだけど、こういうあからさまな秘密の入口にはドキドキする。

 小さな入口を潜ると、天井の見えない大きな螺旋階段が広がっていた。

 中に入ると、時計の秒針が動くための歯車の音が空洞で響き渡っていて耳朶を刺激する。ガタン、ガタンと塔内に響く音はまるでこの塔自体を揺れ動かしているかのようだ。

 その中に時計台の上部に続く螺旋階段があり、リリィは目で合図をして登り始めた。

 お互い黙々と頂上を目指していく。会話はない。というより、ミズキの方が登る方に必死だった。

 息を切らしながら登るミズキに対して、リリィは平然と登っている。体力面に関しても、リリィの方があるらしい。

 にしても、長い螺旋階段である。この世界に文句をいうわけではないが、ミズキの世界の文明のありがたさを知る。エレベーターなら一瞬だし、エスカレーターなら楽だろう。なんていう、思いもわく。

 心底体力の限界を迎えている中、終着点に辿り着いた。

「ここが時計台の最上部だよ。王都を見渡せる展望台だね」

 扉を開き外へと出る。すると、気持ちのいい風が出迎えてくれた。そしてーー、

「……わぁ」

 疲れていることを忘れ感銘をあげた。

 心地のいい風が身体を迎え、王都の街灯りと夜空の星々が視界を遮る。それはまさに秘密の場所というに相応しいものだった。

「素敵でしょ。ここは本当は色々手順を踏まないとこれないんだよ」

「そうだよね……」

「だから、秘密ーー」

 と、リリィは口元に人差し指を持ってくる。

 そして、そのまま彼女は続ける。

「ミズキ……、十年前ここに来て私は決意したのーー姫として『永劫の平穏』を作るって」

 絶景の王都を前にして、リリィは訥々と紡ぎ始めた。

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