エステル教会
生意気な姫カシュ・ミミと遭遇後、ミズキは銀アクセサリーのお店に立ち寄っていた。
数ある専門店の中で、一際は人の出入りが少ない店を選んだ。そのお店では店番として機能しているのか定かではないお婆さんが一人いて、その割に綺麗に陳列された装飾品がありミズキの陰な性格上一番あっていた。お買い物勝負といったところも合致しているだろう。
服選びに店員と絡みたくない性格のミズキにはそういうところが適任であった。
話しかけられる危機感のない中で、ゆったりとして選び取ったのは花をモチーフにした髪飾りだった。
銀アクセサリーは指輪や腕輪、ネックレスなどあるがその中で選んだのが髪飾りであり花をあしらった装飾品だ。
単純にその花が百合のような花弁だったからそれを選んだ。リリィがミズキの世界において百合を由来しているという安直な理由でもあるが、彼女はにはきっと百合の髪飾りが似合うと思った。
ぼんやりとした店番のお婆さんに声をかけ会計を済ませ店を後にすると、通りに出たところでササキに遭遇した。
「おー、ミズキじゃないか。いいもん見つけた?」
「うん、まあ」
と、曖昧な返事をする。ササキは? と返す前に、彼女はいう。
「マ? こっちは全然。ビビってくんの見つかんなくてさー」
「どういうの探しているの?」
「そりゃあ、派手なやつ! 宝石とか埋め込まれたギラギラしたのを探してんだけど、どれも高くてさー」
「宝石入ってたらそりゃそうでしょ……」
そう突っ込みを入れる。
「そろそろ集合時間だし、私は諦めるとするわ。ミズキ、一緒にいこっか」
ササキの誘いに頷いて返事をした。
しばらく、ササキと二人きりで大通りを歩くことに。
自分から話題を振ることはできず、悶々としているとササキがふとしたことを口にした。
「どうよ、王都は?」
「え? えーと、賑やかだね」
ありきたりな感想を漏らす。
「あははっ、ま、そだよねー」
そういうササキはケラケラと笑った。
脈絡のない会話に少しムッとしたところで、ミズキは道の先である建物前で佇む見覚えのある人物に気づく。
その人物は目が異様にキラキラしており、祈祷師の制服である修道服を着こなす少女。ただその目のキラキラ以前見た時よりもくぐもって見えた。
その子の見る先は教会であった。教会の壁面には花のエンブレムが飾られておりまたその上部には十字架が掲げられている。
少女の名前を思い出している内に、少女の方がこちらに気づいて瞳を輝かせて近づいてきた。
「これは久しぶりですねぇ」
「久しぶり……、あ、ルナリアだ!」
「むっ、失礼ですねぇ。今思い出したんですかぁ?」
じっとりとした視線で睨んでくるルナリア。訝しげなミズキを疑ってきた。
「ルナリア?」
と、ササキが隣で怪訝な顔つきでルナリアの方を見ていた。すると、思い出したかのようにいう。
「お前ラマンのとこの祈祷師だろ? ここの教会に何の用事なん?」
「うわぁ、傭兵がそんなこと詮索しないでくださいよぉ」
ササキの質問に、ルナリアは嘆息を交えて否定的に答えた。
「ラマン?」
聞き覚えのない単語に、ミズキは疑問する。
「エステル教会の愛の席に座する人の名前だよ。ほら、ルナリアが胸元にかけてあるペンダントクローバーでしょ。クローバーは愛の席の象徴だから、ラマンを信仰する祈祷師は同じの付けてんのさ」
「へー」
どこかで見たことあるなぁと思いながら聞いた。
「……でも、何でラマンの祈祷師だから普通に教会に用事あるじゃないの?」
わざわざそれを質問にする意味がわからず、ササキに問いかけるとササキは教会の花のエンブレムの方を指さしていった。
「ここの教会はザクロが象徴なのさ。ザクロは怒の席の象徴花で、愛の席とは別の派閥になる」
「派閥って、同じ教会で祈祷師なのにそんなのあるの?」
「あるよー。全部で六つあるよー。国ごとに駐在している派閥が違ったりするんだよ」
「ふーん」
ミズキなりに解釈すると、同じ宗教でも宗派が違うと言ったところだ。
「それでぇ、ラマンを信仰する祈祷師がここの教会に用があるのかなぁ? どうしてかなぁ?」
煽るようなセリフに、ルナリアはグッと唇を結んでいた。
「ササキ、そんな詮索しなくていいんじゃない?」
流石に、ルナリアがかわいそうだと思いササキを止める。
「あはははっ、ごめん。ちょっと、からかい過ぎたわ」
ちょっとどころではないと思われる。当のルナリアは若干顔が真っ赤になって涙目になっている。
「いやねぇ、王都がちょっとあれだからねぇ。疑っちゃった」
てへと可愛げに舌を出すササキ。
「疑ったって……。? 王都があれってどういうーー」
と、ササキの不思議な言い回しが気になって疑問をかける前にルナリアが急くようにいう。
「別に何の用もないのですぅ。少し立ち寄っただけなのですから、変な勘ぐりはやめてください」
そう言って、ルナリアは逃げるように教会前から去っていった。
「どうしたの、あの人……」
「……さぁ」
ササキは呆れたように眉を顰めた。
ルナリアの急な横いりもあり、先程の疑問の内容が頭の中から消えた。それが何だったか思い出す前に、ササキはミズキに声をかけ集合場所へと急いだ。




