ゲームの誘い
蝉の鳴き声が嫌と言うほど、猛々しく鼓膜に突き刺さる。
7月の終わり、真夏と言ってもいいぐらいの猛暑となるこの日は、窓を全開にしていても、狭い教室に一片の風しか入らない。
まさに、サウナ状態。
襟首を掴み、可能な限りの涼しさを求め、パタパタと動かし風を起こす。
女子は、スカートを下着が見えないギリギリのラインまで捲り、女子力とは無縁の格好となっていた。
そんな中、蝉の鳴き声と張り合っているのではないかと疑うレベルの音量でこのクラスの担任が明日の予定を早口で話している。
白髪が混じり前髪が後退し、他の人よりも少しばかりおでこの面積が広い担任は、薄い灰色のハンカチで口元やおでこに滲んだ汗を時おり拭いた。
「……まぁ、そぉゆうことだから夏休みも近いので提出物は期限を守って提出するように。いいな?」
担任は、クラスの中を見渡す。
誰もが早く話終えろ、と視線で訴えているのに気づくことなく満足した為か、一度頷くと「きぃつけて帰れよ」と言い残し、教室を素早く出て、天国のように涼しいであろう職員室へと去っていた。
「うぉおい、隼人よ。この後暇か?」
鞄に教科書をしまっていた僕の顔を覗きこむように、地毛称する薄い茶髪に健康的な褐色の肌をした目鼻立ちが整った男が訊いてきた。
「暇だよ」
僕は視線を友人である 久留里 雷夢<クルリ ライム>に向け、そう答えた。雷夢は、子犬のように目を輝かせた。
「新作のゲームを買ったんだよ。一緒にやろう!」
興奮気味の雷夢が体を乗り出してきた。少々、仰け反る形になった。
「それってどんなゲームなの?」
「よくぞ聞いた! 隼人君! 夏と言えば、ホラーだろ?!」
「つまり……」
この時点で雷夢が買ったゲームのジャンルは察しがついた。
「勿論、ホラーだ!」
ですよねー。
雷夢は、無類のゲーム好き。特にホラーや格ゲー、やり込み要素があるものを好んで遊ぶ。
だが、ホラーゲームを遊ぶ前から汗が毛穴から滲み出てきた。暑さのせいでもない。
仰け反った背骨と腰の骨が限界にきて、痛みを帯び、悲鳴を上げ始めたからだ。
そろそろ、姿勢を戻したい。骨が鳴る前に。