♡1
冬華院 椿
大財閥 冬華院家のお嬢様。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。
告ってきた男は数知れず。
そんな私が今一番頭を悩ませていること、
それは…
「おはようございます、お嬢様。」
…この男、執事の雪臣だ。
「…おはよう、雪臣。」
金持ちにはお決まりの長い机の一番奥まで行くと、雪臣は椅子を引き、私に座るよう促した。そしていつものように目の前に朝食を並べ始める。
いつもと変わらない朝。
…それが気に食わない。
「ねえ、雪臣」
「何でしょう?」
「今日、学校帰りにデートがしたいわ。」
「左様でございますか。それでは、お迎えにあがるのは控えた方がよろしいでしょうか?」
この男…
白々しいにも程がある。
「私はあなたをデートに誘っているのだけれど?」
「そうでしたか。申し訳ありません、気がつきませんでした。」
こいつ…絶対わかってたくせに。
「で、どうなのよ?」
「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。」
にっこりと満面の笑みを浮かべながら言う雪臣。
申し訳ないだなんて微塵も思ってないのが目に見えてわかる。
「理由は?」
「私がお嬢様とデートだなんて、そんな大それたことできません。」
「私が許可するわ。これは命令よ、雪臣。私とデートし─」
「お嬢様、そろそろお召し上がりになられたほうがよろしいかと。せっかくのお料理が冷めてしまいますよ?」
「…」
雪臣をじとっと睨みつけ、目の前の料理に手を着ける。
雪臣は変わらず満面の笑みを浮かべて私の食事を見守っていた。
食事を終え身支度を済まし、雪臣に促されるままリムジンに乗り込んだ。
学校までは約10分。
私は再び雪臣に挑んだ。
「ねえ、雪臣。私、買いたい物があるから帰りに付き合ってくれない?」
「それでしたらお嬢様が学校に行っている間に私が買って参りましょう。何がご入り用で?」
「自分で選びたいの。だから、一緒に行きましょ?」
「ショッピングでしたら、私よりもご友人と行かれたほうがよろしいかと。女性どうしのほうが楽しめると思いますよ。」
「今日は友達とじゃなく雪臣と行きたい気分なの。」
「私は色々とやらなければいけないことがありますので。」
「私の世話係じゃなかったの?」
「執事は何かと忙しいのでございます。」
これを言えばあれを言う。
…そんなに私と行きたくないか。
「はいはい、もういいわよ。雪臣がこんなに付き合い悪いとは思わなかったわ。」
「申し訳ございません。」
反省の色なんて全くもって見られない。
本当にむかつくやつ。
「お嬢様、着きましたよ。」
雪臣が車を降り、後部座席のドアを開ける。
私が両脚を揃え優雅に降り立つと、登校してきた他の生徒たちが羨望の眼差しで私を見ていた。
そう、私は多くの人から羨まれる存在。
私とお近づきになりたがる男も山ほどいる。
それなのに…
なぜこの男だけは私に全くなびかない?
私の世話役だから?
「いってらっしゃいませ、お嬢様。」
長く整った体をきれいに折り頭を下げる雪臣。彼の完璧なルックスがその姿をいっそう引き立てる。
…やっぱりかっこいい。
「お嬢様、どうかなさいました?」
「!?…な、何でもないわ。」
やばい、じっと見すぎた。
顔が火照ってないか心配だ。
「行ってくるわ。」
何事も無かったかのように、踵を返し校舎へと向かう。
「いってらっしゃいませ。」
振り返ると、雪臣が再び頭を下げて私を見送っていた。
なぜだか顔が熱くなるのを感じ、私は慌てて前に向き直り校舎へと急いだ。