★温度差
三月なのに寒さが残る今、大学の受験も一段落し、桃色の、小さな花を咲かせている梅の木が目立つ、人気がない公園の中、俺はいた。
今日は大好きな彼、準一と久しぶりのデートの待ち合わせだ。
「さっむ、さむ、さっむぅううううっ!!」
約束の時刻よりも五分も遅れてきた彼は、時間に遅れたことを気にして走ってきたのだと思ったら、いくらか、『寒い』を連発し、俺の背中から腕を回し、抱きついてきた。
後ろから抱きついてきた彼の最初のひと言は、「待たせてごめん」じゃなくて……。
「ああ、あったかい」
だった。
俺のこと、湯たんぽ代わりくらいにしか思ってないのか?
「おい!」
「ん?」
「ん? じゃねぇ! 俺はお前の暖房器具じゃないんだぞ?」
「そりゃそうだろう。俺の恋人だ」
ケロッとした顔で当然のように言う彼。
だったら……なんで、久しぶりのデートなのに……こんな、暖房器具扱いをされなきゃなんねぇの?
こいつはいつもそうだ。
俺のことを、いったいなんだと思ってやがるんだよっ!!
今だって、腕に包まれて、ドキドキしてるのは俺だけで……だけど、こいつはそうじゃなくって……。
ムカつく!
自分の中で、怒りがふつふつとわき上がってくるのを感じる。
「マイペースなのもいい加減にしっ、んうぅっ!?」
顔を上げ、怒鳴る俺を中断させたのは、彼の、薄い唇だった。
「怒った顔も可愛いけど、そうやって赤くした顔も可愛いっ!!」
リップ音と共に唇が離れ、彼は静かにそう言った。
「っつ!!」
俺は――ああ、ダメだ。頭の中が真っ白で、怒りも忘れてしまった。
「あ~、あったけ~~~~、裕真かわいいっ!!」
スリスリ、スリスリ。
うなじのところに頬ずりされて、俺は為す術なく、熱くなる顔を俯けた。
……一生、彼には敵わない。
認めるのはムカつくから、俺は彼の腕の中で、そう思った。
**END**