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第31章 ~危機~

 ルーノとダルネス。彼らは剣を構えたまま、お互いに睨み合っていた。双方とも一言も発せず、洞窟の中には張りつめた空気が漂っている。


「(大丈夫かな、にいちゃん……)」


 その様子を上から見ていたノイが、心の中で漏らした。

 ルーノは盗賊団の手下二人は簡単に退けたが、ダルネスは手下達とは格が違う。これまで、ルナフ村の者でダルネスに敵う者は誰一人としていなかった。


「……行くぞ」


 数分の沈黙を先に破ったのはルーノ。その声と共に、彼は足に力を込める。次の瞬間、彼は洞窟の地面を勢いよく蹴り、飛び上がった。

 およそ数メートルの距離を一瞬で詰め、ルーノはダルネスに向けて剣を振った。

 ダルネスはルーノの剣を受ける、ルーノの小柄な体格からは想像もつかない程の重い一撃。

 ルーノは即座に剣を弾き、体をコマのように一回転させて勢いをつけ、追撃を浴びせる。


「チッ!!」


 隙を突いて、ダルネスはルーノに向けて横に薙ぎ払うように剣を振った。その瞬間、ルーノは斜め前方へと飛び上がった。

 ダルネスの剣はルーノに命中せずに、数秒前までルーノが立っていた地面をえぐる。


「ラア!!」後方から、ルーノの声が響く。


 ダルネスが声の方へと視線を移した瞬間、銀色の刃が自分の目前に迫っていた。

 攻撃を避けた後、空中でルーノが剣を振ったのだろう。

 その攻撃をダルネスは反射的に姿勢を低くしてかわす。彼の真上を、ルーノの剣がかすめた。

 一旦着地したルーノは素早い動作で再び飛び上がり、空中から攻撃を浴びせる。


 前方と思ったら、今度は後方、次は真上、その高さは一定ではなかったが、ルーノは何度も跳ぶ。

 時には跳躍に回転も加え、ダルネスに向けて不規則ながらも素早く、激しい攻撃を仕掛ける。


 ルーノは決して闇雲に攻撃を仕掛けているつもりではない。「イルグ・アーレ」、ルーノが用いている剣術の名称である。

 兎型獣人族が持つ強靭な脚力と、その小柄な体格を活かして変幻自在に飛び回りながら相手を攻撃する剣術だ。

 自分の体格の何倍もの高さに何度も飛ぶ分、スタミナの消費は激しいが、獣人族の体力ならばその欠点をある程度はカバーできる。


 ルーノの表情に疲れた様子は無かった。

 対して、彼の攻撃をひたすら受け続けていたダルネスの表情には疲れが見え始めている。


「(このままでは、スタミナ切れに持ち込まれるのがオチか……)」


 そう考えたダルネスは、ポケットから葉に包まれた、トマト程の大きさの玉を取り出した。


「!!」

 

 それを見たルーノの動きが一瞬止まる。


「(何だ、爆薬か何かの武器か……!?)」彼は心の中で呟く。


 次の瞬間、ダルネスはその玉を勢いよく地面へと叩きつけた。

 玉が弾ける。小さな爆発音と共に、灰色の煙が洞窟の中を満たしていく。


「(毒煙玉か……?)」


 ルーノは腕で鼻と口を覆う。

 ダルネスが後方へ飛び退いて行くのが見えた。

 数十秒で灰色の煙は洞窟の中を満たしたが、どうやら毒煙ではなく、ただの目くらましのようだ。


「(こいつでオレの視界を奪って、不意打ちでもする気か……?)」


 ルーノはそう思った。

 もしもそうだとするならば、それは無駄な事だ。

 視界を奪われていたとしても、ルーノには耳がある。ダルネスがルーノに近づこうとすれば、足音ですぐに分かる。


 不意に、ルーノの背後から先ほどの煙玉を叩きつける音が響いた。


「!?」


 ルーノが振り返ると、充満していた灰色の煙が、さらに濃くなっている。

 どこから投げたかはわからないが、ダルネスが煙玉をもう一つ投げたようだ。煙が充満し、数メートル先も見えない状態になっている。


 やはりダルネスはルーノの視界を奪い、彼の不意を突くつもりのようだった。


「そんな小細工が、オレに通用するとでも思ってんのか?」


 しかし、ルーノの表情には余裕が浮かんでいた。

 彼は鼓膜を開き、ダルネスの足音を探す。


「(さて、どこから来る?)」


 心の中で呟き、ルーノは耳を澄ませる。右、左、上、前、後ろ……近づいて来るような物音は、しない。


「(まさかアイツ、勝てないと踏んで逃げたのか?)」


 そう思った瞬間、ルーノは自分の足元に葉に包まれた玉が落ちてきたことに気付く。

 鼓膜を開いていたせいで、その音は先ほどよりも鮮明に聴こえた。

 視線を下に向ける。どうやら、ダルネスが三個目の煙玉を投げたようだ。


 学習しないヤツだ、こんなもので視界を奪っても無意味だというのに。とルーノは思う。


「また煙玉か? こんなもので……」


 と、そこまで言いかけた時、


「!!」


 ルーノの表情から、一瞬にして余裕が消え去った。


「(しまっ……!!)」


 とルーノが心の中で漏らした瞬間、煙玉だと思っていたその玉が、爆発した。


 爆発した玉が放ったのは灰色の煙ではなく、「音」だった。

 ガラスをクギで引っ掻いた音を何百倍にも増幅したかのような、頭中に響き渡る音。


「ぐううっ……!!」


 ルーノは耳を押さえ、地面に倒れ込んだ。彼の耳から、赤い血が流れ出している。


 ――油断した。全てはこのための伏線だったのだ。

 ダルネスが投げた二つの煙玉、あれはルーノから視界を奪い、彼に鼓膜を開かせるための、

 そして今の爆音を放つ玉を煙玉だと錯覚させるための罠だったのだ。


「くっ……!!」


 ルーノはそう漏らす。兎型獣人族の聴力が仇となった。

 人間の鼓膜を破く程の音を、ルーノの耳が一点に集束してしまった。

 それも、こんな至近距離で。


 頭の中に異物が入り込んだかのような感覚に捕らわれる中、ルーノはうっすらと目を開く。

 彼の耳は相当なダメージを受けたのだろう。視界が歪んでいた。

 その歪んだ視界の中、ルーノは自分の前に一人の男が立っていることに気付く。


 地面に倒れ伏したルーノを見下ろし、嘲笑う男……その男は、ダルネスだった。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





【キャラクター紹介 10】 “ダルネス”



【種族】人間

【性別】男

【年齢】28歳

【髪色】ディープロイヤルパープル



 ルナフ村を荒し続け、略奪や殺戮を続けていた盗賊団、「ダルネス盗賊団」の首領。

 口数は少ないがその性格は残忍を極めており、罪のない人の命を奪うことを一切躊躇しない。

 ロアやアルニカと同じアルカドール王国出身であり、自分の力に酔った末に道を違えたようだ。

 剣の勝負ではルーノに劣っていたものの、煙玉や爆音を放つ「マンドレイク玉」を使い、ルーノを追い詰める。






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