時計台で王都を見下ろして・1
お買い物勝負の結果は何ともパッとしないもので終わった。というのも、結局銀アクセサリーを買ってきたのはミズキだけだったからだ。他のみんなはウィンドショッピングに夢中で、本筋から逸れて王都の店を楽しんでいた。
真面目な自分に嫌気がさしたけれども、ミズキの選んだ百合をあしらった髪飾りはリリィが喜んでくれてた。早速つけていいと聞いてきた彼女はミズキの返答を待たずに前髪を止めるようにつけて見せてきた。その姿は似合っていて、マイナスな気持ちはすぐに霧散した。
そんな王都散策も終わり、一同は屋敷に戻った。
屋敷に戻るなり、メグチはアヤチから頼まれていたらしいお買い物を忘れていたそうでメグチはアヤチにこっぴどく怒られていた。
メグチにとって一悶着ありながらも、屋敷ではアヤチの用意した夕食を嗜んで王都は夜にふける。
一息をついたミズキは自室で寛いでいた。寝るまではだいぶ時間があり、少々余らせている時間帯。ミズキは小さく息をついて自室を出る。ちょっと別宅の中庭を散策でもしようと思ったのだ。
隣の部屋のリリィにも声をかけようとノックをするが、返事はない。どうやら不在のようだった。
お風呂かな、と思いながら中庭に向かう途中でアヤチとメグチが二人でいる姿が見られたので彼女たちにその旨を話しておいた。
別宅の使用人の承諾も得て中庭に行く。と、中庭にはすでに先客がいた。
噴水前で儚げに手を空で彷徨わせる少女はまさに絵の中の人物を思わせる魅力がある。彼女は彷徨わせた手にふわふわと浮かぶ淡い灯り達に優しく微笑みかけていた。月明かりに照らされる彼女の姿は幻想的だ。
ミズキは一瞬見惚れながらも彼女の名を呼ぶ。
「リリィ」
リリィはこちらに気づくと、淡い灯りたちにごめんねと声をかけて灯りたちが散ったのを横目にいう。
「何?」
「ごめん、邪魔しちゃって」
見た感じ、加護の修業だったのだろう。ミズキは間髪入れずにいう。
「いいよ。もうそろそろ終わろうかなって思ってたから」
「そっか」
「それで、どうしたの?」
「どうしたのっていうほどのものじゃないけどさ。ただ何となく散歩しようかなーって」
昼間の王都散策の余韻が抜けず、中庭を月を見上げながら歩こうかと思った意図を簡単に話す。
「何それ」
と、クスッと笑うリリィ。
すると、リリィは何かを思い出していう。
「そうだ! ミズキ、私の秘密の場所に行こうか?」
「秘密の場所?」
不意をついた言葉に疑問する。
「そうだよ。まあ、秘密でもないんだけど、ほら、あそこ」
と、リリィは空の方を指差す。そこには王都オルファナスで名物だという大きく聳える時計台があった。
「時計台?」
「うん、あの上で見る王都は格別なんだよ」
「あの上って、時計台ってそんな簡単に登れるの?」
「ふふ、だから秘密なんだよ」
彼女はそう言って、可愛げに人差し指をたてて口元に持ってくる。
シーっという仕草で、彼女はキョロキョロとあたりを見渡して囁いてくる。
「これから黙って二人で行っちゃおうか」
「え」
言われるがままに、リリィはミズキの手を引いて一緒に中庭を出た。




