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イヴの世界  作者: あこ
一章 ここが私の新世界
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エピローグとプロローグ

 憔悴しきった面、諦観を埋めた双眸。肢体は幹に鉄製の鎖で縛られ身動きは取れない。

 剥がれた片方の頬から血はにじむように溢れ、口から絶えず血とよだれを草の上に落とし続けていた。

 痛みはある。熱のこもった痛み。全身に駆け巡る熱は行き場をなくしたように肢体の中でうねり続ける。たかが頬の肉をえぐられただけで、痛みはその箇所だけでない別のところまでもが侵食されたようだ。

 だが、痛みで叫ぶのも死の恐怖に喘ぐのもミズキは諦めたように瞳を伏せている。光を失くした瞳、生きる気力を傍から感じない。

「なぁにそれつまんないなぁ」

 遊びつくした玩具を前にした無垢な子供のように呟くルバート。その凛然とした面から反する発言。そして、軽い調子だ。

 それに疑問を抱く余裕のないミズキに彼女の本性をどうこう考えるのも不毛である、が彼女の本性と建前に大分差異がある事は言うまでもない。

 覇気のない瞳を一瞥して、彼女は思いついたように口角を歪ませた。

「そうだぁ」

 凛とした面持ちなど感じられないねっとりとした言い回しで、彼女は手のひらを縛ったミズキの方に向けた。

 手のひらの気配でも察したかのように、ミズキの肢体はピクリと動くが痛覚ゆえの痙攣も混じった反射のようにも見える。

 じんじんとした激痛はあるだろうに、諦めたように肢体を脱力させている。それでも、口元から拭えない程の血と唾液が混ざって落ちているのだ。

 その様子を滑稽な玩具の一つだと相手は瞳をまぁるくさせる。ミズキの方に差し向けられた手は空に発光を促したと思えば、ミズキを縛る鎖が音を立て解けたのである。

 意図は不明であるが、目の前の相手は意図的にミズキの縛りを解いた。その意図の所在を考える暇もなく、ミズキは本能的に肢体をよろめきさせながらその場から逃げようとする。

 無策で無様。さながら四肢をもがれて蠢く昆虫のようだ。実際は四肢ではなく頬を抉り取られた様ではあるが、なんとも見っとも無い――。

(逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ――、殺されるっ、殺される……)

 まるで、その後の行方を知っているかのように肢体は本能的に逃亡する。丘を手と足を使って下るだけでなく、転倒やコロコロと人たる足を使わずに逃げ遂せようと試みている。

 困惑もある。痛みもある。人である肢体など本能の前には無意味である事をミズキは示している。

 その姿を、すぐに追うでもなければただただ嘲た笑みが突き刺していた。

「あぁーそんな必死になってぇ……。そこまでして生きたいのぉ?」

 彼女の本性が道化のように顔つきを歪ませている。

 刹那、どこからか獣の唸り声が聞こえた。

「――あ」

 フラッシュバック、というのだろうか。それともデジャビュ、だろうか。いや、今のミズキにはそのどちらもが当てはまる。

 聞いたことある獣――いや、魔獣だ。その唸り声を聞いて彼女はいうのだ。

「ああ、お腹を空かせた魔獣が血の臭いを嗅ぎつけたみたいだねぇ」

 知っている。彼女の思惑もこう何度も繰り返せば理解するものだ――何度も?

 ミズキは気づく。今いる場所が、魔獣の巣食う森を見下ろす崖の端だと。

 ミズキは気づく。この状況を、自分のことを、今までのことを――あぁ……道化は私だ。

「なんだい? 諦めたのか?」

 彼女は自分のことを思い出したかのように口調を整えて話す。

 虚ろな瞳を見下ろす彼女の高揚した瞳。呆れたように見えれば、何かに期待するようにも見える曖昧な瞳。ミズキはそれを見て、殺人犯はきっとこんな瞳をしているのだろうなんて考えてみた。

 これからミズキは死ぬのだ。彼女は自分を殺して殺人犯になる。

 意味の判らない世界だ。意味の判らない結末だ。

 世界に投げ出すなら投げ出すなりに最低限の知識と案内をつけて欲しいところだ。死んで、また生まれ変わるならそれだけは守ってほしい。

――あぁ、それは無理な話か。だって、私は……。

 次の瞬間、崖はタイミングを伺っていたかのように崩れミズキを魔獣の森に突き落とす。そのタイミングは夥しい程の魔獣の雄叫びである。

 死ぬ事を知っているはずなのに、ミズキは崖の上に手を伸ばしていた。届きもしないことを知っている。掴めないことを理解している。

 それでも――。

 笑い声が聞こえる。叫び声が聞こえる。同じ声なのに、違う声に聞こえる。

 自分を葬り去る最後の声だ。

 何度も聞いた。けど、これもまた、忘れるんだろう。

――また私は道化を演じるのだ。

 きっと次も…………。




「パパパパーパーパーパッパッパッー♪」

 気味のいいファンファーレを口頭で奏でる者がいた。

「なに、それ……」

 宮崎瑞樹はその者については見慣れた景色だった。者とはいえ、ハッキリとした姿ではなく概念的な者としてそれを捉えていた。

 いつもは何を言っているのか。どのような姿をしているのか。夢らしく、夢として知覚もできない景色として終わるものだったのだが、今回は違った。

 ファンファーレから始まったこの空間。概念的な者だったものは白い空間から人を作り出すように浮かび上がった。

 瑞樹は当惑して、色のない瞳を丸くさせた。そして、目を凝らしてその姿を見定めた。

 概念は人の形を作り出す。まずはその顔、色香を漂わす妖艶な面。ニッコリと笑うだけで他者を魅了するほどの美貌。何もない白い空間だからこそかその妖しさは一層際立って見える。

 そして、姿。白い空間とは真逆に黒いドレスを着た姿。本当に黒一色のもので、飾り気をつけたような色の入りすらない。まるで、この空間の色に合わせたような色合いだ。

 現実では不気味な存在にほかならない。だが、ここでは幻想的な存在だと魅入ってしまう。

「初めて、ではないのだけれど。やっと会ってお話ができますね。愛おしい人」

 子を見る母の顔で笑みを作る相手の女。ここまでハッキリと聞こえ、姿まで視認している。

 今更、違和感や疑問を抱くことではない。そもそもこの空間自体が謎であるし、それを思考し把握しているのも不明だ。まるで、現実のような感覚。それがこの白い空間での常識だと受け入れている。

 して、これを夢の一端だとも認識しているため瑞樹の態度は至って冷静である。

「あなたは誰なの?」

 思いついた質問を投げかける。しかし、質問の後、これが陳腐なものだと気づく。少し思考を回らせば、彼女が誰くらい想像がついている。

 彼女の返答を待つ間もなく、瑞樹は呟く。

「……死の加護」

 相手の女は不敵に笑みを傾けた。

「そんな呼ばれ方もされていましたね」

 死の加護は、その名を認めるように頷いてみせた。

「あなたのせいなの……?」

 神妙な面持ちで問う。

 死の加護は一瞬困ったように面を歪めてから答える。

「この場合の『せい』に答えるなら半分だけと答えましょう。もう半分は面倒な事柄が介入してしまった。その『せい』です」

 瑞樹は彼女の言葉を熟考する。

 名前の通りの加護――具体的な力は不明だが『死を繰り返す』という意味合いではその加護の通名に値する。して、違うと応えた部分それは記憶についてだろう。

 記憶に関しての問題は瑞樹も覚えがある。幼い風貌をした魔術師を名乗るルラから教えてもらったことだ。『記憶逃れの水滴』と謳う宝物をルバートに渡していた事、そしてその宝物が記憶を消す事に由来している事も。

 瑞樹はこの事柄すら、死の加護の掌の事だと勝手に思い込んでいたがそうではないらしい。

 彼女は面倒な事柄という際、呆れたように面を歪めていた。それは彼女にとっても想像だにしない事態だったということだ。

 しかし、これで確定した事実がある。

「私、何回死んだの?」

 回りくどい確認の仕方だ。不思議な事に、何回死んだなんて訊くことになるなんて。荒唐無稽も甚だしい。

「あら、覚えていないのですか?」

 彼女は馬鹿にするように言ってくる。

 そのイタズラに瑞樹は面倒臭そうに面を歪める。すると、彼女は宥めるような笑みを作って淡々と告げた。

「七回です」

 回数を聞いた途端、その記憶が逡巡した。

 夢なのに汗を掻くような感覚。夢なのに呼吸が荒くなる感覚。痛みが頭の中で反芻している。

「具体的にどうやって死んだか? どうやって苦しみ果てたか、答えましょうか? まあ、どれも同じような死に方をしているのですけど――」

「やめてよっ!」

 声を大にして叫んだそれは白い空間では響かない。澄み切って、相手の無頓着な面に届く。

「なんで私なの?!」

 響かない空間で必死の糾弾。感情的なそれに相手は子供を見るような笑みを向けていた。

「……なんで? やめて? あぁ――」

 相手は瑞樹の言葉を繰り返していう。そして、光悦を浮かべた。

 本能的にゾクリと、まるで刃を喉元に突きつけられたように緊張する。

「やっぱりお前を選んで正解ですね」

 瑞樹に他人から愛慕や恋慕といった家族以外から向けられるそれを経験した記憶はない。だが、彼女の面がそれに値するものだとすれば、これほど狂った笑みはないのだと思い知らされる。

 きっとストーカーやサイコが向ける狂った愛。瑞樹は改めて加護について考えさせられる。

 今一度、なんで、と疑問と恐怖混じりの当惑を織り交ぜた瞳に相手はくすりと口角を歪ませて語る。

「なんで? とお前は聞きましたね」

 死の加護はそういって話を続ける。

「いつ死んでもいいような眼で怠惰な日々を過ごしていたお前」

「……は?」

 不意を突かれた声が出る。いきなり、昔話をされればそうなるのも仕方ないが、彼女の語る表情は乙女のそれだ。

「なぁんの努力もせず自分の意思もなく、周りに流されて逃げやすい方向に逃げ続け、挙句自らの立場を周りのせいにする」

 内容は瑞樹にとって忌わしいものだ。他人から説諭されて当然の文言のはずなのに、彼女は恋心の色に頰を染めて嬉しそうに語る。

「一人になって、誰からも忘れられて、お前は死ぬつもりで屋上まで走ったはずだったのに――」

――やめて、やめて……。

「死ななかった。死のうとしなかった。お前は――踏み出さなかった」

 悦を浮かべた面。責めているような言葉とは裏腹、まったくもって倒錯ぶった素振り。

 不意に、瑞樹は聞こえないフリをするように両手で両耳を閉じた。

 そのまま瑞樹は震えた声で問いかける。

「じゃあ、あの時……私を突き落としたのは……」

 一間を待って、相手は嬉しそうに応えた。

「私ですよ」

「――っ」

「まあ、お前が自ら踏み出す人柄ならこの場にいなかったでしょう。あれはお前がこの世界に相応しいか見極めるための儀式、そしてこの世界に召喚するための手段でもあったのですから」

「な、なによそれ……」

 宮崎瑞樹という存在事態が消失し、その結末に死を起点として異世界へ召喚。

 死を起点にした異世界召喚など在り来りな創作物だ。とはいえ、この結果をもたらしたのは相手――死の加護の他にいない。

 たださらりと彼女は恐ろしいことを述べた。

 もしも宮崎瑞樹が自ら死を選びあの時屋上から飛び降りていれば、単なる死を迎えていただろうという話し。

 瑞樹は己の醜悪さが結果的に不自然な生を受けている事実に複雑さを覚えた。

「あぁ、お前を突き落とした時、お前はそれでも天空に手を伸ばして哀れな瞳をしていて。それはもう素敵な姿でしたよ」

 彼女は綺麗な思い出を振り返るように瞳をキラキラさせていう。

 瑞樹にとってはただの皮肉にしか聞こえない。が、こんなどうせ忘れる夢での出来事が不毛なのを瑞樹は知っている。

 諦めたようにため息をついて、目を瞑っていう。

「もういいよ……、どうせ忘れるんだから」

 こんな話、忘れる。目を覚ますと、屋敷に来たばかりの記憶喪失の少女として一日を過ごすことになる。そして、その一日の最期は死ぬ。無意味な時間が待っている。

 と、諦観したように息を吐くと相手はポカンと首をかしげた。

「おや、せっかくレベルアップしたのに」

「は? レベルアップ?」

 急な用語に当惑する。直感的に、この夢の始まりであったファンファーレが直結するのかと考えた。

「お前の世界で分かり易い用語で言いましたけど、この世界では加護の成長と言います」

「……成長って」

 加護自体がそもそも理解に乏しいのに新たな設定に困惑する。この七回の生死の間に得た加護についての知識は似たり寄ったりのものである。

 刹那、瑞樹は本能的に不穏な空気を感じ取った。

「では、もう一度。パパパパーパーパーパッパッパッー♪ ステータスは微塵も上がりませんでした。知性も筋力もまったく。ですが、新たにスキルを得ました! そのスキルは……」

 彼女の白い空間の緊張感を気にもしない的外れなテンションに気圧され、ゴクリと喉がなる。

「そのスキルは……」

 バラエティのようなノリで引っ張る。今の空気感には相応しくないのに、それを無視した態度は逆に顔が強張り構えてしまう。

 そして、ついに彼女はそれを語ろうとした。

「――――あ」

「は?」

 彼女は確かに口にしたはずだった。口を動かしたそれを語ったはずだった。なのに、それは彼女と最初に会った時みたいに曖昧でふんわりしたもののようにうまく瑞樹の頭の中に入ってこなかった。

 あっけに取られたが、それは彼女も同じのようだった。

「まだ制限があるのですね」

 彼女は残念そうにいう。

 訝しげに彼女を見つめるが、彼女は笑みを零すだけで詳しくは話してくれなかった。制限から察するに、もしかしたら話せないだけなのかもしれないが。

「そうですね……。お前が目を覚ました時、その効果がすぐに判ることになるでしょう」

「……はあ」

 瑞樹もバカではない。流れからして、スキルがどういうものかを察していた。

 きっと記憶を引き継ぐ、もしくは記憶をそのままに目を覚ますというものだろう。この夢の内容まで覚えておけるのか知らないが、瑞樹は冷静な面差しを見せていた。

 記憶さえあれば、惨い死を回避できる。死を繰り返す系の創作物で、記憶を保持しないなど物語の凹凸を生み出せないものだ。記憶なく同じような結末を迎えていては退屈だろう。

 それに、異世界召喚だと分かればある程度理解のある瑞樹は少し期待も抱く。記憶があるということは、もっとマシに異世界生活を始められるということにもなる。

 少しだけ心労が軽くなる。早く夢から覚めないかな、なんて少女のような空想を抱く。

「……死の加護は死を呼び寄せますよ」

 ルラが話していたことだ。

「死の加護は死を繰り返します」

「何を……」

 彼女は途端に、恋する面も嬉しそうに語る面もせず無表情で話した。

「お前もそう聞いたでしょう」

 瑞樹は頷かず、目を背けた。

「くすっ、私としては不本意というか――魔法や加護の邪推だけがそういう趣意を齎し風聞しているのも事実。まあ、有り体間違っているわけでもないので、風聞を借りましょう」

 気味の悪い笑みだ。なのに、目を奪われる姿だ。

 瑞樹は彼女の思惑を秘めた眼差しに当惑を示した。

「……ああ、もう時間ですか」

 彼女がそういった途端、瑞樹に眠気がやってくる。

 強烈というほどではないけど、ゆっくりと深遠に落ちていくような。頭がぼんやりとして、思考も動きも脳から制止していっているみたいだ。単に眠るではなく、これは現実への覚醒だと本能的に理解した。

「最低限伝えたい事は言えました。私に何か申したいというのなら、『この死』を乗り越えて会いにきてください。その時ならば幾分か答えられなかった事を答えられるでしょう」

 彼女の言葉がまばらに聞こえる。散文していて、耳はそれを聞き取れていないはずなのに頭や耳ではない感覚が彼女の言葉を記憶していた。

「会いにきてってどこに……?」

 不意に、この世界から消え現実に戻ろうとする瑞樹はそう口にした。

 彼女は応えるように微笑を面に刻む。そして、口を開いた。

「お前はその場所をもう知っていますよ」

 それはこの白い場所のことなのかほかの場所を示すのか。彼女の含んだような様を自然と受け入れていた。

「…………そろそろですね。お前はまた『あの瞬間』に戻ります。ですが、今までと違います。すべての記憶を戻してお前は戻るでしょう」

 彼女は区切りをつけて話す。

「お前はここでこそ普通でいられていましたが、戻った時、お前は身体と精神の差異に狂うかもしれませんね。でも、それも乗り越えてこそ――――なのです。……あ」

 彼女はまた自分の言葉に違和感を得て、苦々しい表情をした。

「加護とは面倒ですね。どうしてわざわざ祈ってまで加護になろうとするのか理解できないです」

 彼女が口にしたのは自分を否定するような発言だ。その真意を問おうにも、瑞樹は話すための口を失っている。

「まあ、いいです。やっと言えますね。回り道をしてきましたけど、最後にこの言葉をお前に送りましょう」

 彼女は見送るように笑みを傾け告げた。

「ようこそ、イブの世界へ――」

 瑞樹は夢の世界から消失した。


      エピローグとプロローグ


 自我はどこにあるのだろうか?

 脳なのか、心臓なのか、魂なのか。どれも曖昧で、哲学的に語ろうにも荒唐無稽だ。自我が身体の部分に宿っているなら、『狂った現象』を理解するなんてありえないだろう。

 ならば、魂に自我も記憶までもが刻まれていて例え身体が死滅してもそれらすべてを覚えている。

 そうでなければ――、

「あ、あ……」

 眩い明かりがベッド上に降り注ぐ。窓から差し込むそれは異世界の門出を呪っているように思えた。

 訥々として出る嗚咽。同時に、胃液がぐるぐると内臓を駆け巡っているみたいで上のほうへ押しあがっているのを感じていた。

 唐突な嘔吐感に口元を押さえた途端に、胃液と胃に残った食物が抑えた手にこぼれながら吐き出す。

「大丈夫ですか!?」

 心配して声をかけるのはアメリアだ。起きて早々顔面蒼白にして嘔吐するミズキの姿を見て、狼狽していた。

 アメリアの心配する声が薄く聞こえる。耳が遠くなっている。まるで宙に浮いたかのような心地の悪さ。

 記憶の混在、そう認識したかったが、どういうわけか。

 すべてを覚えていた。

「がはっ、かっ……」

 覚えているからこそ気持ちが悪い。気味が悪い。

 七回死んだ記憶が、痛みが残っている。

――加護には祝福と呪いがあります。

 不意に、そんな話を思い出していた。

(ああ、そうだ……、あれは……)

 死んだら繰り返す加護。加護は一方的なもの。

(なんで、私がこんな目にあわなくちゃいけないの……)

 すべてを嘆く。この運命を嘆く。

 紛れもなく、――これは呪いだ。

一月ぶりぽよ。

やっと区切りぽよ。

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