カシュ・ミミ
幼なげな様相のカシュ・ミミは自慢げに鼻を鳴らしてこちらを見上げてくる。
その目は赤く自信そのものを強く主張している。ミズキとは正反対の目力に圧されてしまう。その様子を彼女は不服と思ったのか怪訝な顔つきになっていった。
「アンタ、フィロルドの近侍よねぇ?」
「そ、そうだけど……。というか知ってて話しかけてきたんじゃないの?」
当惑を示しながらもっともなことを聞くと、ミミは息を吐いて話す。
「当然でしょ。アンタの服装を見ればわかるし」
と、彼女は服を指差す。
そこで気づくが、ミズキが着ている衣服はフィロルドの制服だ。ミズキがフィロルドの近侍だから気づいたのではなく、フィロルドの制服を着ているから彼女はそれを知って話しかけてきたのだ。
恥ずかしい思い込みに、一瞬顔を真っ赤にさせる。すかさず、ミミが続け様に話す。
「にしても、アンタさぁ」
と、ミミは訝しげにジロジロと見てくる。
「な、なんなの?」
当惑して構えているとカミュはピシャリと指先を向けていう。
「フィロルドの近侍にしてはパッとしないわね」
「初対面で失礼だね……」
それも年下らしき子に言われるのは些か不服だ。
「……ミミ、お店の方で商品のお支払いしてきます」
ミミと会話をしていると、横からファルマとミミから呼ばれていた長耳の彼女がいってきた。ミミはそれに頷いて答えると、彼女は小さくお辞儀をして店の中に入ろうとする。その際、彼女はチラリとミズキの方を見て一瞬鼻で笑ったように見えた。
癪に触ったが、それを面に出す前にミミが話を続けていた。
「ねえ、アンタって騎士? 魔術師? それとも祈祷師なの?」
「いや、違うけど……」
「えー、それじゃあ亞人? 耳も長くないし、体格もいいようには見えないし、獣の特徴は見当たらないけど……」
「それも違うよ……」
そこでミミはぽかんと口を開けた。
「え、アンタ役職でもなければ亞人でもないの? 何、まさか単なる庶民?」
「そうだけど……、庶民じゃダメなの?」
腹が立って思わず言葉を返す。
ミミは嘲笑を面に広げて、破顔していう。
「ダメってわけじゃないけどねぇ。ああ、どうりで頼りないと思ったわけだ」
「うっ……」
図星をつかれてドキッとした。
「フィロルドってのはどうにもオカシイっていうからねぇ。その近侍もオカシイのも当然か」
そういうミミに、ミズキはムッとした。
「そ、そんな言い方ないでしょ……。私はともかく、フィロルドのことをそんな風にいうのはさ」
若干反抗に慣れていないため淀みがあったが、率直に話した。
「ふーん、忠誠心はあるのね。いい事よ」
と、言葉を翻して褒める彼女は詰め寄ってきて真っ直ぐと赤い目がこちらを見上げてくる。身長の差で彼女の方が低く見上げる姿勢は自然なのだが、見上げられているのに、まるで見下ろされているかのような圧を感じた。
「忠誠心のない近侍は論外。近侍に必要なのは強さや包容力、それ以上に求められるのは姫のそばにいるという思い。アンタは『それ』だけは持っているみたいね」
彼女の圧力にたじろいでしまう。品定めをされているみたいだ。
ミミの圧迫面接のような一方的な言葉に言い寄られている中、店の中からファルマが支払いを終えて出てきた。
「まだこちらに用が?」
「ん? 支払いは終わったのかしら?」
「ええ、商品は綺麗に梱包してカミュの本邸に届けるよう伝えました」
「なら、用はないわ。思わぬ出会いもあったことだし」
そういってミミはミズキから離れ、ファルマの元に駆け寄る。
「ファルマ、アンタも自己紹介しておきなさい」
ミミがそう命ずると、ファルマは嘆息すると厳しい瞳をこちらに向けてきた。
「どうも、フィロルドの近侍の方。私はファルマ、森人という言い方は嫌いなので、森のエルフ族の亞人と認識ください。ミミの近侍として仕えています、以後お見知り置きを」
ご丁寧ながら愛想のない挨拶に、ミズキは萎縮しながらお辞儀をして返す。
「ミズキ……です。フィロルドの近侍をしてます……」
ファルマと比べれば短い自己紹介をして、再びお辞儀をする。
ファルマは長い嘆息すると、もういいですかと問いかけるような視線をミミに向けていた。
ミミは苦笑して、それに肯定するとファルマはミミの後ろについた。
「ミズキ、この王都にいる限りまた会うこともあるわ。姫によろしくって言っておいてね」
ミミは最後にそう言ってファルマと共にこの場を後にした。
初めて遭遇したリリィ以外の姫があまりに強烈で鮮烈だった。嵐のように過ぎ去った彼女たちの余韻を引きずりながら、この大通りに来た本来のことを思い出して再び歩き出した。




