表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/158

第75章 ~それぞれの日常~


「トマトソースのパスタあがったわ。アルニカちゃん、運んでもらえる?」


「はーい、すぐに!!」


 アルカドール王国のレストラン、「ラ・フラージェ」。

 ここが、アルニカのアルバイト先だ。

 時刻は午後12半頃。昼食を摂る為に訪れた人々で、店内は賑わっている。


「お待たせいたしました、トマトソースのパスタです」


 アルニカは、レストランの制服に身を包み、給仕の仕事に励んでいた。

 彼女は、普段は下ろしているオレンジの髪を、ポニーテールに結んでいる。

 左前髪には、いつも通り、髪留めが付いていた。


「それでは、ごゆっくりどうぞ」


 アルニカは客に満面の笑顔を向ける。


(ふう。今日はお客さん、多いなあ……!!)


 給仕をするだけとはいっても、決して楽な仕事では無かった。

 注文を取ったり、料理を運んだり、客が多ければ多いほど、忙しくなる。

 それに、もし疲れていても、それを表情に出してはならない。

 接客は真心と笑顔で、このレストランの方針である。


(でも、今日は早上がりさせてもらうんだし、いつもより頑張らないとね……!!)


 しかしながら、アルニカは一度たりとも、そして僅かたりとも。この仕事に、嫌気を見せたことは無かった。

 自分のレストランを持つ、という夢を持っているアルニカ。

 彼女にとっては、レストランでの仕事は将来の勉強であり、喜びでもあった。


 アルニカに対する評価は大きかった。客からも、そしてラ・フラージェ側からも。

 真面目に、誠意を持って仕事に取り組む彼女を、レストランは高く評価し、

 そして、作り笑顔では無く、心からの優しい笑顔で客に接する接客態度を、客は大きく評価した。

 事実のこと、アルニカがバイトに入ってから、店の売上率は大きく上昇したという。


 ラ・フラージェにとって、アルニカは今や、『看板娘』的な存在だった。


「すいませーん、注文したいんですけど」


 後ろからの客の声。アルニカは振り向いた。


「はーい、すぐに伺います」


 明るく返事を返して、彼女は注文を取りに行った。






「ふ~、やっと終わったね。ルーノ」


「ああ。ようやく、自由だな」


 ロアとルーノ。補習を終えた彼らは、アルカドールの城下町を歩いていた。

 ふと、ロアは学院の方を振り返る。


「リオは一人居残りか……気の毒だね」


 一人補習という拷問に喘ぐリオの姿が、頭に浮かんできそうだった。

 きっと今彼女は、大量に積み上げられた教科書の側で、泣く泣く補習に励んでいるに違いない。


「ま、しょうがねえよ。アイツ授業中寝てばっかいるしな」


 背の小さい、青い兎型獣人族の少年は冷ややかだった。

 イシュアーナの救護所で、耳を引っ張られたことを、まだ根に持っているのかも知れない。


「ん? あれって……」


 ふと、ロアは視界にある人物を捉えた。

 人々が縦横無尽に行き交う城下町の中、彼は道端に置かれたベンチに腰かけている。

 金髪に染められた髪、18歳の割には高い背格好。


「イワンさーん!!」


 セルドレア学院高等部三年生、イワン。

 ロアが手を振って呼ぶと、彼は二人に気付いたらしい。


「お、お前らもしかして、補習の帰りか?」


 そういうイワンも、補習はあった筈だが。

 この他人事のような物言いから察するに……。


「また、サボりか?」


 ルーノが問う。

 一応、イワンは目上の者だが、ルーノはため口。

 イワンは空を見上げる。陽の光が、彼の金髪を輝かせていた。


「ああ。こんな天気の良い日に教室に籠って、あまつさえ教科書と睨めっこなんざ、嘆かわしいだろ?」


 一見すると正論のように聞こえるが、イワンが言うと、どうも説得力に欠ける。


「リオは今も頑張ってるのに……」


「ん、何だロア? あいつ居残りか?」


 ため息交じりのロアの言葉を、イワンは聞き逃さなかった。

 ロアは頷き、


「きっと今頃、ヴルーム先生に絞られてますよ」と告げる。


「あの様子だと、暫く教室に缶詰だろうな」


 ルーノが付け加えた。


「ま、しょうがねーよ。あいつは『バカ』って何回言っても足りないバカだからな」


 イワンはベンチから立ち上がりつつ言った。

 きっとリオは今、教室でくしゃみを連発していることだろう。


「ロア、昼飯どうすんだ?」


 と、ルーノに言われて、ロアは気付いた。昼食をまだ食べていなかった。

 気付いた途端に、急にお腹が空いてきた。

 ぐるるる……ロアの腹部から、空腹の音が鳴り響く。


「あ~、学院の購買部で何か買ってくれば良かった……」


「購買はやってねーだろ? 今日は休日なんだから」


「あ、そっか……」


 イワンに言われて、ロアは気付いた。

 今日は休日だ。購買はやっていない。

 補習を受けてきたせいだろうか、今日が休日だという感覚が薄れていた。


「ん? そういや今日アルニカは? 補習じゃないのか?」


 イワンが、ロアとルーノに問う。

 よく三人一緒にいるのを見かけるが、今日は彼女の姿がなかった。

 一緒に補習を受けて来たのなら、いつも通り三人で帰ると思ったが。


「ああ、アルニカは成績優秀なので、補習免除らしいですよ?」


 ロアが答えた。


「なるほど、流石アルニカだな」


 続いてルーノが、


「アイツ今日確か、レストランのバイトが入ってるっつてたぞ?」


「……あ、そうだ」

 

 ふと、ロアはひらめいた。

 すると、彼はルーノの耳を借りて、ごにょごにょと何かを話し始める。


「? どうした?」


 イワンが問いかけると、


「……名案だな。よし、行こうぜ!!」


 ルーノの言葉と共に、二人の後輩は駆け出し始めた。

 イワンは戸惑う。


「イワンさんも、ほら早く早く!!」


 ロアが振り返り、イワンを手招く。


「? ……どこ行くんだ?」


 戸惑いつつ、イワンも駆け出した。

 とりあえず、彼らの後を追うことにした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ