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第48章 ~ロア対アルニカ~

 第三戦は、ロア対アルニカ。その二人とも、学院の中等部を代表する剣術の実力者だ。

この修練場にいる者達にとっては、この戦いは注目の一戦だろう。

ヴルーム、リオ、カリス、エカル。皆、ロアとアルニカの様子に見入っている。


(『大人顔負けの剣術の才能の持ち主』かあ。ロア、その実力見せてもらうよ)


 ロアの横顔を見つめながら、リオが心の中で呟いた。ロアが戦う所を見るのは、リオは今日が初めて。

 この戦いでアルニカが負けたら、次にロアと戦うのはリオだ。

 その為にも、ロアの強さが如何ほどなのかを見ておきたかった。


 リオは視線をアルニカへと移して、


(頑張ってね、アニー)


 第一戦から続けて戦っているアルニカは、すでにツインダガーを手にしていた。

 ロアは彼女に向かい合うように立ち、剣を鞘から引き抜く。


「カリス、持ってて」


 剣を引き抜いた後、ロアは鞘をカリスへと投げ渡した。

 カリスが鞘を受け取ったのを確認して、ロアはアルニカに向き直ると、両手で柄を握り、剣を構える。

 アルニカも、ツインダガーを構えた。


「今までと同じように、お互い手加減はなしね。ロア」


「わかってる。いつも通り全力で行くよ」


 ロアとアルニカ。二人は剣術の授業で何度も戦ったことがあった。これから始まる戦いで、何度目なのだろうか。

 それすら思い出せないが、二人にとってそんなことは取るに足らないことだった。

 なぜなら、二人にとって一番大事なのは、今これから始まる戦いだからだ。


 ロアとアルニカは互いに向き合い、他の者達はそれを見守る。いつしか修練場の空気は、緊張で満たされていた。


(……さっさと始めろと言わんばかりの空気だな)


 ヴルームは心の中で呟く。

 いつでもいい、早く初めてくれ。剣を構えて向かい合う二人の横顔が、そう言っているような気がした。


「……よし。第三戦、ロア対アルニカ、始め!!」


 何度目なのかもわからない二人の戦いが、今始まった。

 二人同時に地面を蹴り、一気に相手へと走り寄る。一秒の後、ロアの剣とアルニカのツインダガーがぶつかり合った。


 先ほどのカリスとの戦いでは守りに徹していたアルニカ、今度は積極的に攻めていた。

 ツインダガーによって繰り出される、俊敏で無駄の無い攻撃。アルニカの動きを見ていた誰もが、改めて彼女の実力の程を実感しただろう。


(やっぱり強いな、アルニカ)


 前に戦った時は、彼女はこんなに強かっただろうか。

 戦っている最中にも関わらず、ロアもアルニカの強さに関心した。


 だが、そう簡単にはロアも譲らない。アルニカの攻撃を受けつつも、反撃を繰り出している。

 アルニカの二本のダガーによる攻撃を一本の剣で防ぐだけでも精いっぱいの筈だが、合間のわずかな隙を見切るのは正に至難の業。

 さらに、その数秒にも満たない隙を突いて攻撃を繰り出すのは、もっと至難の業だ。

 ロア程のセンスがあって、初めて成せる業だった。


「すっごいなあ……ロアもアニーも……」


 傍らで戦いを見ていたリオが、感嘆の声を漏らした。

 アルニカの素早い動き、その素早い動きから繰り出される攻撃を見切るロア。

 恐らく今までリオが戦ってきた相手とは、二人とも段違いの強さだ。


「よく見ておけリオ。あの二人は、中等部きっての剣術の実力者だ」


 声の方を振り向く。

 リオにそう促したのは、ヴルームだった。


「ヴルーム先生。あの二人って、あんなに強かったんですねえ……」


「ああ、槍術のお前は知らなかっただろ?」


 ヴルームは腕を組み、二人の戦いを見る。何度見ても、二人の強さには光る物があった。

 何人もの生徒に剣術を教えてきたが、あれほどに剣を扱える生徒は数える程しかいなかっただろう。


(……やはり、ロアを選んだユリス様の目に、狂いはなかったか)


 教師であり、アルカドール騎士団副団長のヴルーム。

 生徒の身を案じる立場故に、ロアが「魔族」を滅ぼす役目を負ったと聞いた時は、驚きを隠せなかった。

 確かにロアが強いことは知っていたが、まだ彼は14歳の少年だ。その彼に背負わせるには、余りに重すぎる荷だと思った。


 しかし、彼が戦っている様子を見れば、それは無用な心配だったかも知れない。

 それに彼は決して一人ではない。彼には、アルニカにルーノ、リオも、他にも沢山の友達がいる。


 ロアの横顔を見ながら、


(ロア。入学した頃と比べると、活き活きとした表情をしているな)


 ヴルームは心の中で呟いた。


「先生、ロアをうちの兄と戦わせてみたらどう? ロアなら勝てるかも知れないですよ?」


「いや、イワンの強さはまた別格だ。おそらくロアは勝てない」


 リオは視線をロアの方に向けて、「そーかなあ……」と小さく呟く。

 ヴルームの言う通り、イワンの強さはロア以上だ。今のロアでは、まず敵わないだろう。


「ところでリオ、お前もいずれはイワンと共にセイヴィルトの名を背負うことになるんだ」


 セイヴィルトとは、リオとイワンの名字。アルカドール王国でも名の知れた、貴族の家系だ。

 ヴルームは続ける。


「その肩の刺青に恥じないよう、しっかり精進しろよ」


「……」リオは左肩に手を当てた。


 不意に、剣を弾くような金属音が修練場に響き渡る。戦況に変化があったのだろうか、リオとヴルームはロア達の方に向く。

 ロアは剣を持っていたが、アルニカの両手に握られていた筈のダガーが、二本とも無くなっていた。

 それから数秒。カランカラン、という金属音と共に、アルニカの二本のダガーが床に落ちた。


 ロアが、アルニカのツインダガーを弾き飛ばしたのだ。


「あ……」


 アルニカは呆然とする。それは一瞬の出来事だった。


「そこまで!! 第三戦は男子チームの勝利!!」


 ヴルームが試合を止めた。試合の決する条件は「膝をついたら負け」だったが、ヴルームの判断で試合を止めることもあるとのことだった。

 その基準は定かでは無かったが、武器を弾き飛ばされることは、試合を止める条件になるようだった。


 女子チーム二勝に対し、男子チーム一勝。ようやく男子チームが一勝した。


「あ~あ、やっぱりロアには勝てないなあ……」


 二本のダガーを拾って鞘に収め、アルニカがリオの元に歩み寄る。

 リオは、槍を片手にその場に立ち上がった。


「お疲れアニー、あとはこのリオちゃんに任せて休んでなさい」


 アルニカにそう声をかけて、リオは修練場の中央へと歩み寄る。


「リオ」


 不意に、ヴルームがリオを呼び止め、彼女の近くに歩み寄って来た。

 そして周りに聞こえないくらいの声で、


「わかっているとは思うが……『あの力』は使うなよ」


 リオにそう耳打ちした。ヴルームは、真剣な面持ちだった。


「わかってるよ先生。いくらなんでもこんな所で使ったりしない」


 そう返答すると、リオは再び中央へと歩を進める。

 ロアの前に立ち、槍を構えた。


「第四戦、ロア対リオ、始め!!」


 前置きは必要ないと思ったのだろう。ヴルームはすぐに、試合開始の合図をした。






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