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第3章 ~ロアの力~

「オイそこのメスガキ!! 殺されたくなけりゃ大人しくしろ!!」


 男の一人が、アルニカにナイフをを向ける。

 彼が吐いた「メス」という、まるで動物を扱うような言葉が気に入らなかったのだろう。

 アルニカはドン、とカウンターを叩いて、


「め……メスって……!!」


 相手が年上の男で、それもナイフを持った強盗だということすら忘れて、


「人のことを動物みたいに言うんじゃ……むぐ!?」


 そこまで言いかけて、アルニカの言葉は止まった。いや、止められた。

 ルーノの、フサフサに毛の生えた手が、彼女の口を塞いだから。


「ちょ、なによルーノ……」


「やめとけアルニカ、相手は一応強盗だぞ?」


「おいテメエら!! 何ゴチャゴチャ喋ってやがんだ!?」


 アルニカとルーノの話を割って、男がそう言った。

 そして周囲の人間の様子を伺いながら三人の方へ歩み寄ってくる。

 マスターに麻袋を渡した方の男が、「丁度いい、そのメスガキを人質に取れ!!」と告げた。


「メ……また……!!」


「へっ、わかったよ」


 そう答えた男は、アルニカへ近づきながら、


「悪いなお嬢ちゃん、すまねえが人質になってもらうぜ? お、よく見りゃなかなか上玉じゃねえか」


 アルニカは、「メスだの何だの……!!」とぶるぶると震えながら呟いている。

 そんなアルニカを間近で見ていたルーノは、ロアに「なあロア、大丈夫か?」と耳打ちした。

 ロアは、「いや、大丈夫じゃないと思う……」と答えた。


 二人のやり取りをそばで聞いていた客は、「大丈夫じゃないとわかっているなら、彼女のために何かしないのか」、「友人の危機なのに、このまま指をくわえて見ているつもりか」。

 といったような表情を浮かべていた。


「なあお嬢ちゃん、よかったらこの後俺達と遊ばねえか? ま、無傷で帰れる保証はねえけどなあ……」


 そう言いながら、男がアルニカの肩に手を回そうとした、その時だった。


「汚い手で……!! 触んないでよ!!」


 怒りが丸出しになったアルニカの声。

 ドスッ!! という音と共に、店の中に一瞬振動が走る。男の足の甲に、アルニカのブーツの踵が直撃していた。


「い、い、い……い#&=|$?痛”。<β:*9%htギャ@+^α{}――――ッ!!」


 声にもならない声を上げながら、男は右足の甲を押さえながら地面に転げ回った。

 少女といえども、ブーツの踵に全体重をかけたストンプ、かなり効いただろう。


「やっぱり大丈夫じゃなかったね」


 とロア。

 ルーノは「ああ」と頷いた。


 そう、先ほどのルーノの「大丈夫かな?」という言葉は、なにもアルニカの身を心配して言ったわけではない。

 つまりは、不用意にアルニカをキレさせた、男の身を案じて言ったのだ。


「て、めえ……ぶち殺してやる!!」


 男は右足を押さえながら立ちあがり、

 アルニカに向かってナイフを構え、けたたましい足音を響かせながら突進した。

 店中に再び悲鳴が響く、誰もが最悪の展開を予想していた。


 しかし、ナイフがアルニカへ届くことはなかった。

 気づいた時、男はナイフを持った右手を押さえられ、突進の勢いも殺されていた。


アルニカの隣に立っていた一人の少年――ロアによって。


「え、は……はァ!?」


 強盗の男は、何が起こったのか理解できなかった。

 少女に向けてナイフを構えて、そして彼女に向かって駆け寄った。そして、ナイフが少女の体に突き刺さる……筈だった。


 ナイフが少女に届こうとしたその瞬間、

 何者かにナイフを持つ手を掴まれ、そして突進も止められた。


「な……に……?」


 そして何よりも男を驚かせたのが、自分の突進を止めたのが、少女と一緒にいた一人の少年ということだった。


「恥ずかしくないのおじさん、女の子相手にナイフを向けるなんて」


 驚きの表情を浮かべる男の顔を見て、ロアが言う。

 身長の差もかなりある。体重も倍近くあるかもしれない。普通に考えれば、こんな子供に自分の突進を止められる筈がないのだ。


「この……ガキィ!!」


 男はロアの手を振りほどくと、ナイフを逆手に持ち替えて振り上げる。

 そしてロアめがけて、力の限り振り下ろした。


 だが、ナイフがロアに届くことはなかった。ロアは体をゆっくりと横へ向ける。

 たったそれだけの行為で、男のナイフは目標を失い、後ろにあった椅子の背もたれを切断した。

 喫茶店の床に、木屑が散らばる。


「じっとしてやがれ!!」


 男は再びナイフを構え、ロアへと突進する。

 そして、何度も彼に向けて振りかざした。しかし、ただの一度も刃は少年に届かない。


「……あの礼儀知らずな男、ちゃんと学校に出ててたのかな?」


 アルニカがそう漏らす。

 このアルカドール王国では、学校では古文や数学の他に、剣術の授業も義務づけられている。

 もちろんロア達三人も、学校で剣術を学んでいる。

 よほど怠けてでもいない限り、ある程度は剣やナイフを扱えるようになる筈だ。


 しかし、男の構えは滅茶苦茶だった。脇は開きすぎているし、肩に力が入りすぎだ。隙をついてくれと言わんばかりに、無駄な動きも多い。

 おそらくは、学校になど出ていなかったか、もしくはサボってばかりいたのだろう。


 ロアは床に落ちていた木の棒を拾った。

 先ほど、男が壊した椅子の背もたれの一部分だ。切断された断面が、刃物のように鋭利に尖っている。


「ウネウネよけてんじゃねェぞ、このガキィ!!」


 叫び声と共に、男は懲りずにロアに襲いかかった。そしてロアの顔面へとナイフを向ける。

 ロアは表情を一瞬も曇らせずに、トン、と男の腕を少し右へと押し出す。

 ロアの右頬を、ナイフがかすめていった。


 男が向き直った瞬間、男の眼前には鋭利に尖った棒の先が突き付けられていた。


「あ、ああ……」


 腰の力が抜けて、男はその場にへたり込んだ。

 男は戦意を失ったらしい。「こ、こんなガキに……」などと呟いている。


「ロアに勝てるわけないのにな」


 とルーノ。アルニカは、


「本当よね。だってロアは、剣術に関しては大人顔負けの才能の持ち主だもの」






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






【キャラクター紹介 01】 “ロア”


【種族】人間

【性別】男

【年齢】14歳

【髪色】ミディアム・ブラウン


 アルカドール王国のとある小屋に一人で住む心優しい性格の少年。孤児院出身であり、両親の所在は不明。

 生活保護を受けながら、近所の果物屋でアルバイトをして暮らしている。

 大人顔負けの天才的な剣術の才能の持ち主であり、習得難易度の高い高等剣術、「アルヴァ・イーレ」を習得している。

 アルニカ、ルーノとは幼い頃からの仲で、今でも三人でいることは多い。




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