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第63章 ~ダフィウス~

 アルカドール王国では、学校での授業に剣術や槍術が組み込まれている。

 すなわち、剣や槍に触れたことのない少年少女達が、一から武器の扱いを学ぶことになるのだ。

 教師達の中にはアルカドール騎士団に所属する者もいて、その者達は剣術を担当科目としている。


 数年も剣術を学んだ生徒達は、多少程度は武器を扱えるようになる。

 中には、ロアのように14歳で大人顔負けの剣術の才能を発揮する者もいるし、

 アルニカやリオのように、少女でありながら同年代の少年を打ち負かす程の実力を持つ者もいる。

 生徒と剣の打ち合いをしていた教師が、その生徒に大怪我を負わされたという事故もあったらしい。


 そして、「アルカドールで剣術を学んだ少年少女達の中で、最も強い者は誰か?」と問われれば、真っ先に挙がる少年がいる。

 因みにその人物、「大人顔負けの剣術の才能の持ち主」と謳われるロアではない。

 その者は、今ここで「魔族」と剣を交えている、長めの金髪をした青年。

 イワン=セイヴィルト。アルカドール王国でも多少は名の知れた貴族、セイヴィルト家の一子。


 イワンはロアを超える剣術の才能の持ち主だ。

 これは事実無根の噂や推測などではなく、名実一体の真実。

 事実の事、ロアはイワンを「自分よりも強い」と自負している。

 今ここでダフィウスと剣を交えているイワンを見ても、彼が優れた剣の腕を持っているのは一目瞭然だろう。


 一切の無駄を欠いた動き、そしてかつ素早くも、正確な剣裁き。

 ダフィウスを相手に、一人で互角に戦っていることからも、彼の実力が垣間見える。


「貴殿、中々の太刀筋だな」


 イワンの剣を、両手の剣を交差させて受け、ダフィウスが言う。

 お互いの武器が纏っている魔法の力、オレンジの炎と紫色の雷が衝突する。


「喋ってる余裕があんのか……よっ!!」


 イワンは一度剣を引き戻し、後ろへと後退する。

 そして彼は剣を頭上に掲げ、剣に纏らせた炎を大きく燃えさせた。

 辺りにオレンジ色の光が広がり、熱気が空気を満たしていく。


(魔法使いでもない人間が、あそこまで炎の魔法を扱えるとはな)


 ダフィウスは熱気に腕で口元を覆い、その様子を見ていた。

 魔法を扱うには相当の修練を要する筈だが、イワンは炎を自在に操っていた。

 剣術の腕といい、あの炎の魔法といい、彼の強さは明らかに並大抵のものではない。


「こいつを喰らえッ!!」


 イワンはその場で、大きな炎を纏った剣を振り下ろす。

 すると、それまでイワンの剣に纏っていた巨大な炎が放たれた。

 放たれた炎は、まるでその炎自体が意思を持っているかのように空を飛び、ダフィウスへと向かっていた。

 数秒も経たず、ダフィウスが立っていた場所はオレンジの炎に包まれた。


 イワンは剣を降ろし、眼前に燃え盛る炎を見つめる。

 ダフィウスは避けなかった。つまり、あの炎をまともに受けた筈だ。

 燃え盛っていた炎は、徐々に徐々に小さくなっていく。


「――!!」


 その時、イワンの表情に驚きが浮かんだ。

 弱まっていく炎の中に、一人の人影があったのだ。


「剣術の腕、そして炎の魔法。貴殿の強さは認めよう」


 その人影はダフィウスだった。

 あの炎を正面から喰らった筈なのに、

 不老不死の「魔族」と言えど、あんな炎を受けて生きていられる筈がないのに――まるで何事も無かったかのように、ダフィウスは立っていた。


(やっぱこんなんじゃ、倒されてはくれねーか……)


 薄々気付いていたことだが、「魔卿五人衆」をこんなにあっさりと倒せる筈は無かったのだ。

 雷の魔法を使ったか、或いは他の手で防いだのかは分からない。

 分かるのは、炎の攻撃を完全に避けられた、若しくは防がれたことだった。


「だがしかし、貴殿では俺には及ばん」


 ダフィウスは、再び二本の剣に紫の電撃を纏らせた。


「今度は、俺の番だ」


 イワンにそう告げる。

 するとダフィウスは剣を交差する構えをとり、その両目を閉じる。

 ルビーのように赤い瞳が瞼に隠され、ダフィウスの顔は白一色に染まった。


(何をしようってんだ……!?)


 何が起こるかわからない。目の前の「魔族」の男が、何をしようとしているのかも。

 イワンに出来たのは、炎を纏った自身の剣を構え、事後に備えることだった。


「デオウェイラ、エルシオル、アラニオア……エルダ……!!」


 途端に、ダフィウスの口が小さく動き、呪文を呟き始めた。


(!! こいつ、他にも魔法を……!?)


 イワンの表情が変わる。

 呪文を唱え始めたダフィウス、彼は何かの魔法を使うつもりなのだ。

 どのような魔法かは分からない。雷の魔法かも知れないし、他の魔法かも知れない。


「させるかよ!!」


 すぐさま地面を蹴り、イワンはダフィウスへとの距離を詰める。

 言いようの無い焦りを感じた。

 このまま放って置けば、目の前の「魔族」が何かとんでもない事をしそうな気がした。

 剣が届く範囲まで距離を詰め、イワンはダフィウスに向けて剣を振り上げた。

 その瞬間、


「グラルソルツ・エリヴェンテ!!」“我が下に、全て集え!!”


 止められなかった。

 最後の呪文と共にダフィウスは閉じていた両目を開く。再びその赤い瞳が現れた。

 途端、ダフィウスの両手に握られていた剣に纏っていた紫の雷が、ダフィウスの両手の剣に集まって行く。

 まるで空から落ちた雷が、避雷針に集まるように。


 数秒後、ダフィウスの剣は完全に雷を吸収し、その刀身が紫色の光を放っていた。

 バチバチと音を立てていることから、かなりの電圧で帯電しているのかも知れない。


(何だ、この魔法……!?)


 疑問に思いつつ、イワンはダフィウスに向けて剣を振り下ろした。

 ダフィウスはすぐさまイワンの剣を、両手の紫に光る剣で受け止める。


 ――その瞬間だった。

 イワンの腕から全身にかけて、突然凄まじい痛みが走った。


「があッ!!」


 次の瞬間、腹部に固い物がめり込む感覚がイワンを襲った。

 ダフィウスが繰り出した蹴りが、イワンの腹部を打ったのだ。


「ごほッ……!!」


 イワンは腹部を抑え、後退した。


 ――何だ、一体奴は何をしたんだ、自分は一体、何をされた……!?

 イワンは先ほどの事を振り返り、考える。

 ダフィウスに剣を振り下ろした時、彼はイワンの剣を受け止めた。

 あの刀身が紫色に輝く二本の剣で。


 次の瞬間、腕から全身にかけて凄まじい痛みが突き抜けた。

 まるで、「感電」でもしたかのような。


(!! ……そうか、なるほどな)


 イワンは気が付いた。

 先ほどの、ダフィウスが使った魔法が如何なるものなのか、自分が一体、何をされたのか。


「さっきの呪文、魔法の力を剣に集束させる魔法だな?」


 それが、イワンの導き出した結論。


 彼の言う通りだ。ダフィウスが使ったのは、魔法の力を剣に集束させる魔法。

 辺りに散らせていた雷の魔法を剣に全て集束させ、剣自体に雷の力を宿らせたのだ。

 虫眼鏡で太陽の光を集めれば、紙を焦がすことも可能なように。

 一点に集めたことで、分散させていた力は比べ物にならない程に上昇する。


 イワンは、電撃の力を集めた剣を受けたことで電流を体に流され、感電させられたのだ。

 それが、先ほどの全身を突き抜けるような痛みの正体だ。


「……またご名答。一度この攻撃を受けただけで気付いたのは、貴殿が初めてだ」


 ダフィウスは、紫の光を纏った剣を構え直す。

 やはりそうだった。あの剣には今、かなりの電圧が帯電していることだろう。

 あの剣に少しでも触れれば、また感電させられてしまう。


「だが、貴殿の論には一つ大事な物が抜けているな。『俺を倒す方法』が」


 確かにダフィウスの言う通りだ。

 攻撃の正体が分かった所で、その攻撃を掻い潜る方法が分からなければ何の意味も無い。


「ああ。確かにその通りだな」


 数秒の沈黙の後、


「……けど、それも今分かった」


 イワンが、口元に笑みを浮かべてそう言い放った。


「何……」


 ダフィウスが返した。

 攻撃の正体を見破り、こんな数秒にも満たない時間の間にその対抗策が見つかったと言うのか。

 もしも本当だとしたら、このイワンという男、かなり分析能力に長けている。

 と、ダフィウスは思う。


「ようはその剣に触れなければいい。その剣に触れなければ、感電させられることも無いわけだからな」


 イワンが提示したのは、極めて単純な対抗策だった。


「つまり簡単な事だ、俺は剣を受けずに、全部避ければいいって訳さ」


 それが簡単なことではないのは、イワン自身が一番よく分かっていた。

 剣を受けずに避けるということは、相手の攻撃を「防ぐ」ことは出来ないという事。

 例えるなら、武器を持った相手に両手を縛った状態で挑むような事だ。


 相手は攻撃し放題、こちらはその攻撃を避けつつ、反撃の隙を見出さなければならない。

 かなりのハンデがあった。


 しかし、イワンにはこの方法しか無かった。

 何故なら、彼は剣の他に武器を、遠距離から攻撃できる飛び道具を持っていないから。

 炎の魔法で攻撃しようにも、魔法を使いすぎるのは得策ではないし、それに先ほど防がれたばかりだ。

 このまま炎の魔法を使い続けても、無駄なのは目に見えている。


「……面白い。ではやってみろ」


 そう答えると、ダフィウスは紫の光を放つ二本の剣を握る。

 足に力を込め、再びイワンへと走り寄った。






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