第2章 ~喫茶店~
ロア達三人は、城の近くのレンガ造りの赤い屋根の建物の前にいた。
看板には「喫茶モノリス」とある。アルニカによると、ここが彼女のお気に入りの喫茶店らしい。
ロアが木製のドアを開けると、カランカラン、と音がする。
同時に、カウンターの方から「いらっしゃい」と声が聞こえた。
店内は少し暗く、ジャジーな音楽のレコードが流れていて、どこかシックで大人な雰囲気だった。
それなりに人気のある店のようで、数人の客がテーブル席に座っている。
三人は、カウンター前の席に腰掛けた。
「ご注文は何にいたします?」
と、店のマスターの男性が、ロア達三人へと注文を聞きにくる。
アルニカは「私はブラックコーヒー」と答え、ルーノはメニューを眺めて、「人参ジュース」と答えた。
普段、喫茶店など利用しないロアはしばらく悩んでいたが、とりあえずコーヒーを注文した。
注文してから数分後、マスターが注文の飲み物を運んできた。
ロアはコーヒーを受け取ると、固形砂糖をいくつか入れて、スプーンでかき混ぜた。
「あれあれ? ロア、もしかしていまだに砂糖入れないとコーヒー飲めないのぉ?」
不意に、ロアの右隣でブラックコーヒーを飲んでいたアルニカが言う。
ロアは一瞬ぎくり、とした後、
「いきなり何だよアルニカ……てか、君はどうしてブラックをそんなにごくごく飲めるんだよ!?」
「え? だっておいしいじゃん、ブラックコーヒー」
普通のコーヒーすら砂糖を入れなければ飲めないロアにしてみれば、ブラックコーヒーをまるでジュースのように一気飲みするアルニカの舌は理解不能だった。
彼女の舌は、金属でコーティングされているのでは? 等と言う事を一時は本気で考えた程である。
「まだまだ子供だね、ロア」
ぷくく、と笑い混じりにアルニカが言う。
「いやいや、てゆーか僕たち同い年だろ!?」
とロア。
続いてロアの左隣に座っていたルーノが人参ジュースを片手に、
「やっぱりロアにはオレンジジュースがお似合いじゃねえか?」
その彼の言葉にカチン、と来たロアは、ビシィ!! と、突き刺すようにルーノを指差して、
「人参ジュースなんか飲んでるお前にだけは言われたくない!!」
「しょうがないでしょ? ルーノは獣人族なんだからコーヒーなんか飲めないもの」
確かにアルニカの言う通りだ。
獣人族は体の機能、例えば消化機能などは普通の動物とほとんど変わらない。
例えば、猫の獣人族の子供には専用のミルクを飲ませないとお腹を壊してしまうこともある。
コーヒーやチョコなどのカフェイン含有物は、大半の獣人族には毒のような物なのだ。
「二人して僕をいじめて……!」
ムスーン、とロアは拗ねる。
ヤケ酒ならぬヤケコーヒー、と言わんばかりに彼は砂糖の入れすぎで甘ったるくなったコーヒーをすする。
「ごめんごめん、ちょっとからかっただけじゃん?」
アルニカの言葉に、ロアはそっぽを向いて、「フン!!」とだけ返事した。
ありゃ、ちょっといじりすぎちゃったかな? とアルニカは思った。
ブラックコーヒーの入ったカップを片手に、アルニカはロアの横顔を見つめる。
「全くもう……相変わらず可愛いんだから」
ロアに聞こえないよう、彼女は小さな声で呟いた。
「ふふっ」とアルニカは笑みをこぼした。
その時、店のドアを勢いよく開ける音が響いた。店内の客達の視線が、一斉にドアの方へと向く。
二人の大柄な、見るからに柄の悪い人間の男が店へ押し入り、銀色の鈍い輝きを持つ物を懐から取り出した。
男が握っていたのは、平和なこの街には似つかわしくない物。鋭利なナイフだった。
その瞬間、静かだった店に人々の悲鳴が響き渡る。
「騒ぐんじゃねえっ!! 騒いだ奴は女だろうが子供だろうがぶっ殺す!!」
と押し入ってきた男の一人が怒鳴る。
もう一人の男が、マスターに麻袋を投げつけて、「命が惜しいなら、この袋に金を詰めろ」と命令した。
「ま、まさか……強盗!?」
アルニカが言った。