王都の街並み・4
ジェラート片手に王都を遊覧する四人の姿は無邪気な女子高生そのものだった。
この異世界において女子高生なる存在はないが、ミズキの視点で当てはめればそういう目に映る。
買い食いして、色んな店を物色してはそれを話題に話を広げる。ミズキはもしも女子高生だったらこんな風なんだろうなぁなんて想像していた。
生憎、ミズキの本当の女子高生時代にこうした記憶はなく。自然とササキにひかれるままにウィンドショッピングを楽しむ自分に違和感が生じている。
ただこれを悪くないとしている。
ジェラートの味を四人、味見をするため別々にして楽しんだり。使い魔のお店で、何を使い魔にしたいか可愛さを競ったり、銀アクセサリーのとこではどれが似合うか合わせてみたり。昔はあまりよく思っていなかった光景が異世界で実現し楽しく思っていた。
昼食を王都一番の大通りをそれた脇道にあったカフェで軽食を取った後、四人は別行動をしていた。
昼食の会話の中、直前で行っていた銀アクセサリーのお店を話題に各自アクセサリーを買って見せないかと話をしていた。
つまるところ、お買い物勝負といった感じだ。
王都オルファナスは銀アクセサリーの装飾品が有名らしく、王都の街には数多くの専門店がある。
四人それぞれ違うお店で、自分の感覚にあう装飾品を探しに別れていたのである。
して、ミズキは一人で王都を闊歩していた。
昼を過ぎても王都は相変わらず賑わいを見せていて人通りが絶えない。
しかし、その人通りは昼前と比べて様変わりしていた。
商人や騎士風の格好をした人が目立っていた昼前に比べ、祈祷師の姿が目立っていた。
黒と白を基調としたいかにもな修道服を装った彼女らの姿は王都を遊覧しているように見える。祈祷師同士で歩く者もいれば、付き人らしき剣をもった者ものもいる。
リリィやササキ、メグチからも聞いたことだが彼女たちは巡礼のために訪れている。
巡礼とは聖地、聖域ーー加護のゆかりある地を世界中お祈りしてまわるものだ。
大通りで見かける彼女たちは王宮にある聖域に用があるのだが、オルファナスは王位継承式を前にして一時的に封鎖しているのだ。そのため、彼女らは王都に留まっている。
王位継承式が終われば開かれるのだ。その合間の余暇を彼女らは王都を楽しんでいた。
しかし、ミズキは思う。
大通りで見る祈祷師たちは、最初に抱いた印象と違い普遍的だ。
普通の少女と同じように笑ってるし、先程のミズキたちみたいに純粋に王都を闊歩している。
最初ーーそれは屋敷で見た祈祷師ルナリアの表情だ。死を前にして尊ぶ彼女の姿は如何に不気味だった。
聞いた話では祈祷師はどこか狂ってる部分もあるのだと。ルバートは特にそれを揶揄していた。
しかし、ルナリアに関しては夜を越えた日にて印象は変わってる。彼女は特殊であったが、普通の心情も持ち合わせているのだと思慮していた。
王都の街並みに思いを馳せるミズキは、大きく王都の空気を吸い込んだ。
心の中で気合いを入れて、ちょっとしたミニゲームに興じる。
なんて、意気込んで大通りを踏み込んだところで、ふと足を止めてしまう。
「なにこれ! こんな物をアタシに売りつけるわけぇ?」
馬鹿でかい声がある店先から聞こえた。
文句のような、辺りを気にしない豪奢な大声にミズキだけでなく他の通行人も、足を止める。
「ねぇ、ファルマ? アンタはどう思う?」
店先にはガラスの前で、ガラス越しにある商品を指差してしかめっ面の少女がいた。その隣には彼女よりも背の高い淡い緑色の髪を束ねた女性が長い耳を傾けながらいた。
長耳の女性に問いかける意地悪そうな少女の合間を不安そうに目をキョロキョロさせているのは気弱そうな店員だ。その返答次第で、自分はどうなるのだろうと考えているのかもしれない。
「そうですねぇ」
長耳の女性は一考し、背に携える矢筒と弓を担ぎ直して商品の方を指さす。
「私はこう言うものには疎いものでハッキリと申し上げられませんが、私にはよく出来てると思いますが?」
店員をフォローしたのか凛然と言い張る。
店員が彼女の言葉にホッとしたのも束の間、その隣の少女はさらに瞳を鋭くさせてこちらを睨んでいた。
「アンタねぇ、よく出来てるですってぇ?!」
次に怒声が飛んでくる物だと思い店員が身をかがめたが、少女が言った言葉はまったく別の言葉だった。
「完璧なのよっ! このネコのガラス細工!!」
「へ?」
店員は思わず素っ頓狂な声が飛び出した。
「形や色合いはもちろんなんだけど、このなめらかな曲線、わかる? なめらかな曲線っ、ネコには必要なものでしょ。それをしっかり表現できていてね。とにかく完璧なのっ!」
急にパッと面を明るくさせたと思ったら、饒舌に商品であるネコのガラス細工をベタ褒めしだした。
店員は終始困惑しており、賞賛を素直に受け止めずにいたが、長耳の女性が彼女の耳元に大変喜んでいるのですよ、と耳打ちしていた。
そんな商品を前にして目を輝かせる少女に長耳の女性は柔和にいう。
「では、お買い上げで?」
「ええ、もちろん! あ、家に送ってもらえる。別宅じゃなくてカシュのとこね」
「あ、あ……はい!」
やっと我に帰った店員はそそくさと店の中に入りその準備を始めた。
ただのややこしい現場に、周囲は散り散りになる。ミズキだけ、なんとなくその場をチラッと見ていた。
すると、楽しげに長耳の女性と会話する少女がこちらに気づく。
向けられた視線に当惑していると、少女はにやりと笑って近づいてきた。
「あら、アンタ、フィロルドんとこの近侍ね」
ふふんと鼻を鳴らして背伸びしながら少女はいう。
「知ってるの?」
困惑しながらも、尋ねると少女は得意げに話す。
「当たり前でしょ。フィロルドは色んな意味で有名だし、何よりアタシ」
と、区切りその場でくるりとサイドテールを揺らしながら回ると小さく会釈していう。
「カシュ・ミミ、王都招来を受け参上した姫だから」
リリィ以外の姫の登場にミズキはしばらく開いた方が閉じなかった。




