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一口サイズのビスケット

作者: 碧尉翼

 僕のカノジョは頭がいい。

 特に社会と理科がずば抜けている。

『理系の仕事に就きたい』と言っており、実際試験管を振ったりだとかロボットをプログラミングしたりだとか、そういう理系なことをしている。

 だから驚いたのが、数学が壊滅的にダメだということだ。

 しかも足し算引き算を間違えるという初歩的なミスばかりだ。

 おかげでカノジョの偏差値は社会が70、数学が50未満と落差がエンジェルフォール以上の成績を誇っている。

 なぜ『理数系』と言わず、『理系』と言い続けていたのかが、分かった。




 僕のカノジョは不思議な人だ。

 いつもポケットに文庫本を携帯していて、大人しい人かと思ったら体育の時間短距離走で学年トップのタイムをたたき出した。

 好きな音楽は? と聞くと何でも聞く、と答える。

 そういう人に限って音楽を知らない人が多いのだが、音楽プレーヤーを見てその考えが一変した。

 アニソンからヴィジュアル系、クラシック、洋楽、果てはカノジョが生まれる前の曲も入っていた。

 カノジョいわく、好きになった曲を片っ端から入れているらしい。

 アーティストを好きになることはないらしく、どおりでアルバムがない。

 広く浅くがモットーのようだ。




 僕の彼女はあまりCDを買わない。

 なのにプレーヤーにはたくさんの音楽が入っている。

 不思議に思って理由を聞くと、ネットから落としているのだそうだ。

 オンラインの通販だとかそのあたりかと思ったら、動画投稿サイトからソフトを使って音源を落としているとのこと。

 犯罪だよ、それ。




 僕のカノジョは黒い。

 性格がではなくて、見た目が。

 黒目黒髪黒ブチメガネ。持っている筆箱も愛用しているシャープペンシルも黒。携帯電話も黒だ。

 何色が好き? と聞いたら無彩色ときた。

 スクールバッグ型の筆箱の右下にプリントされているウサギのキャラクターが、なぜかマジックで塗り潰されていたので理由を聞いたら『可愛いから塗り潰した』

 インクが剥げてきたのでそろそろ塗りなおすらしい。

 よく分からない。




 僕のカノジョはのほほんとしている。

 男子に対しても女子に対しても、常に自分のペースを崩さず、周りに流される。

 大多数の女子のように徒党を組むのが好きではないようで、群れを作るのが苦手な同じ気持ちの女子たちとよく話している。

 だが基本呼ばれればどこへでも行くし、誰とでも絡める。

 そして一緒に職員室などに行くと必ず別な場所へ行こうとする。

 職員室を通り過ぎて階段を上り始める。

 戻ってこーいと呼びかけて初めて戻ってくる。

 一体どこへ行くつもりだったのだろう。

 



 僕のカノジョは転校生だ。

 8月に僕のクラスにやってきた。

 この暑いのに長袖のワイシャツにベストを着ていて、例えるならば"委員長"で、冗談の通じない真面目な人かと思った。

 でも、そのイメージは見事覆された。

 頭がいいのは変わらない。初対面からずっと敬語を使われているのも変わらない。

 でもここまで性格がおかしいとは思わなかった。

 どうしてここで笑わないの。

 どうしてそれが面白いの。

 男同士で話してるのを見てなにが楽しいの。

 ヘンタイって言われて喜ぶのはだいぶすごくおかしいよ。


 でも、

 "君って普通だよね。平々凡々の一般人だよね。

 目立たないわけではないけど特に目立ちもしないよね。

 話してて楽しくなくはないけど特別楽しいとも思えないよね。どこにでもいそうだよね"

 って言われるよりは、

 "アナタってヘンタイ。

 おかしい。

 次何するか分からない。

 どこ行くか分からない。

 なに考えてるか分からない。

 ちょっともうそれやめて頭混乱してくる"

 って言われたほうが嬉しくないですか?


 カノジョ、過去にアナタってヘンタイと言われたらしい。

 何をして相手の頭を混乱させたのだろうか。




 僕のカノジョは髪が短い。

 ツヤツヤと黒光るストレートのショートカットは手触りがよくて好きだったりする。

 その割には前髪が長い。全部下ろすとあごまで届く。

 普段はピンで留めるでもなく、メガネの弦にひっかけているがたまに落ちて"貞子"になる。

 友達も僕は何回も聞いた。うっとうしくないのと。

 そしたらカノジョは疲れた様子でこう答える。うっとうしいに決まってるよ。


 じゃあ切りなよ。

 やだ。

 なんで。邪魔なんでしょ?

 だから邪魔ですって。鬱陶しくてたまりませんて。

 じゃあ切りなよ。

 やだ。

 なんで?

 ……似合う髪型が思いつかないから。

 

 不毛である。


 たまに、メガネの弦に引っ掛けた前髪の束が勢いづいてクルンと外巻きになることがある。

 寝癖の延長らしく、こうなると前髪が落ちてこないので酷く楽なのだそうだ。

 女友達がその毛先を引っ張ると、ふざけて軽くその手を叩く。

 だが僕が触ろうとすると、真っ赤な顔して避けて、逃げる。

 理由はあとで分かったが、当時は結構傷ついた。

 付き合う前の話であるが。




 僕のカノジョは人気者だ。

 学年でカノジョの苗字とあだ名を知らぬものはいない。

 何故苗字なのかというと、カノジョが転校時から『苗字で呼んでくださいな』と周りに言っていたからだ。 

 ちなみにあだ名はクラスメイトで学年一のイケメンと称される『小野くん』に付けられた。

 お互い歴史好きということで気が合ったらしい。

 たまに戦国武将の話で盛り上がっている。

 僕にはよく分からない世界だった。

 まだ話したこともない、違うクラスの女子からも人気がある。

 と、誰かから聞くとカノジョは嬉しそうな顔で『今度その人と話してみたい』

 友達が増えるのがとても嬉しいらしい。




 僕のカノジョはたまにケーキを食べている。

 いつも2つはあるので僕は1つ頂くことがある。

 僕は男らしさをアピールしようとフォークを使わず片手でつかんでかぶりついた。

 カノジョはもちろんフォークを使っている。

 その様子を友人に見られて、何で『カノジョ』はフォーク使ってるのに『僕』は使ってないのと聞かれた時のカノジョの答え。


 自分は人間だから最低限の文化的な生活は保障されてるんだよ


 僕は人間ですらないのか




 僕のカノジョは行動的だ。

 国とか地理とかそういうのにすごく興味がある。

 エベレストに登ってみたいらしい。

 そしてふもとの中華料理屋さんでカレーを食べてみたいらしい。

 何も中国から登らなくても、インドから登ればいいじゃないとアドバイスしたら、


 何言ってるの。インド側から登るよ。そしてインドの中華料理屋さんでカレーを食べるんだよ。

 日本でも寿司屋さんの実力は玉子を食べれば分かるっていうでしょ?

 だから中華料理屋さんのカレーを食べてその店の実力を見るんだよ。


 そんな回りくどいことしないで素直にカレー屋さんのカレーを食べたらいいと思う。





 僕のカノジョはいろいろと他人とズレている節がある。

 でも、協調性がない一匹狼でもないし、空気が読めない馬鹿でもない。

 ただ、もう少し自己主張が強かったらいいと僕は思う。

 でもそこもカノジョの魅力かと思い始める自分がいる。

 溜め込み続けるのはよくないし、いつか絶対崩壊する時が来る。

 もしカノジョがどうしても耐えられなくなったとき、僕は一番頼れる人間になっていたいと思う。

 だからカノジョが耐えられなくなる前に、僕はもっと頼れる人間になっておかないと。


 とりあえず今は、

 明日はカノジョ何をしでかすんだろうと、

 期待と不安でいっぱいだ。

 初めまして。またはこんにちは沖田リオです。

 このたびは拙作『一口サイズのビスケット』をお読みいただき、ありがとうございました。


 短い僕とカノジョのエピソードを10個、さすがに短いかな、と思いつつ投稿しました。

 ビスケットは『二度焼く』っていう意味らしいので、さくっというよりはしっとり、のほうが合っているのかな。


 こういう短いお話は書いていてとても楽しいので、機会があったらまた書いてみたいと思います。


 では、重ねてになりますが最後の最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

 またあなた様のお目にかかれるよう、努力してまいりたいと思います。

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