表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/158

第95章 ~決闘後~



 ルーノは立ち上がり、ニーナへと向き直った。

 

(実力の差を見せつけたつもりだったのだが……こいつ、全く引いてないな)


 兎型獣人族の少年の顔を見つめたニーナ、彼女はレイピアを握り直した。

 実力の差が大きいことは、ルーノ自身が良く理解していた。

 しかし、ニーナが心中で呟いた通り、彼は引いていない。

 ルーノの瞳からは、「戦う」と言う意志が存分に伝わって来たのだ。


「勝負は既に決したと思うが。その様子から察するに、何か隠し玉でもあるのかね?」


 レイピアを構え、ニーナは問う。


「ああ、『とっておき』ってモンがな……!!」


 圧されている戦況にも関わらず、嫌に自信のあるルーノの物言い。

 修練場の傍らに立つロアとアルニカ、二人は同じ予感を抱いていた。


「ねえロア、もしかしてルーノ……」


「僕もそうだと思う。きっとルーノ、魔法を使うつもりだよ」


 ルーノが呪文を唱えたのは、ロアが言った直後だった。


「レーデアル・エルダ!!」


 唱えた途端、ルーノが持つ剣にはめ込まれた黄色の魔石が輝きを帯びる。

 美しい黄色の光が、銀色の刃を包み込む。

 ルーノの詠唱呪文と、魔石の力によって作り出された光の刃だ。


(魔法……!? 使いこなしているのか?)


 僅かばかり、ニーナは驚きを覚えた。

 どうやら彼は、魔法によって光を宿した剣を使い、斬りかかるつもりのようだ。

 

(以外だったな……!!)


 ニーナはルーノと同じように、自らのレイピアの刃を紫の光で包みこませた。

 ルーノの黄色い光と同じく、魔石から作り出した光の刃。

 しかし、青い毛並の兎型獣人族の少年と違い、ニーナは呪文を唱えていなかった。


「らああ!!」


 ルーノは剣を振りかざしつつ、ニーナへと斬りかかる。

 

「訓練の時みたいに、剣が飛んでいかない……!?」


「もしかしてルーノ、魔法を使いこなしてる!?」


 ロアとアルニカが呟く、僅かばかり興奮した様子だった。

 ユリスから魔石のはめ込まれた剣を渡されたロア達は、魔法の力を使いこなす練習をした。

 が、結果的に使いこなすことは叶わなかった。

 ロア達が何度試そうとも、魔石が作り出す力場を制御出来ずに、剣が手から離れてしまったのだ。


 しかし今、ルーノは魔法を使って剣に黄色の光を宿らせているにも関わらず、剣が手から離れない。

 すなわち、魔力をコントロール出来ている、魔石が作り出す力場を制御出来ている、と言うことになる。 

 初めての成功だ。


 が、しかし。


「へ?」


 数秒前までの険阻な様子はどこへ行ったのか、ルーノは素っ頓狂に一文字漏らす。

 ニーナへ剣を振ろうとした途端、突然ルーノの手から、剣を握っている感触が消えた。

 

「あ……」


 ロアとアルニカは天を見上げる。

 ルーノの手から離れた彼の剣が、空を舞っていた。銀色の刃が太陽の光を受け、眩く輝いている。

 一しきり空を泳いだ後、剣は地面に虚しく突き刺さった。

 既に、刃から黄色い光は消えている。


「……やっぱり、使いこなせなかったみたいだね」


 静けさを取り戻した修練場で、ロアが呟いた。

 続けてルーノが、


「チッ、行けると思ったんだがな……!!」


「少しばかり驚いたが、とんだ茶番だったな」


 ニーナはレイピアを降ろすが、鞘に納めようとはしなかった。

 紫の光も、解いていない。


「決闘は終わりで構わんね? 君が私に挑むのは、10年早い」


 ルーノは、反論のしようが無かった。

 剣術の勝負でも歯が立たなかった上、魔法を使いこなせすらしない自分では、ニーナに勝てる筈は無い。


(……悔しいけど、コイツの言う通りだ……!! 今のオレじゃ、全然歯が立たねえ……!!)


 ニーナと目線を合わせた後、ルーノは自らの剣を回収し、鞘に納めた。

 そして再び、紫の毛並の少女を振り返りつつ、


「……ああ、オレの負けだ。アンタは強えよ」


 そう告げた。負けを惜しむような気持ちは、持っていないようだった。


「ほう、噛み付いてくると思っていたが……意外と素直なようだね、君」


「……」


 ルーノは答えず、視線を横へと向けた。

 彼の横顔を見て、ニーナは僅かに笑みを浮かべる。

 潔く負けを認めたルーノに、ニーナは幾らか好印象を持った様子だった。


「そういえば、君にはまだ名前を訊いていなかったね?」


 ルーノはニーナに向き直った。


「……ルーノだ」


「下の名は?」


 間髪入れずに、ニーナは問を重ねた。


「はあ?」


「君の下の名だよルーノ。私は認めた相手には、本名を尋ねる事にしていてね」


 ニーナは早速、ルーノを名で呼んだ。

 

(……なんだそりゃ)


 変わった方針の持ち主だな、とルーノは思う。

 次いで、だとするとニーナは自分の事を認めてくれたのだろうか、と思った。

 

 ニーナと目線を合わせつつ、ルーノは口を開く。


「『ロビット』、オレの本名は『ルーノ=ロビット』だ。満足か? 『ニーナ=シャルトーン』」


 自らの本名を名乗ると同時に、ルーノはニーナを本名で呼んだ。

 ニーナは頷き、


「『ルーノ=ロビット』……覚えておこう」


 兎型獣人族の少年に、そう返した。

 ルーノは踵を返し、ロアとアルニカの方へと歩いて行こうとする。


「ああ、そうだ」


 が、その背中が不意に翻り、またニーナへと視線が向けられる。


「オマエ、ロアとアルニカには絶対に本名の話はすんなよ」


 ルーノの口調は強かった。

 ニーナは無言で、彼と視線を合わせる。


「あの二人にそういう話は、タブーだからな」


「訳有りのようだね、分かった。肝に命じておくよ」


 ニーナは紫の光を解き、レイピアを鞘へと納めた。

 そして彼女はルーノの背中に続いて、ロアとアルニカへと歩み寄る。


「お疲れルーノ」


「ニーナさんと何話してたの?」


 ロアがルーノを労い、アルニカが問いかけた。


「別に、大したことでもねえよ」


 素っ気なく、ルーノはアルニカへ返事を返した。

 

「君達、少しばかり聞いてもらえるかね?」


 と、ロア達三人に向け、ニーナが言葉を紡ぐ。

 ロア達は、彼女へ視線を移した。


「今日はここで解散とする、後の時間は君達の好きに使ってくれて構わない。ヴァロアスタの街を散策するも良し、汽車の旅で疲れた体を休めるも良しだ」


 修練場に吹いた風が、ニーナの紫色の毛並を緩やかに靡かせた。


「が、明日の朝10時になったら、また三人でこの修練場に来てほしい。君達にしてもらわなくてはならない事がある」


「してもらわなくてはならない事って?」


 ロアが訊き返した。


「君達三人にとって、とても重要な事だ。明日になれば分かるよ」


 ニーナが返したのは、もったいつけるような返事である。

 彼女は踵を返し、続けた。


「遅刻は厳禁だ。では明日の朝10時、この修練場で待っている」


「ニーナさんは、これからどうするんですか?」


 アルニカが問いかけた。


「私はこれから行かなくてはならない場所があってね。では、ここで失礼するよ」


 言い残すと、ニーナは修練場の脇の金属塀に向かって走り、塀を飛び越える。

 紫色の毛並を有する後ろ姿が、ヴァロアスタの街の中へ消えて行くのを、ロア達は見届けた。






感想・評価お待ちしております。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ