表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イヴの世界  作者: あこ
序章 無垢な少女
15/107

屋敷の一日・4

 屋敷は大きく四つの場所で分けられる。

 屋敷前に広がる玄関もとい前庭。屋敷内にある中庭。屋敷自体、そして屋敷に離れて建てられた離れ。その四つだ。

 前庭、中庭は景観主体の場所で使用人の手入れが求められる場所とも言える。

 屋敷は主人や使用人の居住スペースから必要な設備すべてが整っている。やけに客室が多いのが特徴的で、一人で歩くには同じような扉があって迷うことこの上ない。目立った表札もなく、どの扉に何の部屋があるかは実際に入って見ないと分からない。従者としてこの屋敷に仕えるようになったミズキにしては一番の関門ともいえる。

 して、屋敷の離れについて。離れはクラクの傭兵が住む建物となっているらしい。らしいというのは、使用人でもあまり干渉しない場所だからである。傭兵の住む建物には、傭兵だけで食住を賄っているようで直接的な接点はない。傭兵自体は、屋敷の見回りなどをするためよく遭えるらしいが……。

 と、まあミズキがリリィとの朝食で知り得た情報である。

 世間話を兼ねた屋敷の説明。逐一納得したように頷いて見せると、リリィはまるで先生になったかのように嬉しそうにしていた。

 さて、朝食も終わり憂鬱な時間がやってきた。

 その理由は――。

「……あ」

 中庭に来て、思わず声が出てしまった。

 噴水傍で、腰をかける女性を目にして咄嗟に声が飛び出たのだ。

 片目を隠した長い茶髪。片方から見える緋色の瞳からは感情の欠片もないような色をしている。その不気味さを助長するように、ひょろりと長い体躯は離れていても威圧を感じた。

 彼女の名前はヘレナだ。彼女もクラクの屋敷で使用人をしている。その証拠として、黒エプロンドレスを自然と着こなしている。

 彼女に対して苦手意識があるのは初対面の悪さからだ。彼女は自己紹介の時に、悪びれもせず舌打ちをしたという所業がある。そんな悪態をつかれては、距離を置くのは必死である。

 そうしたいのはやまやまだが、あろう事か使用人の長であるアメリアは指導役に彼女を選んだという話し。あの態度を間近に見といて、アメリアは最後まで変えてはくれなかった。

 アメリアだけでなく、キザったらしいアルマでさえ無配慮な手助けをしてきた。

 しかし――、あんな悪態ついておいて中庭で待っているなんて真面目な性格なのだろうかと思慮する。とはいえ、第一印象が強烈だっただけにあまり関わりたくはないが。

 物陰で近寄りがたいヘレナをなんとなく観察していると、不意に緋色の瞳がミズキの震えた瞳と合った。

「…………はあ」

 露骨なため息。明らかにミズキと目を合わせて、面倒だといった具合のため息。悪態は人と接する際に本来隠すべきだと思うが、彼女には常識はないらしい。

 彼女は腰を上げて立つ。ヒールを履いているわけでもないのに、高い身長が目立つ。

 悠々とした足取りで、彼女はミズキの前に立った。ミズキの前に立つと、頭一個分高い身長がよく分かる。首を上げて、高圧的な緋色の瞳と視線を合わせた。

「えと……」

 当惑を示して視線をキョロキョロさせる。ヘレナはこちらを見下ろしていう。

「今日はお仕事の流れを知ってもらいますから、黙ってついて来てください」

 冷淡な物言い。仮にも教える立場としていかがなものかと思う。きっとここにアメリアがいれば叱責をしてくれるだろうけど、その思慮は愚問である。

 アメリアでも無表情ながら優しげな声色で教えてくれたのに、ヘレナは指導する際も繕う気はないらしい。ますます憂鬱になってしまう。

 彼女は冷徹に言い放った後、くるぶしを返して歩き出した。

 しばらく、彼女の言った言葉に呆然としているとチラとこちらに振り向いて険な視線を向けてきた。

 視線の意味は言わなくとも察してしまう。これ以上言わせるな、といった具合だろう。

 戸惑いを隠せないままに、彼女の後ろについていく。ミズキが歩き出したのを見て、彼女はまた歩き出した。

涼しくなってきた気がするよ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ