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第41章 ~魔族の帳~

 アスヴァンの遥か東に位置する、魔族の王国「モルディーア」。

 どこに行こうとも光など無く、黒い水を吸ったような雲に覆われた空には常に雷鳴が轟いている。

 王国の中心にそびえ立つのは、魔族の者達の本拠地とも言える城、「モルディーア城」。


 その城のバルコニーに、一人の男が立っていた。

 漆黒のローブを纏い、そのローブのフードを被っている。

 目元はフードに隠れていて見えないが、顔の下半分の肌が異様に白いことから見て、どうやら彼も魔族のようだ。


 彼は腕を組み、視線を下へと向けている。その様子を見ると、誰かを待っているようにも見える。


「(……来たか)」


 その男は心の中で呟いて、視線をバルコニーの床から黒い雲に覆われた空へと向ける。

 雷鳴を背に受けて、一匹のガジュロスがこちらへ向かって飛んできていた。


 ガジュロスの背中には、ヴィアーシェが乗っていた。バルコニーからでも、彼女の長い髪がなびいているのが見える。


 それから数秒後、ガジュロスの背中から飛び降り、ヴィアーシェはバルコニーの上、男から数メートル程離れた場所へと着地した。


「待ったぞ」


 男は彼女に声を掛けた。ヴィアーシェは男の方を向く。

 ローブのフード越しに、二人は視線を合わせた。


「例の物を渡してもらおうか」


 男が手を伸ばし、その手のひらを上へ向ける。

 ヴィアーシェはポケットから何かを取り出す、彼女が取り出したのは、紫色の光を放つ石だった。周りが暗いせいで、その光は鮮明に見える。

 石を片手に男へと歩み寄り、ヴィアーシェは差し出された手のひらにその石を乗せる。


 男は受け取った石をポケットにしまう。

 そして、バルコニーと城の内部をつなぐドアへと歩いて行く少女を見て、


「ヴィアーシェ」


 彼女の名前を呼び、その後ろ姿を引き留めた。

 ヴィアーシェは振り向かずに、その場で男の声に耳を貸す。


「何故、奴らを殺さなかった?」


 男はそう問いかけた。

 どうやら、男は何らかの方法でベイルークの塔での出来事を見ていたようだった。


「…………」


 男の問いに、ヴィアーシェは答えなかった。双方とも口を開かず、一時の沈黙が流れる。



「……まあいい、お前に伝えることがある」


 男は再び口を開く。

 ヴィアーシェの後ろ姿を見ながら、


「もうじき戦いが始まる。我々『魔族』がアスヴァンを支配するための、戦いがな」


 男は続ける。


「まず手初めに、我ら『魔族』は『イシュアーナ共和国』を落とす。この戦いには、お前も参加することが決定した」


「…………」


 ヴィアーシェは男の方を振り向いた。しかし、やはりその表情には変化が無かった。無口な所といい無表情な所といい、相変わらず人形のような奴だな。男はそう思った。


「わかったな? お前は我々の貴重な戦力の一人なのだ」


 男はそう確認する。

 ヴィアーシェは答えずに再び男に背を向けて、バルコニーから出て行った。


「……可愛げのない奴」


 ヴィアーシェが出て行った扉を見つめて、男はそう呟いた。






 ――同刻。アルカドール城、玉座の間。


 玉座に腰かけたユリスと、彼女の側にはロディアス。その前にはイルトがいた。


「それでは、やはり『魔族』が……」


「ああ。ユリスが感じた通り、力を取り戻しつつあるようだ」


 ユリスの言葉に、イルトがそう答えた。

 ついさっき、イルトがユリスへの報告を終えた所だ。「魔族」がラータ村を襲撃したこと、ベイルークの塔で遭遇した「魔物」、それから仮面の人物のことも。


「……どうやら、恐れていた事態のようですね」


 ロディアスがユリスに言う。ユリスは小さく頷いた。


 ユリスの予感は正しかった。

 滅ぼされたと思っていた「魔族」が、その力を取り戻しつつあるのだ。

 彼らが準備を整え、アスヴァンの侵略行為に及ぶのも時間の問題かも知れない。


「ユリス様、ロア君達に警告をしますか?」


 ロディアスはそう続けた。

 ロア、アルニカ、ルーノ、この三人は「魔族」と戦い、生き残った。

 魔族の者達がその強さを警戒し、彼らを標的にしてくる可能性がある。


「……いいえ」


 ユリスは首を横に振った。


「ロア達に無用な気を煩わせたくはありません。今は、ゆっくりと休ませてあげましょう」


 彼女の言う通りだった。ロア達は「魔族」と戦い。疲れ、傷ついている。

 中でもアルニカは「魔族」によって毒を受け、一時は命の危機に立たされたと聞いた。

 彼らが余計な心配事を増すような事を告げるのは、適切とは言えないだろう。


「さて……」


 ユリスは、玉座から立ち上がった。そして、玉座の間の入り口の方へと歩き始める。


「イルト、ロディアス、一緒に来て下さい」


 そして、後ろの二人を呼んだ。


「何用です?」ロディアスは女王の後ろ姿に問いかける。


「来たるべき時に備えて、私も剣術の腕を磨いておこうと思います」





 

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