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第51章 ~イシュアーナ正門~

 ロア達や騎士団や、イワン率いるエンダルティオの戦士達がアルカドール王国を発ち、イシュアーナへと向かっている頃。


 イシュアーナ共和国の丘の上に立つ、宮殿のような外観の巨大建造物。

 イシュアーナの街や海を一望に出来る場所にあるこの建物は、『イシュアーナ聖堂』と呼ばれている。

 その聖堂の会議室で、六人の人物が円卓を囲んでいた。


 その六人のうちの四人は、60歳くらいの初老の男性。あとの二人は他の四人とは違い、若い男女だ。

 一人はピューマ型獣人族の男性、そしてもう一人は、長いポニーテールを後頭部で丸くまとめた髪型の、人間の少女だ。

 一般的に『シニヨン』と呼ばれる髪型。少女の髪は緑がかった明るい青色で、見ているだけで涼しく感じそうな色をしている。


「先程、ユリス女王からの知らせがあった。『魔族』の侵攻に対し、この国に騎士団や、エンダルティオを送るそうだ」


 男性が告げると、「本当ですか、議長閣下……」「それは朗報だ……!!」「今の我々にとって、何よりも嬉しい知らせですな……」

 他の三人の男性がざわめく。ピューマ型獣人族の男性と、シニヨンの少女は、黙ってその様子を見つめていた。

 議長閣下と呼ばれた、白髪の目立つ初老の男性の名はチェザーレ。


 イシュアーナは「共和国」だ。アルカドール王国等の君主国と違い、王ではなく、国民全体で国を所有している。

 つまりは、「王がいない国」なのだが、国民によって選出された政治家は存在する。

 それが、この会議室にいる四人の初老の男性だ。


 そして、チェザーレはその四人の内の最高権力者である。


「ヒュウ、そしてミロル。この戦いに負ければ、伝統あるこのイシュアーナ国は終わりを告げることとなる」


 チェザーレは、ピューマ型獣人族の男性と、シニヨンの少女に告げる。


「承知しております、チェザーレ様」


 答えたのは、ピューマ型獣人族のヒュウ。

 暗めの緑色をベースに、所々黒い模様が入った毛並、そしてガラス玉のように大きな、瑠璃色の瞳が特徴だ。

 ヒュウは23歳、そして、イシュアーナ共和国の騎士団の団長だ。


「わたしも同じく……」


 ヒュウの後に、シニヨンの少女は囁くような小さな声で答えた。

 チェザーレは彼女を「ミロル」と呼んだが、それは彼女の正しい名前ではない。正しい彼女の名は、「ミローイル」だ。

 ミローイルは17歳、彼女はイシュアーナのエンダルティオの団長である。


「望みは、そなたら若者達に託された。アルカドールと協力し、どうかこのイシュアーナ共和国を『魔族』から救ってくれ」


「御意に」ヒュウが答えた。


 ミローイルは声には出さずに、チェザーレと視線を合わせてこくりと小さく頷く。


「……では、これにて閉会とする。あと30分もすれば、アルカドールからの援軍が到着するだろう」


 会議の終わりを告げるチェザーレの言葉。円卓を囲んでいた六人は椅子から立ち、会議室の入り口へと向かう。


 会議室を後にし、ヒュウとミローイルは聖堂の回廊を歩いていた。

 回廊からは、街並みやイシュアーナの近海が一望に出来た。

 イシュアーナ騎士団団長のヒュウと、イシュアーナのエンダルティオ団長のミローイル。二人とも、国を背負って戦う者達の代表だ。

 その立場故に、不安も大きかった。特に、歳若い少女のミローイルは。


「どうした?」


 隣を歩いていたミローイルが、急に足を止めた。

 彼女は視線を横へ向けて、海を見ている。


「このように、聖堂から海を眺められる日は、また来るのでしょうか……」


「……不安なのか? ミロル」


 ヒュウの言葉に、ミローイルは答えなかった。

 答えずに、彼女はただじっと海を見つめているだけだった。


「不安は誰しも同じことだ、それに私達にはまだ希望がある。かの『三大国』の一つ、アルカドールが味方についてくれるんだ」


 ミローイルの背中に、ヒュウは語りかける。


「だから、アルカドールと共に、最後まで望みを捨てずに戦い抜こう。このイシュアーナを守るために」


「……はい」


 少女はゆっくりとヒュウを振り向き、小さく頷きながら返事をした。


「門へ行こう、アルカドールの者達を迎えに」


 ミローイルを促し、ヒュウは再び歩を進める。






 ロア達三人、ヴルーム率いる騎士団、そしてイワン率いるエンダルティオ。

 彼らがイシュアーナ共和国の正門の前に到着した頃、時刻は午後五時過ぎだった。

 海が近いからだろう。海鳥の鳴く声や、強い潮の香りがする。


「ここが……イシュアーナ共和国」


 眼前にそびえ立つ門を見つめ、ロアが呟く。


「そう。そしてアルカドールの同盟国だ」


 ヴルームがそう続けた。

 本来、騎士団を率いるのは団長のロディアスだが、彼は今回、万が一の場合に備えてアルカドールに残った。イルトも同様。

 そこで、副団長のヴルームが騎士団を率いて来たということだ。


「イワン」


「はいよ」


 ヴルームはイワンを呼び、後ろの者達を残し、彼と二人で正門へと歩み寄る。


「アルカドール王国君主、ユリス女王の命の下に貴国の救援に参った!! 開門願う!!」


 正門に近づくと、ヴルームは門に向かって叫んだ。

 後ろのアルカドールの騎士団や、エンダルティオの少年少女達、一人一人の耳に届く程の声。


 そのヴルームの声が、門の向こうにいる誰かに届いたのだろう。

 石造りの巨大な門がゆっくりと開かれる。その向こうから二人の人物が姿を見せ、ヴルームとイワンの元に歩み寄って来る。

 一人は暗い緑色の毛並のピューマ型獣人族。もう一人は、シニヨンの髪型の人間の少女だ。


「初めまして。イシュアーナ共和国騎士団団長、ヒュウです」


 ヒュウは、ヴルームに右手を差し出して、握手を求める。

 ヴルームはその手をとり、


「アルカドール王国騎士団副団長、ヴルームです。よろしく」


 そう挨拶を返す。

 彼らの隣では、イワンとミローイルが向かい合っていた。


「イシュアーナ共和国のエンダルティオ団長、『ミローイル=ウィオラ』です……『ミロル』と呼んで下さい……」


 イワンは内心驚いていた。まさか、女の子がエンダルティオの団長を務めているとは思わなかった。

 それに、こんなにおとなしそうな子にエンダルティオの団長が務まるのだろうか?

 失礼だと思ったが、エンダルティオの団長を務めているイワンは、その大変さをよく知っている。

 だから、そう思わずにはいられなかった。


「『イワン=セイヴィルト』、エンダルティオの団長同士、よろしくな」


 フルネームで自己紹介されたので、イワンも無意識にフルネームで自己紹介を返していた。


「あ……」


 すると、ミローイルがイワンの顔をじっと見つめていた。

 まばたきもせず、まじまじと。


「何? もしかして俺の顔に何かついてる?」


「あ!! い、いえ!! すみません……」


 顔に手を当てながらイワンが聞き返すと、ミローイルは慌てながら答えた。

 彼女は視線をイワンから逸らし、微かに頬を赤らめているように見える。


「はるばる、遠路をお疲れでしょう。兵士達を国の中へどうぞ、ホテルへとご案内致します」


 ヒュウが、ヴルームにそう促す。


「気遣いをありがとう、助かる」


 ヴルームは後ろを振り返り、騎士団やエンダルティオの少年少女達に合図を送る。

 こちらへ、という意味の合図だ。


「では、私について来て下さい」


 そう言うと、ヒュウとミローイルは踵を返し、門の向こうへと歩き始める。

 ヴルームとイワンはその後ろに続き、騎士団やエンダルティオはその後ろへ続いた。


(何でさっき、俺の顔をじっと見てたんだ?)


 イワンは歩を進めながら、前を歩くシニヨンの少女の背中を見つめて心の中で呟いた。






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