追跡
土埃の匂いが鼻をくすぐる。
乾いた土のうえに揃えて置いた両手の甲に、自分の頭の形をした影がまあるく落ちている。眉の中からたまった汗が落ち、土をたたいてかすかに埃を舞いあげた。
少し目をあげると、たくさんの足が右から左へと流れていく。何十、何百と、ぞろぞろぞろぞろ、ムカデの足のように足袋を履いた足がうごめく。土を蹴り、うす黄色い煙を大量に巻き上げて。
強い日差しを頭にあびながら、もうろうとした心地で、もうもうと漂う土煙の奥を見やると、なにかきらりと光る物がある。
慶太は目の焦点を絞った。光っていたもの、それは十手だった。流れる大名行列の彼岸で銀色の十手が日本晴れの陽のひかりを照りかえして輝いていた。
十手を持つ親分さんはこっちを見ちゃいない。だけど、行列のこちら側を見ているふうだった。視線の先に顔を向けると、裾をまくった男が腰を屈めて道のはじを滑るように歩き、ふいに横町へ入っていった。
親分さんに目を戻すと「ちっ」と舌打ちするような仕草をみせた。
慶太は土のうえの両手の甲に目を戻す。さっきふいた汗はもう乾いて、左手の甲がすこしひきつれたようにつっぱっている。
「よし」
小さく息を吐き出すと、慶太は立ち上がった。
腰に下げた自分の十手を手に取り、頭を低くして走り出した。