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『』  作者: 岡村 としあき
未来の『殺し屋』
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未来の『殺し屋』

 女性店員は、契約書の職業欄を見て一瞬目を見開いた。


 そこには、殺し屋と書いてあるからだ。


「ああ、すみません。私、市の殺人課で処分係を務めている者でして」


 私がそう答えると、彼女は「ああ、なるほど」といった風な顔をして作業に戻った。


「お仕事、たいへんそうですね」


 事務的ではあるが、比較的気持ちのいい愛想笑いを浮かべる彼女に向って私は答える。


「ええ、まあ。昨日は20人も殺しましたよ。この時期、多いんですよね」


「まあ、20人も。私の母もそろそろかなって、考えているんですけど……」


「失礼ですが、お年は?」


「そろそろ300歳になりますね」


「ほう。確かに……そのぐらいの年の方が多いですね。早い人だと、100歳くらいの方もいますよ」


 その昔、人間には寿命というものがあったらしい。


 しかし今や、ヒトゲノムの解析が進み、人間がヒトの遺伝子を完全に理解したことで、病気にかかることはなくなり、寿命は制限なく伸ばされた。


 例え体を失っても、政府に登録した細胞バンクから新たな体を創り出し、そこに意識を移植することで、常に若々しく健康な肉体を維持できるのだ。


 だがその一方で、ヒトの生殖能力は失われつつあり、出生率は0に近くなりつつあった。


 それでも、人口は変わらない。死ぬものがいないからだ。


 唯一例外があるとすれば、それは生きるのを放棄した者。


 つまり、死を望んだものだけ。


 政府は公共サービスの1つとして、『死』を提供することを決めた。


 自然死する者がいない以上、他者により安全にかつ、楽に生涯を終わらせることができるサービス。


 それが、殺人課処分係だった。


「あとは、契約内容の確認ですね……こちらの書類に目を通して――あら?」


 女性店員は、私の背後を見て困ったような笑顔を浮かべた。


 振り返ってみると、小さな女の子が泣いている。迷子だろうか?


「すみません。少々お待ちくださいね」


 女性店員はカウンターから抜け出すと女の子の元に向った。しゃがみこんであやすように話しかけると、女の子は泣き止む。


「大丈夫よ。お姉さんと一緒にお母さんを探しましょうね」


「うん。もう大丈夫」


「え?」


 思わず息をのみ、目を疑った。


 次の瞬間、ナイフを取り出して首筋に当てていた。女の子が、女性店員にだ。


「死にたくなかったら、金出しな」


「え? え?」


 女性店員はワケがわからないといった顔で、しゃがみこんだまま固まっていた。


「見てわからねえのか? 強盗様だよ、強・盗・さ・ま。この姿だと仕事がやりやすくてありがいたや。ぎゃははは!」


 幼く愛らしい声で彼女は笑うと、ナイフで女性店員の首筋をなめるようになぞった。


 犯罪者。それも……細胞バンクから不正に他人の細胞を盗み、体をまるごと創り出して意識を移植した。


 この時代、こういったケースは珍しくない。他人の細胞を勝手に盗んで、体をまるまる創り出し、なりすますことは。


 特に幼い子供の姿をされると警戒しない大人が多いので、こういった強盗によく使われる手法だ。


「いい時代になったよなあ。オレの強面じゃあ店に入った途端怪しまれるのに、この姿だと楽勝過ぎて面白すぎるぜ」


 きひひひ、と。犯罪者は高く愛らしい声で醜く笑った。


 さて。殺人課処分係の出番だ。せっかくの休日だというのに……仕方が無い。


「失礼」


「あん?」


 イスを立ち、犯罪者の前に立つと私はしゃがみこんで靴紐を思い切り引っ張った。


「うぁ?」


 靴先に仕込んだ麻酔針が飛び出し、犯罪者に突き刺さると気絶してその場に倒れ込んだ。


「眠っていたまえ。君の本当の体を探し出したあと、君を処分する。犯罪者は厳罰に処す」


 殺人課処分係にはもう1つの顔がある。それは、犯罪者に死のサービスを提供すること。

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