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第43章 ~授業~

「アスヴァン大戦で最も猛威を振るっていたとされる『魔物』が、この……」


 ヴルームは黒板にチョークで書き込み、教室の奥まで届き渡る声で、内容を読み上げていく。

 教室に居る30名ほどの生徒達の中には、ヴルームの話を聞いている者や、羽ペンで黒板を写している者もいる。

 そしてロアは机に頬杖をついて、教室の天井を見上げていた。


「早く剣術の授業にならないかな……」


 ロアは教室の壁の時計を見つめ、人差し指で机を叩きながら小声で呟く。

 時よもっと早く進め。と念じてみても、時計の秒針が進む速さは変わらない。

 不意に背中を指か何かでつつかれたような感触がして、ロアは後ろを振り向いた。


「休んでたんだし、ちゃんと授業に集中しなきゃダメだよ?」


 周りに聞こえないよう、小声で言ったのはアルニカだった。

 彼女の席はロアの後ろで、腕を伸ばせば背中をつつけるくらいの距離だ。

 ロアは小声で呟いたつもりだったが、彼女には聞こえていたのだろうか。


「……だってアスヴァン史なんて黒板を写すだけだし、ヒマだよ」


 欠伸混じりに、ロアはアルニカに答える。

 アスヴァン史の教科書を手に取り、パラパラとページをめくりながら、


「それにこんなの、実際の生活には必要ないと思うし……」


「でも、魔族の事とかを知っておくのは私達にとっては役に立つんじゃない?」


 アルニカの言うことにも一理あった。

 確かにアスヴァン史の授業が終われば次は剣術の授業だし、今は我慢しておこうかな。ロアはそう思った。

 ふと、ロアは自分の隣の席が空席になっていたことに気付き、アルニカに問う。


「そういえば今日、ルーノは?」


 ロアの隣はルーノの席だが、彼は欠席だった。アルニカは両掌を上に向けて首をかしげ、


「わかんない。来る時も会わなかったし、寝坊したのかも?」


 アルニカが答えた後、不意に「く~……」と、いびきをかく声が聞こえた。

 ロアとアルニカはその声の方を向く。

 いびきをかいていたのは、ロアの斜め後ろ、アルニカの隣の席に座っていた少女、リオだった。

 頬杖をつき、ショートヘアの髪を揺らしながら、かくんかくん、と規則正しいリズムで頭を揺らしている。

 彼女は、夢の世界に行ってしまっているらしい。


「リオちゃん、リオちゃん?」


 アルニカが呼びかけたが、反応は無かった。

 彼女は手を伸ばし、リオの肩を軽くゆする。


「ふぇっ!?」


 夢の世界から引き戻されたリオは、電撃が走ったように体を震わせた。

 起きたばかりで眠気の覚めない意識のまま、視線を隣のアルニカへと向ける。


「どうかした? アニー」


 目をこすりながら、リオはアルニカに言った。

 どうして彼女はアルニカの事を「アニー」と呼ぶのか、ロアはかねてから疑問に思っていた。

 何度かその理由を尋ねたことはあるが、リオ曰く「秘密」とのこと。


「リオちゃん、いびきかいて寝てたよ?」


 さらにアルニカは、リオの口元を指差して、


「それと口の下によだれついてる」


「げ!! ほ、ほんとに!?」


 赤面し、リオは慌てて衣服の袖で口元を拭う。


 紫色がかったピンク色のショートヘアが印象的なリオは、ロアやアルニカのクラスメートだ。

 底抜けに明るく、かつ嫌味の無い性格の持ち主で、クラスではムードメーカー的な存在。

 学院の教師達の間では、「遅刻居眠り常習犯」という通り名で有名。

 遅刻を繰り返したせいで、一時は進級に危機感を覚えたこともあるらしい。


 その堕落した生活態度からはにわかに信じがたいが、彼女はアルカドール王国でも名の知れた貴族の娘だ。

 普段は衣服で隠しているが、左肩に家紋の刺青がある。


「え~、まだこれしか時間経ってないの?」


 リオは教室の時計を見て、落胆したように言った。

 彼女は机に頬杖をつき直し、


「あ~あ、早く槍術の授業やりたいなあ……」


 憂鬱そうな表情で、ぼそりとロアのようなセリフを漏らす。


 槍術とは、槍を扱う武術だ。

 セルドレア学院の生徒の大半は剣を武器として使うが、リオは槍を使う。

 彼女曰く、「剣は皆使ってるし、槍の方が格好良さそう」とのこと。


 ロアもアルニカも、リオが槍を振るっている所は見たことがないが、

 リオと一緒に槍術の授業を受けている者からは、「強い」と聞いている。


「同感だよ、リオ」


 頷きながら、ロアはリオに言った。


「もう……」


 アルニカはあきれ気味に、


「リオちゃんもロアも、アスヴァン史は苦手なんでしょ? 真面目に授業受けてないと、本当に落第しちゃうよ?」


「どうせ真面目に受けてたって……」ロアがそこまで言った時、


「誰だ!? 喋ってる奴は!?」


 教室の中に、ヴルームのその声が響いた。

 黒板に書き込む手を止めて、ヴルームは視線をロア達のほうに向ける。


「ロア、リオ、お前等か?」


 静かな口調ながら、威圧感のあるヴルームの声。

 ヴルームは普段は優しく生徒に接するものの、私語などの授業を妨害するような行為には厳しい教師だ。

 怒らせた時の怖さは中等部でも有名で、毎年学院で行われる「怒ると怖い先生ランキング」で、常に三位以内にランクインする程。


「あ、いや……あたし達は、その……」


 手をばたつかせながら、リオは弁解する。

 ヴルームから視線を逸らし、言葉を探すように視線を泳がせる。


「僕達は、えっと……」


 ロアも同様だった。


「すみません」不意に、リオの隣でアルニカが立ち上がった。


 ロアとリオは、アルニカの顔を見上げる。


「私の独り言です」


 見かねたアルニカが、助け舟を出した。


「……独り言?」

 

 ヴルームは答える。


「アルニカ、お前そんな癖があったのか?」


 教壇の上に置いてあった教科書を開き、犬型獣人族の教師は、


「ではアルニカ、教科書112ページの『デルズロイ』という魔物について簡潔に説明してみろ」


「はい」アルニカは頷く。


 もしかしたら自分に回ってくるかもしれない、ロアもリオも同じ事を思い、教科書の112ページを開く。

 ページの上半分に、魔物の絵が描かれている。一緒に描かれている人間の大きさからみて、非常に巨大な体格の魔物のようだ。

 その頭から生えた大きく湾曲した角、不気味な光を放つ両目。「災厄」という言葉を、そのまま形にしたような姿の魔物だった。


「『デルズロイ』は、アスヴァン大戦で最も多くの「人間」や「獣人族」の命を奪ったとされる魔物で……」


 教科書に描かれた「デルズロイ」の絵を見つめながら、ロアとリオはアルニカの説明を聞いていた。






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