表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『』  作者: 岡村 としあき
WEB『小説』
21/46

あなたを守りたい

「お、おい。塩山!」


 叫んだ時にはもう遅い。屋上から階段の下を覗き込んだけれど、すでに塩山の姿は無かった。


「まったく……こんな冗談を真に受けるほどノリのいい奴じゃないだろ、お前は……まあ、いいか。あいつがどう言い訳をするのか、楽しみだ。人なんて、殺せるわけがない」


 塩山のことなどどうでもいい。早く家に帰って、WEB小説を読もう。


 僕は軽い足取りで学校を出ると、まっすぐ家へ帰った。


「ただいまー」


 玄関で靴を脱ぎ、ゲタ箱に戻す。そして、そのまま自分の部屋へ。


 ノートパソコンの電源を入れ、起動までの時間を使って手早く着替えを済ませる。


「さて……何を読もうかな」


 お気に入り登録していた作品達は、軒並み更新されていた。思わずその場でガッツポーズ。続きが気になっていたんだ。


 6作ほど連続で読んで、ひとしきり満足すると、小腹が空いたのでリビングへ。


「母さん、お腹空いたんだけど?」


 リビングに顔を出すと、母の姿は無く、怜奈もいなかった。


「ちぇ。誰もいないのかよ。仕方ないな。カップラーメンでも食べるか」


 時刻はもう5時を過ぎている。あと2時間もすれば晩ご飯だ。間食はなるべく控えるべきだろう。しかし、僕も成長期。お腹が空いてしかたが無い。


 戸棚からカップラーメンを取り出し、ポットでお湯を注ぐと、フォークを持って二階へ上がった。


 僕はどうしても、この3分という時間を待ちきることができない。いつも2分足らずでフタを開け、固めの麺を食べる。


 これはこれで悪くないからいいんだけど。固い麺を噛み砕くっていうのも、なかなかオツなものだ。


「お。まだやってるのかよ。恋愛小説」


 なんとなく、トップページの最近更新された小説を流し読みしていたら、懐かしい名前に遭遇した。


 あの、恋愛小説だ。


 正直、どうでもよかったんだけど。けどまあ、あれからどうなったんだろうな。この小説。


 ちょっとのぞいてみるか。


 最新話をクリックして、開いてみた。どうやら、更新されたのはつい先ほどのことらしい。


『佐藤くんが手に入る。私の物になる。その時は刻一刻と迫っている。


 今日、私は屋上で彼に想いを打ち明けた。


 でも……その時の彼はとても意地悪だった。そうだよね。私と佐藤くんが吊り合うわけがないもの。


 だって、私は地味だし、暗いし……勉強もぜんぜんだめ。でも、彼を想う気持なら、誰にも負けない。


 彼の為なら、なんだってできる。それが、恋の力なんだから!


 彼に提示された条件は、とってもシンプル。


 クラスメイトを一人殺すだけ。とっても簡単。適当に呼びつけて、後から金づちで殴ったら、あっさり死んじゃった。あは♪』


「……冗談、きついな、これ」


 さらに続きを読んでみる。


『木村は私の事を好きだと言ってきたけど、ふざけるな。私は佐藤くんの物。この体も、心も全てが彼の物。私は彼の為なら、なんだってできる。


 だって、大好きなんだもの。


 考えてみれば、これで二人目。前は学校の花壇に埋めたけど、今度はどこに埋めようかなあ』


「木村……」


 はは。面白い偶然だな。


 ここまで登場人物が僕の周りの人間と名前が同じだと、けっこう……不気味だ。


 ま。どうでもいいや。


 他の連載が気になる。一度ユーザーページに戻ろう。


 そう思って、戻ろうとしたら。


「あ。間違えた」


 間違えて、前の話を選んでしまった。最新話の一つ前の話が画面に表示され、僕は面倒くさい気持ちで画面を睨みつけた。


 だが、面倒な気持は一瞬で。


「この小説……なんなんだよ」


 絶望に変わりつつあった。


『真田愛美という女の子が1年にいるらしい。彼女は1年生で一番かわいいって噂されてる。けど、それはどうでもいいお話。許せないのは……こともあろうに、私の佐藤くんに手を出そうとしていること。


 許さない。佐藤くんは私の物。他の誰の物でもない。死ねばいいのに。


 ううん。死ね。殺してやる。


 佐藤くんは、優しい子だから、きっと断れずに真田の思うがままにされて……。


 ダメ。


 ダメだ!


 私が佐藤くんを守らなきゃ。


 真田愛美に一つ。先輩として忠告してやろう。身の程を教えてやろう。佐藤くんに相応しいのは誰か。


 早速、私はその日の昼休み実行に移した。屋上に呼びつけて、少しカッターナイフを頬に当ててやれば、一瞬でコロリ。


 あははははは♪


 身の程を知れ。痴女め。小便ちびって逃げ出せ。


 私なら、この程度の脅迫に屈したりしない。この女はこの程度というわけ。


 だけど、念には念を入れておかないとね。


 私は放課後、誰もいなくなった教室で、真田愛美を呼びつけた。


 最初は、そんなつもりなんてまったくなかった。もう一度カッターナイフを見せて、念押しがしたかっただけ。


 なのに……。あの女、逆らってきた。


 だから、だから、だから。


 殺した。


 顔を誰か解らないように何度も切り刻んで、校庭の花壇に埋めた。


 これで一件落着。明日は、佐藤くんに私の気持ちを伝えよう。これ以上邪魔が入る前に、彼を私の物にしてしまおう』


「は。ははははは……。これ、マジなのか?」


 これは……どこからどう考えても……僕の周りで起こった出来事と符合する。


 でも。まさか。


 ウソだろ?


 ウソに決まってる。


 あの日、真田愛美は確かに殺されて、それをやったのは、塩山だって?


 そんなことあるわけがない。


「そうだ。校庭の花壇……そこに行けば、はっきりする」


 学校に行こう。そうすれば、すべてがはっきりする。


 僕は、学校に向った。


 そして、学校に着くと一直線に校庭の花壇を目指す。


 校庭の花壇は、ほとんど手入れがされていない。だから、それは一目でわかることだった。


 花も何も植えられておらず、ただただ雑草が生い茂っている。


 それでも。そんな状態でも、はっきりと。


 掘り返した痕がある。


 おそるおそる、土をかきわけていくと……黒い糸のような物が指に絡み付いてきた。


 さらにその先には……。


 あの、()の無い()が……土の中から()を出してきた。


「う! おえっ!」


 胸の奥からこみ上げてくる熱い何か。


 それを必死に押さえ込もうとしていると、携帯が鳴った。


 画面を見ると、見知らぬ番号からの着信。


 誰だ。


 吐き気を抑えながらそれに出ると――。


『もしもし、佐藤くん?』


「し、塩山?」


『すっごーい。どうして私だって解ったの?』


 塩山だった。


 おかしい。こいつに、僕の番号なんて、教えていないのに!


「お前、もしかして……真田愛美を……殺したんじゃ……」


 ウソと、言ってくれ。こんなの、嫌だよお。


『うん。そうだよ。私がやったの』


「お前! まさか、木村も!?」


『うん。簡単だったよ。すぐに持って行くね』


「やめろ! 待て! そんなこと、僕は望んでいないんだよ! そうだ。警察に自首しろ! まだ間に合うって! な! お前、今どこにいるんだ?」


『ここにいるよ』


「え? どこだ。それじゃわからないだろ」


「佐藤くんの、後ろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ