屋敷の一日・6
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単刀直入に言って、中庭と前庭の手入れに関してはなぁんも学べなかった。
学べなかった、とは少し語弊がある。屋敷の清掃は各部屋の目に付くホコリを掃いて炭に変えてくれる魔石の入ったゴミ箱に入れていくものだ。単調で単純だが、庭の手入れはそういう区切りとはいかなかった。
花壇の水やりだけなら分かる。これまた生活の必需品たる魔石の登場で、その魔石はジョウロに入れると水が一定量湧き出るものだった。それを使っての水やり。これはわかりやすい。
しかし、草花を綺麗に整えるとなれば入ったばかりのミズキにはその具合も技術もないのだ。当然、見て学べるものではない。それに加えて、ヘレナはその作業を鮮やかに早々とやっていくものだから見て覚えろと言われても俄然無理な話しであった。
それらを終えて、ヘレナはどうですか? なんて聞いてきたが草花の手入れは無理です、と正直に答えると想像通りの呆れ顔で返されたものだ。
彼女の基準は思った以上に高いところにあるようだ。彼女のミズキに対する悪態と相まって、なおのこと彼女に対しての好感度はマイナス方面に進むばかりだ。
現在、指導役として欠点のありすぎるヘレナとは一時的に別れている。それは昼食を取るためである。
ミズキはリリィの従者であるために、食事の時は彼女と一緒に取ることになる。使用人は別で食事を取るため、一旦指導を離れている。
食事については、屋敷の厨房から食膳を持って直接リリィの部屋に届けるのがミズキの役目だ。しかし、それは朝食時の話しで、昼食や夕食は主人や客人専用の食堂で召し上がる形になっている。
ヘレナと別れ、厨房へ赴いた時にはすでに食堂の方に運んでいるとアルマから聞いた。ついでにその旨も耳にしたのである。
補足として、食堂に主人とミズキ自身の食事を運ぶのは従者の役目であるとアルマから教えられた。そこらへんの役目とやらは逐一覚えていくしかなさそうである。
食堂でリリィとの食事。リリィはすでに食堂にいた。彼女は食事が来るまでの時間、読書を嗜んでいた。
食堂にミズキが来ると、どこか嬉しそうな面差しを見せるリリィに若干照れてしまうミズキ。不意に、朝食時に彼女が言った言葉を頭ん中で反芻してしまう。気恥ずかしい所在は、きっとその思慮も含蓄されているに違いない。
それを気にして視線を逸らすと、寂しそうな面差しがちらつくのがまた可愛らしいと内心思うのであった。
もどかしい空気の流れる昼食。その最中の話題はリリィが読んでいた本だった。ミズキから見てみれば文字なのか絵なのか判然としない羅列が表紙に描かれており、題名の分からない本。それがなんだったのか尋ねると、リリィは難しそうな顔をして答えてくれた。
リリィが読んでいた本は王都の歴史書だという。王都とは世界に各ある国の種類のことで、中でもここクラクの属する王都オルファナスについての本だという。
彼女はつらつらと王都オルファナスの歴史を本の内容から引用して語った。伝統であったり行事であったり、どれも輝かしい歴史みたいだった。
ミズキ的にはリリィの事を聞きたい気持ちで、終始微妙な面持ちでいると彼女は笑みをこぼしていうのだ。これから長くいるのだから誰よりも私のことを知るはず、だと。
なんだかかわされた気分だ。彼女は端から自分のことを話すつもりはないらしい。そこに距離を感じる。彼女が自分を信じてくれると言ってくれたのに、随分な倒錯ぶりだ。けれど、それは彼女にとってもそうなのかもしれないとも考えた。
ミズキだって記憶喪失で、自分のことを話すには不十分だ。
距離を感じるが、その関係が今の自分たちにはピッタリなのかもしれないと納得する。
王都オルファナスの整然な歴史を聴き終えたところで、リリィとの食事も終わった。
短ぽよ




