第四話 「真相、深層」
永遠の一夜を過ごし、アパートを後にするありす。
頭では分かってた来るべき別れに涙を流し、タクシーで帰ろうとする。
すると突然、車に乗り込んでくるケイ。
ケイは自分と瓜二つの顔の男の元に案内するようにありすに命令する。
何故、ありすを自分に送り付けたのか?
全てが明らかになる第四話をお楽しみくださいませ。
強引でないからケイさんを好きになった。
秘密を聞き出すことも、無理矢理モノにしようともしなかった。
「俺についてこい」とか
「守ってやる」
なんて無責任な男らしさの押し売りをしなかった。
だからボクはボクのままで自分の中の「女」を存分に開放できた。
けど…今は強引にタクシーに乗り込んであの人に会いに行こうとしている。
ケイさんは自分の枠を越えてボクを求めてくれた。
それが嬉しかった。
タクシーの座席にケイさんが居る。
今、確かにボクの隣に居る!
「非道いなぁ、永遠の別れかと思ったじゃない。」
「連れて行って、って言っても断るだろう?こうするしかなかったよ。」
「うん、わかってる。でも、このタクシーで二人このまま遠くへ逃げてもいいんだよ?」
「僕自身あいつに用がある。ケジメはつけないと…。」
タクシーは都内の高級マンションに停車した。
ボクはケイさんを最上階の玄関に案内した。
そして意外にも『彼』はケイさんを歓迎してくれた。
「もっと僻地に豪邸を建ててるかと思ったよ。」
「オレは無駄は省く主義でね。研究所にここから出勤してるのはキミの様なサラリーマンと大して変わらない身分さ。
それで?何しに来た?『ありすをください。』って挨拶かい?まさかキミの性格からして手切れ金を俺に請求はしまい。」
二人は一切視線を逸らさずに沈黙を貫く中、突然ケイさんはあの人の胸ぐらを掴み、
力いっぱい右手を振り抜いた!
「バシッ!」
強烈な右フックに『彼』は膝をつき、口の中から血を流した。
「いちいち、君は手が込んでいる。僕に用があるなら君が直接話せ!ありすに惚れてるなら逃げずにぶつかれ!
それだけを言いたかったんだ。
今のは人の人生に踏み込んだ仕返しだ!」
「わかった風な口を聞くな!キミにオレとありすの十年の何がわかる!」
『彼』は立ち上がり、ケイさんを殴り返そうとしたが、足はふらつき、簡単にかわされ、逆にまた殴られた。
「十年考えた結果がこれか!大した天才科学者様だな!」
「恋の熱病だけで、ありすを守れると思うな!」
「思ってないさ。でも添い遂げることは出来る!僕はありすと同じ道を一緒に歩く!!」
ケイさんのパンチが当たる寸前、ボクは思わず飛び出した。
「やめて!もうやめて!ミシェルは大切な兄弟みたいなものなの!
ごめんなさいケイさん。ボク達が悪かったの。何の非も無い貴方の気持ちを傷つけ、ボク達の事情に巻き込んだ!
ミシェルお願い、ケイさんに謝って!」
「ミシェル?どうやらやっと、お前の本名にたどり着いたらしいな。」
ミシェルはボクから傷の手当を受けながら、ケイさんに全てを語りはじめた。****
「信じられないかもしれないが…。」
ミシェルが語り出した。
「桂木ケイくん、キミはこの二週間、裏の世界では『科学者を辞めてサラリーマンになったミシェル久我山』として有名人だったんだよ。」
「ミシェル、それは…。」
「ありす、彼はもうこっち側の人間だ!真相を知っていないと痛い目を見る!」
ミシェルは制止しようとしたありすを逆に制した。
「ハイテクにはローテクとは言ったものだ。奴らはオレの流した偽情報に混乱したよ。まさか『他人のそら似』と言うシンプルな選択肢には気付かなかった!」
「奴らって『アリストテレス計画』の連中か?」
僕は背筋が寒くなって来た。
確かにもう、後戻り出来ない世界に踏み込んだのかもしれない。
「察しがいいな。その通り。奴らのおかげでオレ達は不安定な10年を過ごしてきた。
オレ達の命と研究成果は常に狙われているんだ。」
「ちょっと待てよ。それは君の論文で解決してないのか?」
「確かにそうだ。
6年前に父さんの研究成果を、先にオレの論文で発表することにより奴らに大打撃を与えられた。
だが壊滅には至っていない。だからこそ次の手は新薬だ。」
「新薬?」
「遺伝子治療の新薬の開発だ。だが薬の承認には約10年と言う長い年月を要する。未承認薬として流通するにも5年はかかる。
新薬の『特許』が生み出す莫大な利益を奴らが見逃すわけがなく、当然妨害してくる。」
「そこで僕が『無自覚な身代わり』をしてたってことか?それじゃあ、ありすは君のアリバイ工作の為だけに僕のアパートに押し掛けたってことか…?」
「その通り。現代社会はプライバシーを簡単に暴けるが、簡単に捏造も出来るからな。
だから…キミは何も知らず『メイドとご主人様』を続けてれば良かったんだ。
『深入りするな』はキミの安全の為でもあったんだ。
そして唯一の誤算は…キミとありすが本気になったことだ。
…巻き込んで本当に済まない…。」
やっとミシェルは謝り、深々と頭を下げた。
成る程、瓜二つな僕は「目眩まし」として最適だったんだ。ありすはその為に…。
「だが…。おかげでオレはその間、自由に闇で動け、政界、財界、司法に裏で圧力をかけることに成功したよ。一年がかりの仕事が二週間で解決した。
約束しよう。間もなく新薬は流通する!
そしてオレが手にする莫大な金で奴らのスポンサーに圧力をかければ、狂信的な科学者集団『アリストテレス計画』の息の根は止まる!」
「やったじゃないミシェル!これでやっとお父さんの無念を晴らせたね…。
ケイさん…。貴方を利用してごめんなさい…。
動機は不純だったけど…。好きなの!こんなボクが許されないのは知ってる。でも貴方が好き!」
「ありす!僕だって…僕だって…!」
「桂木ケイ君、キミにありすを背負う覚悟が本当にあるなら…仲間になるか?サラリーマンは辞めて貰うことになるが、ありすと共にオレとオレの部下の監視下に居るのなら、二人の安心と安全はオレが面倒見ようじゃないか?…償いってわけじゃないがな…。」
ミシェルは呆れ気味に、そして諦め気味に言った。
「思ったより人間臭いんだな。イヤ、似てるのは顔ばかりではないという同族嫌悪かな?
だが悪いけど…僕は僕の現実と日常を守る!
その延長でありすと添い遂げるって決めたんだ。
君の仲間にはならない!
ありす!普段通りの僕とこれからも一緒に過ごしてくれ!」
「ウソ…?
こんなボクを許してくれるの…?」
「許すことなんて何もない。
それより返事は?」
「はい、喜んで…!」
そして美しきメイドは僕の恋人となった。




