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イヴの世界  作者: あこ
一章 ここが私の新世界
33/107

壕での会議


 会議の始まりではミズキの初耳な部分が多く、それはミズキが逃げるように眠り夜中に醒めるまでに、起きた出来事が話された。

「王都からの使者?」

 話の起点となったのはアメリアからであった。

 ササキの訝しげな眼差しにアメリアが率直に答える。

「今朝の話です。王都から使者を名乗る人物が訪れてきたのです」

「一人?」

「ええ」

 ササキはアメリアの答えに、考えをあぐねる。

「それは不自然じゃないですかー? 使者とて付き人を従えているはずでは?」

「私もそうだとは思いましたが……」

 ヘレナがそう前振りした上でいう。

「使者は、先日アメリアさんが王都で直接伝達を受けた王位継承式のお話をされに訪れに来たようで。付き人についても継承式の参加表明の確認だけとのことで連れてきてはいないとおっしゃっていました」

「時期的な不自然さはなかった、と」

 ササキは再び考える。

「はい。その使者も先日私が王都へ訪れた際にお会いした方でしたから」

 と、アメリアが補足した。

「使者の来訪……、それが偽物だった……」

 ササキがそう呟くようにいうと、アメリアとヘレナは顔を伏せた。

「はい……。その使者とはリリィ様と私が同席していたのですがその場に突然現れたのです」

 アメリア意外が彼女の言葉を待った。緊張が走る。そして、アメリアはまるで怖いものでもいうのにそれを発した。

「呪術師メシア」

 場に驚嘆がひしめく。そして、顔を青ざめるものまでいた。

「そ、そんな嘘……」

 ササキの隣で固まっている傭兵の三人の中でポニーテールの子が口元に手をあてがって驚きをあらわにしていた。

「メシアって魔術師協会が二世代にわたって目の敵にしている呪術師ですよねー。なんで、そんなのがクラクに来るんですかー」

 ササキは緊張感のない口調でいう。

「わかりません……。その狙いだって、どうしてリリィ様なのかも……」

 ヘレナが困惑気味に言った。

 ササキはしばし沈黙してから、皆に向かっていう。

「まあ、いいですー。話を続けましょう。相手があのメシアだとして、どう対抗するか」

 彼女の一声に、皆思慮する。けれども、メシアと聞いた皆の面は暗い。

 ミズキはメシアがどう言った存在なのか具体的に知らないものの、あの黒いワンピースに身を包んだ冷徹な女性だと推察する。白銀の魔女とミズキなり呼称した相手。彼女がそのメシアなら、ミズキはその相手に言い知れぬ恐怖を抱いていたのだ。

 あんなのを相手にするなんて無理だ。ミズキの中ではそう結論付けていた。

「……メシアはルラ様の住う部屋を封印するほどの呪術師。まともな策では対抗できません」

 そうキッパリというアメリア。そして、ヘレナが続いていう。

「だからこそ、ルバートさんに頼る他ありません」

「結局、そこに帰結するか……」

 ヘレナの言葉に、アルマが気難しそうに顔をしかめた。

「あ、あの王都からの救援を頼むのはダメなんですか……?」

 ササキ率いる傭兵三人娘の一人、ツインテールの気弱そうな子が恐る恐る意見を述べた。

「王都には駐在の騎士がいますし、王都仕えの騎士はメシアにも対抗できると思うんですけど……」

 と、彼女は続ける。それにメアリーが少し困ったように答えた。

「それなんですが……、すでにクラクからの要請はあったと不可解な回答を頂いておりまして……」

 メアリーの目がアメリアの方を一瞥する。

「どういうことですか?」

 アメリアがその意味を問う。

「ええと、ですね……。リリィ様の伝達を受け、住民の避難をササキさんたちと誘導している際に王都へ緊急要請をしたのですがすでにその要請は受けていると言われまして」

「な、なんですかそれ!?」

 ヘレナが少々前のめりになってメアリーを詰問する。

「わ、私にもわかりません! ……そ、それも要請を受けた内容が、死者が魔獣に襲われ亡くなったため祈祷師を一人との内容だったみたいで」

「はあ? なんだよそれ!」

 ササキ率いる要請の一人、三つ編みの子が高圧的にいう。

「それで王都は誰をこちらに向かわしていると言ったのですか?」

 野次を無視し、メアリーに話を催促するアメリア。メアリーが一呼吸を置いて続ける。

「えと……祈祷師のルナリア、そして祈祷師の付き人として騎士を一人向かわしている、と」

「その騎士は?」

 ヘレナは内容を追って聞く。

「……ギルバート・アリアです」

 メアリーの呟くように言った名前に、唖然とする面々。ササキがため息を漏らしていう。

「よりにもよって酩酊の騎士ですかー……」

「酩酊の騎士?」

 ミズキが疑問する。

「騎士には二つ名が付き物なのです。騎士としての実績や風体からその名は付けられます。しかし、彼女の場合は二つ名というよりは忌み名ですが……」

 アメリアがそう説明してくれる。

 酩酊の騎士。ギルバートといえば、前回裏道を通っている際に遭遇した酔っ払いの騎士だ。確かにその二つ名は彼女にぴったりだ。

 だが、周囲の拍子抜けしたような反応からしてあまり良い騎士でないのを伺える。ミズキが会った時はそんな印象はなかったが。

「剣を持たず酒瓶を握る騎士が魔術師協会が百年以上かけて追ってるメシアを相手にできるんですか……」

 気弱なツインテールの傭兵が弱々しく言った。

「そうだぜ!」

 と、同調するのは高圧的な三つ編みの傭兵だ。その隣にいるポニーテールの傭兵がうんうんと頷いていた。

「……改めて要請はできないのですかー?」

 三人の傭兵をまとめているササキがメアリーに冷静を装って問う。

 メアリーはまた意味ありげにアメリアの方をチラと見て答える。

「緊急時の要請は一日に一度しか受け入れてくれないそうで、呪術師襲撃の旨を伝えても騎士を向かわしているからそちらで対処してくれ、と。それに……」

 と、メアリーは言いにくそうにしているとヘレナが感づいて続けた。

「ルバートさんがいるから、ですかね」

 メアリーが小さく頷いた。

「当人がいないから困っているんですけどねぇ」

 アルマが呆れたようにいう。

「それで誰がそのような連絡をしたのですか?」

 アメリアが事の発端を問う。メアリーは悩んだフリをしていう。

「アメリアさんですよ……」

 皆の心緒が揺れる。一斉に、アメリアに視線が集まる。しかし、アメリアも驚いて唖然としていた。

「だ、だから不自然なんです! アメリアさん、捕まっていたはずなのに、どうしてアメリアさんが連絡したなんて……」

 当惑気味のメアリー。皆も混乱する。

 その中で、その真実に近しい回答を持つミズキが口元を震わせて場に触れ込む。

「名前のない少女……」

 その一声に、皆がたじろいだ。

「そうですね。それなら全て納得いきますね」

 ミズキに協調したのはヘレナだった。

「王都の使者に化けて近づき、アメリアさんに化けて王都に連絡を取る。連絡なら屋敷に姿見の対話がありますからそれで王都にアメリアの姿でしたのでしょう。そのほうが信頼されますからね」

 ヘレナは淡々と今回の大まかな流れを推測していう。

「メシアだけでなく名前のない少女まで……」

 高圧的だった三つ編みの傭兵が弱気に言った。

「ミズキ、よくわかりましたね」

 ヘレナがミズキを褒める。

 ミズキは咄嗟の事に驚くが、謙遜して返す。

「い、いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 前回の記憶のおかげでそうした導きがでているわけで、まともな貢献ゆえではない。

「わ、私が見たのはヘレナの偽物だったから……」

 と、ヘレナではない人物から推測したのだと最もな理由をつけるが、それがすぐに軽率な発言だと気づく。

「私がミズキと会ったのは今夜が初めてですが……」

 そう言われ、そうだったとつい口元を塞ぐ。

 そして、とっさに思いついた言い訳をする。

「直感です! 直感で変だなって……」

 ヘレナの無表情ながら訝しげな眼差しが突き刺さる。

 すると、ヘレナは珍しく口角から笑みをこぼしていう。

「直感ですか……。くすっ、その直感大事にしてください」

 そう言って視線はミズキから皆の方に向き直った。

「王都からの救援が期待できない以上、ルバートさんを探す他ないでしょう。彼女でなければリリィ様を奪還することも呪術師を打倒することもできません」

 ヘレナの訴えに、ササキは難しそうに頷いた。

「そうみたいだねー……」

「問題はどう探すかです」

 メアリーがそういう。

「ええ、壕で待機し警護する者。結界の補填に尽力する者。そして、ルバート様を探す者。その分担を精査する必要があります」

 アメリアが問題に切り込んで話す。

「ルバートさんを探す人は見つけ次第、そのまま屋敷のリリィ様を助けにいかないといけません」

 アルマが分担に詳しく補足して言った。

「そうですねー。正直に人数配分は難しい部分があります」

 ササキは目を瞑って考える。そして、その難しい部分を話した。

「呪術師が街を襲わないとも限らないから壕の待機人数はできるだけ多く欲しいし、結界も欠損がわかり補填をここで行える部分は良いですが屋敷の裏道が欠損している場合直接向かって補填しなければならないのでそれに割ける人数も欲しい。そして、ルバートさん捜索はそのまま屋敷に行くとしても相手が相手なだけに少ない人数だと心許ないですねー」

 ササキは一息で話した。

 皆考えるが、最善の回答は見当たらない。特にルバート捜索の任を名乗りあげようと思うものはいなかった。

 ルバート捜索は同時に呪術師を相手にすることとなる。相手がメシアとくれば、そう簡単に名乗りあげるのは藪さかであった。

「ところで、戦闘で前に出られる使用人は?」

 ササキは考えを進めるために、アメリアに問う。

「ヘレナとアルマだけです」

 アメリアは端的に答えた。

「そうかー……」

 答えを聞いたところで、状況が定まるわけではなかった。

 考えが息詰まったところで、ヘレナが名乗りをあげた。

「私がルバートさんを探しにいきましょう」

「ヘレナ……」

 メアリーが不安そうな眼差しを向ける。

「……大丈夫ー?」

 心配するササキ。ヘレナは淡々という。

「誰も行かないのなら私が行きます。ここらの地理も詳しいですし、この夜道でも役に立つかと」

「一人で行くのか?」

 アルマがそう尋ねる。

 すると、ヘレナはミズキの方を一瞥した。ミズキは一瞬嫌な予感がかすめるが、どうやらその予感は的中するようで。

「いえ、ミズキを連れて行きます」

「え……」

 ミズキは呆気に取られる。

「良いですね、ミズキ?」

 有無を言わさぬ物言い。無表情ながら圧をかけてくるヘレナ。

 押しに弱いミズキは反射的に首を縦にふるしかなく、ヘレナについていくことが決まる。

「ヘレナ、彼女を連れて大丈夫なのですか?」

 アメリアがそう心配するが、ヘレナは問題ありません、と一蹴する。そして、ヘレナがミズキを選んだ理由を口にした。

「ルバートさんを探すにはミズキの直感が役に立つ気がするので」

 と、ヘレナはこちらをみる。

 そう言われても、前回ルバートを見たことはない。ミズキの直感は、ただ前回で見たことをなぞっているだけであってあてにはならない。

 罪悪感のある信用に、複雑で仕方ない。

「じゃあ、決まりだねー」

 ササキはそう締めた。

 一番決まらなそうだったルバート捜索の班が決まり、他の役割もすんなりと決まる。

 壕での会議は終わり、ミズキはヘレナに連れら壕の外へと出る。

 アメリア、メアリー、アルマの使用人三人に見送られ、ルバート捜索へと出るのだった。

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