王都の街並み・1
ーーーーて。
ぼんやりと声が聞こえる。囁くようなそれに身体がむず痒い。
ねえ、ーーきて。
意識ははっきりとしない。ただ声がなんだか小煩く聞こえて耳を塞ぎたくなる。次の瞬間、
「ねえ! 起きてっ!」
バッと、大きな声と共に布団を剥がされてベッド上でだらしなく眠るミズキの姿が露わになる。
窓から注ぐ光に当てられ、眩しいと思いながら肢体をくねらせて瞼をゆっくりと開く。すると、そこには頬を膨らませてこちらを見下ろしているリリィの姿があった。
最初に疑問が頭を過ぎる。どうしてリリィがここに? なんていう疑問は徐々に覚醒していく頭が状況を判断していった。
「リリィ……」
反射的に彼女の名を呟いた。
ミズキを見下ろす彼女の面に笑みが作られ、呆れたように息をつかれた。
「もうだらしないんだから……」
嘆息をつく彼女の顔は笑っていた。
ミズキはしばらくぼんやりとしていて、口元にだらしなくよだれが垂れていることに気づいていない。目の前の彼女がクスッと微笑んだところで、自分の口元に付着したそれを急いで拭った。
「ああ、そっか」
と、状況を理解しミズキはこの一日を始める言葉を紡ぐ。
「おはよう」
「うん、おはよう。ミズキ」
今日は王都に来て最初の朝だ。昨日の馬車での揺れのせいか、疲れて爆睡していたようだ。
だらしのない顔を見られ、思い出したように赤面するが、それを見てリリィがいう。
「ミズキの寝顔新鮮だったわ」
「新鮮って、あんまりいいものじゃないよ……」
寝顔を見られるのにあんまりいい気はしない。まして、よだれまみれの寝顔なんて新鮮どころか不細工だと思う。
「いいものだよ。だって、いつもはミズキが私を起こしてくれるじゃない」
「それは、まあ」
と、歯切れ悪くいう。屋敷ではアメリアに起こしてもらった上で近侍の仕事をしていた、とは言えない。
屋敷で見ていたリリィの寝顔はまるでお姫様。まるで、なんて失礼だろうけど綺麗に仰向けで小さな鼻息を立てて眠る姿は姫だった。
その姿も、別荘では見れないんだろうな、なんて考えて言葉を続ける。
「今日ってあれだよね」
話題を変えていうと、リリィは目をきらきらさせていった。
「そうだよ! まったくミズキはお寝坊さんなんだから、もうみんな待っているんだよ」
「あはは……ごめん」
苦笑していう。
今日は王都の初日にして王都を見て回る約束だ。リリィだけでなく、警護について来たササキや別荘の使用人メグチの三人で回る話。
そんな大切な約束を寝坊という形で時間を削ってしまっていた。
リリィはベッド上から降りて扉の方へ向かう。出る際に、彼女は悪戯な笑みを向けて発す。
「早く身支度して一階の食堂で朝ごはん食べたら行くよ。王都は回るところいっぱいあるんだからっ! 遅かったら、足を舐めてもらうからね」
そういってミズキの部屋から出ていった。
彼女が部屋から出ていって、ミズキは緊張が解けたように大きく息を吐いた。
騒がしい一日の始まり、けれども心はどこか浮きだっていた。
お姫様がそういうのだから、出来るだけ早く身支度を終わらせて食堂に向かうとしよう。足を舐めさせられるのは嫌だから。
ミズキは息巻いて、ベッドから飛び降りてお姫様の機嫌を損なわせないよう急いで準備をするのだった。
いつも閲覧ありがとうございます!
ブクマ登録&評価ありがとうございます!!
章が始まり、更新を不定期で続けていますが、
この章の終わりまで更新が続くといいな。。。




