強制の首輪
姫様らしき人物は不敵に笑っていた。間違いなく、純粋たる瞳の奥に眠る軽侮は私を見下ろしていた。
「奴隷……?」
突拍子もないことに、私は不意につけられたチョーカーに手で触れてたずねた。
「奴隷は、奴隷です。その首輪はその証」
「は、はあ……」
なんと反応すればいいんだろう……。可愛い純粋そうな少女から、まさかの女王様のような宣言を食らうとは、まさしく面を食らった出来事なんだけど、ただ首輪をつけられて奴隷といわれてもイマイチ呈のよい反応は見当たらない。怯えればいいのか、反逆すればいいのか。どちらにせよ、右も左もわからない私は彼女の言葉を待つしかなかった。
「そういえば、貴方のお名前はなんですか?」
出会い頭に首輪をつけて、奴隷にさせてきておいて今更名前ですか……。
「私の名前は……ミズキ」
先ほど、ルバートがつけてくれた名前をかたった。
「ミズキですか。パッとしない名前ですね」
「それはルバートに言ってよ……」と、文句を言った。
「なぜ、そこでエリザベスが出てくるのですか?」
純朴な眼差しで疑問する姫様の言葉に惑っていると、中庭に第三者が登場した。
「ここに居られましたか、姫」
こちらを見つけて駆け寄ってきたのは、あのむさ苦しい甲冑姿ではなく質素なドレスローブ姿のルバート・エリザベスだ。
「あら、エリザベス。遠征ご苦労様。貴方のお土産、丁重に受け取ったわよ」
「土産を用意する時間はありませんでしたが……」
と、嬉々としていう姫様から視線をこちらに向けると驚いた顔をする。
「あれは<強制の首輪>ではありませんか! 姫、ルラの宝物庫から持ち出したのですか?!」
「そんなにカッカして言わないでください。警備の甘いルラが悪いのです。それに、この宮殿はとても退屈で面白い場所といえばそこしかありません」
と、姫様は特に罪悪感を見せるどころか不平を漏らした。
にしても、<強制の首輪>ってなんだろ……。名前からして、人権なさそうな予感がするんだけど。
すると、ルバートは大きくため息を吐いてこちらをじっと見た。
「ミズキ、うちの姫が至らぬことをしてしまった……」
彼女は自分の娘が悪戯をしたのを嘆くように謝罪の意を示してきた。
「い、いや、別に大丈夫です……」
悪いことだろうけど、とりあえず断っていった。
「……それは強制の首輪の中でも特別製なのだ」
「特別製?」
そうたずねると、代わりに悪戯な姫様が答えた。
「<ローヤルカラー>って言うのですわ、ソレ」
「ろーやるからー?」
阿呆な振りで聞き返した。
「まあ、わかりやすく実演をするなら――」
と、姫様は噴水の岩作りの淵に腰を下ろした。すると、彼女は急に革のブーツを脱いで、靴下も脱いで裸足になった。そして、彼女はこちらをニコっとした目で見つめてくるとそれを口にする。
「ミズキ、このフィロルド・リリィの足をお舐めなさい」
……えーと、この姫様はいきなり何を言っているのかな? フィロルド・リリィ、それが彼女の名前らしい。リリィは純潔っていう意味があるんだけど、純潔とは程遠い行為を要求してきた。
「はあ……?」
と、私は当然の如く困惑の意図を示すわけだけど――ルバートはこちらを見遣って目を離さなかった。
「姫……」
「黙ってください、エリザベス。ローヤルカラーが本当に効力があるか試しているだけなのですから」
「それにしては、傲慢な注文をなさる……」
そう姫とのやり取りに、ルバートはうなだれた。
効力って、私が姫様の言いなりになるって言うの? そんなわけないじゃない……。
「……あれ?」
ふと、変な思いが込み上げた。姫様の滑らかな素足を見ていると、どうにも触れてみたいという欲求が出来上がったのだ。意図しないことで、私の顔色は熱く、赤らめた。
「あら、どうしたのかしらミズキ? そんなに私の足を眺めてもツマラナイわよ。その手で触れて御覧なさい」
姫様は屈託のない笑みを浮かべて、スッと足先を伸ばしてきた。つま先が私の腕を伝う。私の手のひらの上につま先をツンと立てられる。いつの間にか、私は彼女の近くに傅いて膝を折り曲げ寄っていた。自然と伸ばした腕に、彼女の素足が踊る。
傲慢な姫様の素足を見せつけられているという状況は、如何に嫌悪なる瞬間である。同性であるし、それに性的興奮似た情動を得るなど偏に変態と然るに等しい。しかして、当の私にそのような常識を図る思考を持ち合わせておらず、無性に舌先を伸ばして素敵な素足へと近づけていた。
「我慢などしなくて良いのですよ。私がそう命じたのだから。あなたの思うままに、舌を這わせなさい」
彼女の艶やかな声で、ついに理性は崩壊した。
彼女の足裏を初めに、舌先をなぞらせた。触れた瞬間に、足裏の皮膚がプルっと震え、同時に姫様の小さな吐息が鳴った。徐々に舌先をピンと伸ばしていき、足の平から登って足指を味合う。くすぐったいようで、足指は開閉を繰り返していた。
特に、足指の隙間ではピリっとした味覚を感じられた。酸っぱい味だ。臭いも、そこまで良いものはとは言えない。所々に、汗の臭いを感じるのだ――だが、私はそれさえ美味だと必死に舌を這わせていた。
「そんなにがっついて、余程私の足が気に入ったの?」
姫様はそのような質問をするけど、私に正気なんてなくて、ただただ足を貪っていた。
「……サバー」
突如、呪文のような言葉を聞く。と、私は拍子に今、姫様の足を舐めている事に気づき飛んで姫様から離れた。
「わっ……、な、なんで、私、姫様の足舐めているの!?」
「あら、残念」
と、姫様は悪びれなく足先を撫でていう。
「その辺にしろ、姫。もう効力はわかっただろ」
「ええ、エリザベス。どうやら、ローヤルカラーは記憶も残るみたいね」
彼女は、私の真っ赤になった顔を見ていった。
足の湿ったい味がまだ頭の中に残っている……。舌も痺れて、必死で足を舐めまわしていたなんて信じられない。だけど、私にはその感情や興奮までもが余韻として残っていた。正直、あの素足で挑発されると、それがまたフラッシュバックしそうで怖い。
姫様はこちらを不敵な笑みで見ていた。しばらくして、彼女は素足を隠して元のブーツを履いた。
「エリザベス! 私、ミズキを気に入ったわ!」
「姫……」と、少し不服な様子を見せるルバート。姫様は、それに反して、キラキラとした眼差しをしていた。
「もうローヤルカラーをつけてしまったもの。<強制の首輪>は絶対服従と同時に、主従関係の契約のアイテムでもあるのです! だから――」
――彼女は、フィロルド・リリィは最初に感じた印象である純朴な少女のような愛らしさをこちらに見せた。
「私の奴隷になって、よろしくね。ミズキ」
その言葉に、私はすんなりと頷く。
その返事が、強制によるものか意思によるものか。情緒さえ残ってしまう異質なアイテムのせいで、判然とつかぬ話だ。だけど、私は、きっと自らの意思で彼女に付く事を選んだ。
閲覧ありがとうございます!
今回短いです。。。
なので、近いうちに投稿する……かも?