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第91章 ~驚きの事実~

 突然の出来事だった。

 猫型獣人族の少女が、ロア達に「ニーナ=シャルトーン」の事を伝えようとした時、突然銃声が鳴り響いたのだ。

 乗客達の話し声で満たされていた車内が一瞬の内に静まり返り、汽車の走行音だけが支配する。


「今の音って……!?」


「オレンジの髪の君、静かに」


 猫型獣人族の少女が、アルニカに促した。

 二人の向かいの席に座るロアとルーノは、銃声の響いた方向に視線を向ける。座席から身を乗り出し、向こう側の入り口付近、そこに二人の男が立っていた。

 非常に大柄で、見るからに柄が悪い二人組の人間の男。

 内一人の右手には、銃口から灰色の煙を発している銃が。

 何処を撃ったのかは分からない。しかしはっきりと分かる事は、先程の銃声はあの男が手にした銃から発せられたものだという事。


「手前らよく聴け!! この汽車は俺達が乗っ取った!!」


 銃口から煙を吹く銃を周囲に振りかざし、男は怒鳴った。

 途端、静まり返っていた車内に悲鳴が響き始める。男性の悲鳴、女性の悲鳴――数十人の悲鳴が、まるで合唱のように。

 因みにロア達は、


「……何か、前にもこんなことがあったような気がすんの、オレだけか?」


「僕もだよルーノ、前にも喫茶店で強盗に遭ったよね」


「あー、あの女王様に会いにお城へ行った日?」


 一度このような状況に陥った事がある所為だろうか、三人は冷静だった。

 猫型獣人族の少女は、無言のまま自らのレイピアを握った。


「騒ぐな!! 撃ち殺されてえか!?」


 もう一人の男も銃を取出し、乗客達を威嚇する。

 車内は再び、静まり返った。


 あの二人組が何者か、理解するのに考える必要など無かった。

 柄の悪い銃を手にした男、さらにあの物言いから察するに、間違いなく「強盗」である。


「よしたまえよ君達、他の客に迷惑だろう」


 と、その時――猫型獣人族の少女が、男二人組に向けて言い放った。

 言い放っただけで無く、彼女は座席を降り、通路へと立つ。

 そして自らの姿を、強盗の男二人へと晒した。その手には、鞘に収められたレイピアが握られている。


「オイ、何してんだオマエ殺されちまうぞ!?」


 ルーノが猫型獣人族の少女に言った。

 三発も蹴られたと言えども、黙って見過ごす事は出来ないらしい。

 ロアとアルニカも、猫型獣人族の少女を引き留めようとしたが、それよりも先に、強盗が口を開いた。


「何だ手前、まさかこれが何なのか分からねえのか!?」


 男の一人が、銃口を猫型獣人族の少女へと向ける。

 周囲の乗客達が再び悲鳴を上げた。


「分かるとも、君達はそんな物に頼らなければ何も出来ないのかね?」


「何ィ……!?」


 銃口を突き付けられているにも関わらず、猫型獣人族の少女は顔色一つ変えていなかった。

 

「銃なんかで人を脅すとは……見上げた根性だな、愚か者の証拠だ」


 挑発するかのような言葉を、猫型獣人族の少女は男二人に向けて放ち続ける。

 どうやら彼女の言葉で、強盗は逆上したようだった。


「死にやがれ!! このチビ野郎!!」


 強盗の男の一人が、銃の引き金を引こうとする。

 引き金を引けば、銃口から金属の弾丸が飛び出し、一瞬の内に猫型獣人族の少女の命を奪うだろう。

 正しく、その時だった。


 猫型獣人族の少女はレイピアを鞘から引き抜く。

 白銀に輝く細身の刃が露わになったと思った途端、その刃は紫色の光を纏った。

 持ち手の猫型獣人族の少女の毛並の色を濃くしたような、深い紫色の光。

 ロア達がユリスから授かった武器と同じく、彼女のレイピアにも「魔石」がはめ込まれていたのである。

 色はロア達の「黄色」に対し、「紫色」だった。


「(イワンさんと同じ……呪文を唱えていないのに、剣に光が……!!)」


 側の座席から見ていたアルニカが、心中で漏らす。


「レーデアル・ボルグ!!」“光の盾よ!!”


 猫型獣人族の少女は、呪文と共に紫の光を纏うレイピアを振り下ろす――。

 強盗が銃の引き金を引いたのは、ほぼ同時だった。


 銃声や火花と共に放たれた弾丸は空気を切り裂き、一直線に猫型獣人族の少女へと向かう。

 しかし、弾丸が少女に触れるか触れないかの位置まで飛んだ途端だった。

 バキィィン!! というガラスが勢いよく砕け散るかのような音が響き渡り、弾丸が拉げたのだ。

 

「えっ!?」


 付近で見ていたロア達にも、何が起こったのかは分からなかった。

 拉げた弾丸は、金属音と共に床へ転がり落ちる。


「(今、何が……!?)」


 状況を理解しようと、アルニカは猫型獣人族の少女の周囲を観察し――。

 そして、気付いた。


「(光の、壁……!?)」


 猫型獣人族の少女の前方に、紫色の光の壁が展開していた事に。

 紫色で半透明の、まるでオーロラのような美しさを感じさせる壁である。

 表面には、まるで水面に雫を一滴落としたかのように、波紋が出来ていた。


「魔法の一種……!?」


 言ったのは、ロア。


「……だろうな。さっきアイツ『レーデアル・ボルグ』って呪文唱えてたし」


 続いてルーノ。


 弾丸を阻んだのは、猫型獣人族の少女の魔法で作り出された光の壁だった。

 男が引き金を引こうとした瞬間、猫型獣人族の少女は魔法で光の壁を展開し、弾丸を防いだのだ。


 猫型獣人族の少女は、光の壁を解いた。

 そして彼女は、紫色の光を宿したレイピアを片手に、男二人へと走り寄る。


「っ!?」


 目に見えてだじろぐ、二人組の強盗の男。

 弾丸を防がれただけでなく、猫型獣人族の少女の走る速度。

 十メートル程もあった距離が、一瞬と呼べる時間のうちに詰まっていく。


「殺れ!! 撃てえ!!」


 男二人は、猛スピードで迫りくる猫型獣人族の少女に銃を向ける。

 銃弾が発射される僅か数秒前に、少女は両足に力を込め――勢いよく、跳び上がった。

 撃ち出された弾丸は、少女には命中せずに、汽車の床を抉り取る。


「何っ!?」


 状況を把握出来ない男二人には、さも少女が銃弾を避けたようにしか認識出来なかった。

 だが違う。銃弾を避けたのでは無く、銃弾が発射される直前に、少女が弾丸のコースから外れたのだ。

 跳び上がった少女は、そのまま男二人へと一気に突っ込み――まず一人目の男の側頭部目がけて、回し蹴りを見舞った。


「おごあッ!!」


 巨体で筋肉質な男の体は、蹴りに押し出される形で真横へと吹き飛ぶ。少女の蹴りとは思えない程、衝撃は大きかった。

 が、少女と言えども彼女は猫型獣人族である。

 猫型獣人族の有する能力は、兎型やピューマ型の獣人族と同じく、強靭な脚力。

 ジャンプに特化した兎型と、走る事に特化したピューマ型、その両方の特徴を有しているのだ。

 けれども、猫型獣人族はどちらか一方に特化している訳では無く、ジャンプ力と走力を平均的に併せ持っている。


「この小娘!!」


 仲間を倒されたもう一人の強盗が、少女に銃口を向ける。

 彼女は怯む様子も見せずに、すかさず紫の光を纏ったレイピアを振った。

 その一振りで――男の持っていた銃が切断され、無数の金属の破片となって床へ落ちる。

 銀色の銃身やシリンダー、金色の銃弾が、バラバラと。


「あ、あああ……」


 男には最早、戦意など残されてはいなかった。

 金属の銃を紙のように切り裂く剣を持つ少女に、敵う筈など無い。

 一人は少女の蹴りを受けて昏倒し、もう一人は戦意を喪失、汽車を標的にした強盗は、いとも簡単に鎮圧された。

 

 薄紫色の毛並を持ち、かつ紫色の魔石をはめ込まれたレイピアを持つ、猫型獣人族の少女によって。

 少女は、床に落ちていた銃を拾った。一人目の男が、昏倒する際にその手から落とした物である。


「……野蛮な武器だな」


 忌々しげに呟くと、少女は銃を無造作に投げ捨てた。

 そして彼女は、側に座り込んでいる男に向かって、


「大人しくしていたまえよ、出来る事なら、無駄に命を奪いたくはないのでね」


 言いつつも、彼女は紫の光を纏うレイピアを収めようとはしなかった。

 と、不意に後方から数人の足音が聴こえ、猫型獣人族の少女は振り返る。


「大丈夫!?」


 問いかけて来たのは、茶髪の少年ロア。

 彼と共に、ルーノとアルニカも走り寄って来る。

 

「説明は、不要だと思うがね」


 少女はロア達に、そう答えた。

 ロア達は彼女の側で伏している男と、もはや形を留めていない銃を手にした男に気付く。

 状況は、一目瞭然で理解出来た。


「……大丈夫そうですね」


 アルニカが呟く。


「ところで、また質問をするが……君達、『ニーナ=シャルトーン』を探しにヴァロアスタに行くのだったね?」


 猫型獣人族の少女は、ロア達に確認する。

 強盗二人と立ち回りを演じた筈だが、彼女は息を乱してすらいなかった。


「そう。さっき何か言いかけたみたいだけど、この人の事、知ってる?」


 返したのはロア。

 アルニカとルーノは、少女に注目する。

 そして――その言葉が、少女の口から発せられた。


「私に、何の用だね?」 


「……へ?」


 一文字だけ発したのは、ルーノ。

 何かの聞き違いなのかと、ロア達は錯覚した。


「だから、私だよ」


 薄紫の毛並の猫型獣人族の少女は、ロア達に言葉を続ける。


「私がヴァロアスタ王国騎士団団長、『ニーナ=シャルトーン』だ」


 聞き違いでは、無いらしい。

 ロア、アルニカ、ルーノ、三人の驚愕の声が、汽車内の隅々まで響き渡った。






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