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第42章 ~セルドレア学院~

 翌日の朝、朝食や洗顔を済ませたロアは、学校に行く準備を整えていた。

ベイルークの塔に向かっていた間、ロア達は休学届を出して学校を休んでいたが、今日は数日ぶりの登校日。

 ロアは壁に貼られた時間割表を見ながら、


(……数学)


 ロアは机の上の本立てに置かれていた数学の教科書を手に取り、それをカバンに詰める。

 もう一度、時間割表に視線を向ける。


(次に……アスヴァン史か)


今度は本立てからアスヴァン史の教科書を取り、同じようにカバンに入れた。


「あとは……ん、剣術」


 今日は剣術の授業がある日だった。

 ロアは勉強嫌いではなかったが、ただ座って教師の話を聞き、黒板を書き写すだけの授業は退屈極まりない。

 しかし、体を動かして剣の技を学ぶ剣術の授業は好きだった。


 鞘に納められた愛用の剣を掴み、それもカバンに入れる。

 剣術の授業に教科書は無い。授業道具は、生徒達が使う武器だけだ。

 ちなみに、生徒が持ち込んだ武器は朝一番でクラスの担当教師に預けることになっている。これは、安全面を考慮しての規則だ。


「さてと……!!」


 準備は出来た。ロアはカバンを肩に掛けて立ち上がる。

 教科書に加えて剣も入れているせいだろう、カバンはなかなか重い。

 窓を閉めて戸締りを済ませ、ロアは玄関へと向かった。






 ロアやアルニカ、そしてルーノが通う「セルドレア学院」は、アルカドール王国の中でも一際大きな教育施設だ。

 人間に獣人族、孤児院出身の者や貴族の子息まで、様々な種族、身分の者が通っている。

 初等部、中等部、高等部が存在し、総生徒数は2000人近くにもなる。


 その校舎は豪華かつ荘厳な造りで、中庭には庭園に噴水、その外観は「学校」というよりも王族が住むような「宮殿」に近い。

 教室や購買の他にも音楽館や美術館、運動場、剣術の訓練場。

 そして講堂など、充実した施設が揃っており、入学したばかりの新入生が校内で迷子になることも珍しくなかった。


 規模だけではなく、学力も剣術の強さもアルカドール王国の教育機関の中でトップクラス。卒業生の中には学者として名を馳せたり、アルカドールの騎士団に入団した者も多い。

 現在のアルカドール王国騎士団団長、ロディアスもその一人である。


「あ、先生!!」


 自分のクラスに向かっている途中、ロアは自分の前を歩いていた後ろ姿にそう呼びかけた。

 呼びかけられた男性は後ろを振り向く。


「おおロア、久しぶりだな」


 ロアの顔を見て、その男性はそう返した。

 男性は犬の獣人族で、背が高く、毛並の色は快晴の空のような水色。

 ラータ村で出会った狼型獣人族のガルーフに似た容姿をしているが、彼に比べて毛の量は少なく、すっきりとした感じがする。

 犬歯も、ガルーフ程鋭くはない。


 この犬型獣人族の男性の名は「ヴルーム」。彼はセルドレア学院所属の教師であり、ロアのクラスの担任を受け持っている。

 担当科目は、「アスヴァン史」と「剣術」だ。


「休学の理由は知っている。怪我はないのか?」


 ロアと共に廊下を歩きながら、ヴルームは隣を歩くロアに言う。

 ヴルームは知っていた。ロアがユリスの命を受けてベイルークの塔へ赴き、「魔族」と戦ったことを。

 教師として、自分の生徒の身を案じているのだ。


「心配してくれてありがとう、無傷です」


 ロアはそう答える。

 気が付くと、自分の教室の前に着いていた。


「……そうか、だがくれぐれも無茶はするなよ。お前が相手にしているのは……」


「ひいいい~っ!! 遅刻遅刻、ちょっと待って~っ!!」


 ヴルームがロアに言いかけた時、ドタドタと廊下を走るけたたましい音と共に、その少女の声が響く。

 二人ともその声の方を向くと、ショートヘアをたなびかせながら一人の少女がこちらへと走ってくる。

 少女は二人の目前でスライディングをするように止まると、


「ん? ロアじゃん!! おひさ!!」


 その少女は、近くで見ると大きな瞳が印象的だった。

 活発そうな外見をしているが、内面はもっと活発な性質のようだ。


「何かここ数日、アニーもロアも、あとルーノも学校に来ないからちょっと心配してたとこだよ?」


 無駄に大きく、そして抑揚の入った声で少女はロアにそう言った。

 小さい子供だったら物陰に逃げ隠れてしまいそうな程に高いテンション。

 ちなみに、彼女が口にした「アニー」という名前は、彼女が付けたアルニカへの愛称。

 と言っても、アルニカをその愛称で呼ぶのは彼女だけだが。


「あ、うん。久しぶりだね、リオ……」


 相変わらず元気だな、ロアは心の中で呟く。

 いきなりの出来事に呆気をとられつつも、ぎこちなく返事を返す。

 次の瞬間。少女の視界に、ロアの隣にいた空色の毛並の獣人族の男性が映った。


「おっ!? ラッキー!! ヴルーム先生よりも先に教室に入れば滑り込みセーフっ!!」


 ヴルームを視界に捉えると、少女はチャンス到来、と言わんばかりに目を輝かせ、教室のドアに手をかけた。


「あ!! おいこら待てリオ!!」


「はーっはっはっは!! 『待て』と言われて待つバカはいなーいっ!!」


 高笑いと共に捨て台詞を残し、自分の担任の制止も聞かずにドアを開ける。

 大地を揺るがすようなパワフルな走りで、まるで飛び込むように教室の中へと駆け込んで行ってしまった。

 静けさを取り戻した廊下、ヴルームは大きなため息をついて、


「……しょうがない奴だな」


 教室のドアを見つめ、あきれ気味に漏らすヴルーム。

 その隣で、ロアは「あははは……」と苦笑いを浮かべる。


「まったく、あれでも貴族の娘か。なあロア?」


「ん~、まあでも、リオのああいう元気満々な所、僕は嫌いじゃないですよ?」


 授業開始の時刻を示す鐘の音が鳴り響いた。

 ヴルームはロアに告げる。


「ロア、教室に入れ。授業始めるぞ」






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