ふたたび、雛子
おかしい、おかしい、おかしい!
なんなのこの体は!
勝手に起きだしたと思ったら、中庭みたいな広い場所に出て、勝手にラジオ体操をして、勝手に看護師のお姉さんと話したりして。
そう、そしてなによりまるで「舞子」のように振舞って!
わたしの意志に反して思ってもいない言葉が口からでる。「雛子」が死んだ? わたしが雛子なのよ、雛子なのに、雛子のわたしが「雛子は死んだ」なんて言う。
いったいどういうことなの、わたしの体はどうしちゃったの、どうして「わたし」の思う通りに「わたし」は動かないの、しゃべれないの? 心と体がバラバラよ!
まるで勝手に動いてしゃべるロボットのなかにいるみたい、いや、でも勝手に動いてしゃべっているのはまぎれもなく「わたし」だ。「雛子」だ。わたしにはわかる。自分の体だもの。それなのに、まわりの人や、パパとママまでわたしのことを「舞子」と呼ぶ。どうしてなの。いくら双子だからって、こんな馬鹿なことがある?
もしかして。
「わたし」は「わたし」から閉めだされてしまったの?
今までわたしが「舞子のようになりたい」と気が狂うほど願っていたから。
憎かった、わたしの双子の妹、舞子。舞子とわたしはまるで光と闇。舞子が輝けば輝くほどわたしは底なしの真っ暗な闇に飲まれていく。脱出できない、闇に。
だから、まさかわたしは「雛子」をやめたの? 「わたし」を消してしまったの? まわりのみんなも、パパと、ママも、「雛子」を消した?
「舞子」が死んだから。
そんなの、そんなのやだ、いやだ!
たしかにわたしは「わたし」が嫌で嫌で大嫌いでどうしようもなく思ったことがたくさんある。けど、自分のいいところだって、わたし知ってる。
わたしはさえない、根暗のいじめられっこだけど、なにかをこつこつ頑張ることは割と得意よ。ひかえめなのだって時には長所だし、気弱だけれども辛抱強いんだから。
だからお願い、「わたし」は「わたしを殺さないで」。
雛子を消してしまわないで。わたしは雛子、雛子なのよ。舞子になんかなれっこない、舞子と双子だろうが、いくら比べられようが、わたしはただひとり、ここにいる。
誰か気付いて。
わたしはまだ消えていない。雛子はここにいます。誰か、お願い。




