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第57章 ~リオの力~

 ツインダガーを振るい、アルニカは戦っていた。

 その相手はバラヌーンの少年が二人。つまり二対一だ。

 少女達はアルニカを挟む位置に立ち、左右から攻撃を仕掛けている。

 一対一ならばどうとでもなるが、二対一では反撃する隙が見いだせなかった。

 アルニカは攻撃を完全に防いではいたものの、防戦一方だった。

 攻撃を受けると同時に、アルニカはこの状況を打開する策を考えていた。


 どうする? やっぱり一人ずつ倒すしか……アルニカが考えていた時だった。


「ごぼッ!!」


 交戦していた少年の一人が突如、人間の声帯から外れたような声を漏らした。

 彼は口から泡を吹き出し、うつ伏せに地面へと崩れ落ちる。

 少年の背中には、何か棒のような物をねじ込まれたように、服に皺が出来ていた。


 崩れ落ちた少年の陰には、一人の少女の姿があった。

 紫がかったピンクのショートヘアに、大きな瞳。そして、その手に握られた彼女の身長を凌駕する程の長さを持つ、槍。


「リオちゃん……!?」


 少年を打ち倒したのは、リオだった。

 リオは槍の柄を握り直し、視線をアルニカの方に向けると、すぐさまアルニカに告げる。


「アニー、伏せて!!」


「えっ!?」


 言われるがままに、アルニカはその場でしゃがみ、姿勢を低めた。

 と同時に、リオは槍の地面に立てる部分、「石突き」を使い、もう一人の少年の顔面に突きを繰り出した。

 反応する暇も与えない程の速さで繰り出された突きはアルニカの頭上を通過し、

 先ほどまでアルニカと戦っていた、もう一人のバラヌーンの少年の顔面に直撃した。

 ゴキッ!! と鈍い音が響き渡る。と同時に、少年は仰向けに地面に崩れ落ちた。


 ふう、とリオは一息つく。そして槍を持ち直し、アルニカに向き合った。


「ケガはない? アニー」


「う、うん。ありがとう、リオちゃん……」


 その時だった。リオの後ろからバラヌーンの少年が迫っていた。その手には、太い剣。

 先ほど、リオに背中を突かれた少年だった。完全に気を失ってはいなかったのだろうか。

 それでも相当なダメージを負っていたのは間違いなかった。

 少年は不安定な歩調で後ろからリオに迫り、


「死ね、このクソガキがぁあああ!!」


 その叫び声と同時に、リオの背中に向けて剣を振り上げた。


「リオちゃん、後ろ!!」


「わかってる」


 アルニカの言葉に、リオは少しも動じる様子を見せなかった。

 彼女は後ろを少しも振り向かず、槍の石突きの部分で、後ろから迫る少年に突きを繰り出した。

 後ろを僅かも振り向かなかったにも関わらず、突きはさらけ出された少年のみぞおちを捉え、深々と少年の腹部にめり込んでいた。


 突きの勢いで、少年は引っ張られるように後ろに吹き飛ばされた。

 そして、後方に積み上げられていた丸太を派手に蹴散らし、今度こそ本当に気を失った。


「リオちゃん、すご……!!」


 戦いの最中にも関わらず、アルニカは呑気に漏らした。


「アニー、ここはあたしに任せて、ロアとルーノを助けに行って」


 周りの様子に気を配りながら、リオはアルニカにそう告げた。

 また一人、リオに向かって剣を振るってきた。

 リオは槍の柄の部分でで受け止め、すぐさま薙ぎ払う。


「あの二人、凄い数の敵を相手にしてる。二人じゃ倒しきれない」


 リオとアルニカの周りに、次第に何十人ものバラヌーンの者達が集結していく。

 数で襲い掛かり、リオとアルニカを倒すつもりだ。


「早く、行って!!」


「でもリオちゃんは!?」


 リオは促すが、アルニカは首肯できなかった。

 当然だ。今ここを離れれば、残されたリオはこの数の敵と一人で戦うことになる。


「あたしは大丈夫。だから早く!!」


「……」アルニカは、黙ってリオの顔を見つめていた。


「アニー!!」


「……うん。ありがとう、リオちゃん!!」


 アルニカはリオの側を離れ、ロア達の元へと駆け出して行った。

 走り去っていく彼女の後ろ姿を横目で見届けて、リオは自分の眼前の状況を見る。


 彼女の前には、ざっと数えて50人以上のバラヌーンの少年少女達が集結していた。


(流石にこの数は……キツいかな)


 心の中で、弱気な言葉を漏らす。

 だがそれでも、リオは冷静だった。その表情には、緊張も恐れも浮かんでいない。

 何故なら、彼女にはまだ「隠し玉」が残されているから。


“わかっているとは思うが……『あの力』は使うなよ”


 脳裏に、団体戦の時のヴルームの言葉が過った。


(……ヴルーム先生、今なら使ってもいいよね。『あの力』を)


 リオは両目を閉じた。

 両目を閉じて、槍を斜めに立て、そして右手を槍の柄から離す。

 左手だけで槍を持ち、離した右手を銀色の槍頭へ添えた。

 そして彼女は、ゆっくりと口を開く。


「ロヴェアティル・ユーラセア・アンデルフィル・アクラ……」


 目を閉じたまま、リオは小声で、呪文のような言葉を呟いていく。

 それと共鳴するかのように、リオが右手を添えている槍頭に、次第に赤い炎が迸り始める。


「かかれ!!」


 眼前の50人以上のバラヌーンの者達が、一斉にリオへと走り寄って来た。


「セイヴェニア・エレノール・ヴァラトーラ……エンタ……!!」


 呪文を唱えるリオの声が、徐々に大きくなっていく。

 そして、バラヌーンの少年の一人がリオに向けて剣を振り上げた時、


 リオは閉じていた両目を開き、


「アノーレア・デ・フレイヴィネア!!」“我に炎の加護を!!”


 最後の呪文を言い終えると同時に、右手を添えていた槍頭から、巨大な炎が発生した。

 たき火に油を注いだように、槍頭から突然炎が燃え上がったのだ。

 辺り一体がオレンジに照らされ、熱気が空気を満たしていく。


「何だ!?」


「こいつ、何をした!?」


「炎だと!?」


 ざわめきが走り始める。

 突然の出来事に、リオに攻撃を仕掛けようとした少年だけでなく、バラヌーンの少年少女全員が怯んだ。

 当たり前と言えば当たり前だろう。槍の先から炎を発生させるなど、普通に考えれば在りえない事だ。


「さあて、一気に行くとしよっか……!!」


 だじろぐ少年少女達、対してリオは炎を纏った槍を構え、姿勢を低める。

 そして、地面を思い切り蹴り、リオは弾丸のような勢いで50人の敵に向かって突進して行った。

 その時、リオの衣服の袖がめくれ、彼女の左肩の刺青が見えた。

 赤い色で彫られた、炎を纏った鳥のような刺青。これはセイヴィルト家の家紋だ。






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