表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/158

第38章 ~魔物~

「やっと着いたか……」


 目の前にそびえ立つ塔を見上げながら、ルーノはそう呟く。

 ルナフ村から全速力で向かって来た為に息があがってしまったが、随分早く着くことが出来たようだ。


 ベイルークの塔、ロアとアルニカと離ればなれになる前に目指していた場所。

 あれから二人がどうなったのかは分からないが、きっと二人はここに来る、もしくは来ている筈だ。

 足元に視線を向けた瞬間、ルーノの予感は確信に変わった。


 地面に真新しい足跡が残されている。つけられてから、まだそう経っていないようだった。


 数を数えると、全部で三人。

 人間の足跡が二人分と、それから自分と同じ兎型獣人族の足跡が一人分。


 当初の目的では、ラータ村で「イルト」という兎型獣人族と合流する予定だった。

 この足跡がその人物のものだとすれば、どうやらロアとアルニカは予定通りにラータ村に着き、その人物と合流したのだろう。


 ルーノの耳が、獣が鳴くような声を捉えた。同時に、瓦礫を砕くような音。

 その両方が、目の前の塔から聞こえてくる。


「……もう始まってるみたいだな」


 腰の鞘から剣を引き抜き。ルーノはベイルークの塔の入り口へと駆け出した。






 互いの武器を構えて対峙するロアとヴィアーシェ。

 アルニカは右足の傷をおさえながら床に座り込み、その二人の様子を見つめていた。


「(私には勝てなかった。だけど、ロアなら……)」


 アルニカは強い。

 彼女の強さは、セルドレア学院の生徒達の中でも五本の指に入る程だった。

 初等部、中等部、高等部、学院には合わせて2000人近くの生徒がいたが、男子ですら彼女に敵う者は数える程しかいなかった。


 剣術の授業で、二人一組になって剣を交え合うというものがあった。

 基本的には男子は男子と、女子は女子とペアを組むことになっていたが、常にアルニカは剣術担当の教師の言いつけで、強制的にロアとペアを組まされた。

 その理由は簡単。クラスには、ロア以外に彼女に太刀打ち出来る生徒が誰一人としていなかったからである。


 しかし、つい先ほど戦った「魔族」の少女の強さは、アルニカを超えていた。

 魔族という種族の強さを思い知らされる程の強さだった。


 だけどそれでも、希望が無くなった訳ではない。

 目の前には、アルニカが自身よりも強いと認める少年、ロアがいる。

 授業で何度も剣を交え合ったアルニカは、彼の強さをよく知っていた。

 大人顔負けの剣術の才能の持ち主、伊達や酔狂でロアがそう伝わっている訳ではなかった。


 実際アルニカは、学院の生徒の中でロアを超える強さを誇る者をただ一人しか知らなかった。

 その生徒は、学院の2000人近くの生徒の中で最も優秀な剣術の才能の持ち主。

 つまり、2000人近くの生徒の中で、最も「強い」者である。

 その者は、「100年に一人の逸材」と呼ばれていた。


「(『あの人』程強くはないけど、ロアならきっと……!!)」


 ロアに望みを託して、アルニカは心の中で呟いた。






 イルトは走りながら、後ろを追ってくるガジュロスから逃れていた。

 格好の良い状況ではなかったが、あの巨大な怪物と真正面から戦うのは無謀だ。


「不意を突くしかないか」ガジュロスの雄叫びを背に受けながら、イルトは小さく呟く。


 真正面の壁に向かって飛び、壁を蹴る。「く」の字を描くようにジャンプし、イルトはガジュロスの背中に飛び乗った。

 ガジュロスは雄叫びを上げながら、彼を振り落とそうと暴れ始める。


「うっ!!」


 イルトはよろめき、ガジュロスの背中に片手をつく。


「少し大人しくしてろ……!!」


 振り落とされないように気を付けながら、イルトは剣を逆手に持ち替える。

 そして彼は、怪物の背中目がけて力の限りに剣を突き刺した。

 鈍い音が響き、魔物特有の黒くて生臭い血が噴き出す。


「シャアァァァア!!」


 イルトを背中に乗せたまま、ガジュロスはガラスを引っ掻くような甲高い鳴き声を上げた。

 まともに聞けば耳を潰されそうな鳴き声、イルトは耳を塞いだ。


「(効いたか?)」


 怪物の様子を見ながら、彼は思う。

 次の瞬間、イルトの眼前にガジュロスの大きく開かれた口が迫っていた。


「!?」


 驚愕と困惑を感じ、同時に命の危機が迫っていることを察した。このままでは、怪物に丸呑みにされてしまう。

 剣を引き抜かず、イルトはガジュロスの背中を蹴り、横へと飛び退いた。

 彼の数センチ真横を、ガジュロスの首が通過していく。


 塔の床に落下し、イルトは背中に衝撃を感じた。

 噛み付きを避けることだけを考えていたために、その後のことを考える余裕は無かった。

 油断していた。ガジュロスの皮膚は軟体質で伸縮自在。先ほどのように「V」の字を描くように首を曲げることも出来る。

 背中に飛び乗ったと言えども、その噛み付きから逃れられる訳ではないのだ。


 イルトの剣を背中に刺したまま、怪物は目の前にいる白い毛並の兎型獣人族の様子を伺っている。


「(まさか……効いてないのか?)」


 ガジュロスの背中に突き刺さったままの剣を見る。

 手ごたえはあった筈、浅かったのだろうか。


 いや、仮に深く突き刺していたとしても、効果は無かったかも知れない。

 目の前にいるのは、「魔族」が生み出した怪物、「魔物」だ。

 剣で一突きすれば殺せる、などと言う普通の生き物の常識は通用しないのだ。


「(どうする、どうやって戦う……)」


 イルトが心の中で呟いた。

 その時、塔の入り口の扉が強引に蹴り破られた。


「!?」


 扉の方を振り向く。木製の扉が砕け、その後ろから一人の人物が姿を見せる。

 その人物は、青い毛並みをしている。そしてどうやら、自分と同じ兎型獣人族のようだ。

 彼はイルトを見る。白い毛並み、両腕の金色の腕輪、水晶のペンダント。


「……オマエが『イルト』か?」


 彼は、自分にイルトに問いかけてきた。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





【キャラクター紹介 12】“ガジュロス”






【種族】魔族

【種別】魔物

【性別】-Unknown-

【年齢】-Unknown-

【体色】ブラック




「魔族」によって生み出された「魔物」。不気味な風貌を持つ。大柄な体格に大きな翼を持ち、自在に空を飛びまわることが可能。

 その顔に目は存在せず、かわりに嗅覚と聴覚が非常に発達している。

「人間」や「獣人族」と戦う時にはその大きな口で獲物に喰らい付き、一気に丸呑みにする戦い方を得意とし、大きな獲物を捕食する際には首などの急所に噛み付き、徐々に弱らせる。

「アスヴァン大戦」では多くの「竜族」がその餌食となった。

 ちなみに一体だけではなく、複数の個体が存在する。

 ガジュロスとは、アスヴァンの言葉で「噛み付く者」の意。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ