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第30章 ~対峙~

 十数人の手下、そして彼らの頭であるダルネスの視線が、ルーノへと向けられていた。

 視線だけではない。浴びるような殺意がルーノへと向けられている。

 剣、モーニングスター、ボウガン。盗賊団の男たちは皆、物騒な武器を手にしている。


「逝かせてやる前に、一つだけ聞いておくか」


 ルーノを見下ろし、葉巻を吸いながら、


「獣人族ってことはお前、余所者だろ? 何故この場所が分かった?」


 ダルネスはルーノに問う。

 このルナフ村には獣人族はいない。つまり獣人族であるルーノは余所者ということになる。

 余所者ならば、村のはずれの、それも深い森の奥に位置するこの洞窟の場所が分かる筈がない。


「フン、これのお蔭さ」


 ルーノは自分の頭の上の長い耳を指差した。

 兎型獣人族の能力は、その強靭な脚力に加えてもう一つ。それは人間よりも遥かに優れた聴力。

 彼らは自分の意思で鼓膜を開閉することが可能で、鼓膜を全開にすれば、数キロ先のコインが落ちる音も聴くことができる程の聴力を発揮する。


「コイツでノイの足音を拾って、それを追っ掛けてここまで来たんだよ」


 ルーノはノイから「ダルネス盗賊団は森の中の洞窟を根城にしている」ということは聞いていたものの、

 その洞窟の正確な場所までは聞かされていなかった。


 そこで彼は鼓膜を解放し、一人の子供の足音を拾った。

 あの時間帯に、一人で、子供の、それも盗賊団の根城があるという森の中から聞こえてきた足音。

 状況的に考えてノイのものだろう、ルーノはそう判断した。

 彼の判断は、的中していた訳だ。


「……それと、オレもオマエに聞きたい事がある」


 ルーノは左手で鞘に納められた剣を握り、右手でダルネスを指差し、


「アルカドール出身のオマエが、何で盗賊の頭なんかやってんだ?」


「……」


 ダルネスは火のついた葉巻を銜えたまま、ルーノのその質問には答えなかった。

 ルーノが続ける。


「大方、強くなった自分に酔っちまって悪の道へ。そういうクチか?」


 剣術を学ぶことが義務付けられているアルカドールでは、そう言った人間も少なからずいた。

 手に入れた力の使い方を誤り、犯罪に手を染めた者達。

 目の前にいる男もその一人なのだろうか、とルーノは思った。


「もういい」


 ルーノの問いに答えずに、ダルネスはそう吐き捨てる。

 火のついたままの葉巻を洞窟の地面へ投げ捨て、手下の一人に、


「殺せ。ガキもろともな」


 そう命じた。命令を受けた手下の男のゴツゴツした右手には、物騒な手斧が握られていた。


「全くバカなガキだ、格好つけてここに乗り込んできたつもりだろうが……」


 男は手斧を振りかざし、ルーノへと歩み寄る。そして、ルーノ目がけて手斧を振り上げつつ、


「まさかオレタチに敵うとでも……」


 そこまで言いかけた時、男の眼前に、「青い何か」が迫っていた。


「(え……?)」


 避ける暇など無かった。男が出来たのは、ただ心の中でそう漏らすこと。

 僅か一秒にも満たない時間の後、ルーノのサマーソルトキックが、男の顔面を直撃した。


「ぐぶァッ!!」


 男のその声と、「ゴキャッ」という鈍い音と共に、男の鼻血と折れた数本の歯が地面へと落ちる。

 そのすぐ後に、その男が洞窟の地面へと仰向けに倒れ伏した。


「敵うって分かってたから乗り込んだんだろうがよ、バカはオマエだ」


 ルーノは言うが、蹴りを受けて気を失った男には、もはや聞こえてはいなかった。


「このガキ!! よくも!!」


 仲間を倒された事に激怒したのか、ルーノの背後からもう一人の手下が剣を振り上げながら走り寄って来る。


「にいちゃん危ない!! 後ろ!!」


 頭上から、ノイの声が聞こえた。

 だがルーノは振り向かない。振り向かずに、彼はぐっと両足に力を込めた。


「死ね!!」


 叫び声と共に、男はルーノ目がけて横向きに剣を振るう。

 全力の力を込めている。命中すれば、この剣はルーノの体を切り裂くだろう。

 その瞬間だった。男の視界から、ルーノの後ろ姿が一瞬にして消えた。

 男の剣は目標を失い、風切り音と共に空気を切り裂いただけだった。


「ふぐッ!?」


 途端に、男の背中から腹部にかけて、まるで太くて重い丸太で突き上げられたような衝撃が走る。

 体が反るように「く」の字に曲がり、背骨と腰の辺りから変な音がした。


「か……ッ……」


 男はうつ伏せに倒れ、白目をむいて気を失っていた。


 剣が届こうとした直前、ルーノはその場で飛び上がり、男の背後へと回り込んだ。そして、隙だらけだった男の背中に向けて空中でドロップキックを見舞ったのだ。

 手加減はしたつもりだったが、男の様子を見ると予想以上に効いたらしい。


「……ヤベ、そんなに効いたか?」


 まさか背骨が折れてしまったりはしていないだろうか、とルーノは思うが、相手はどうせ悪人だ、多少大目にみてもいいだろう。と自分に言い聞かせる。


「で、次は誰だ?」


 盗賊団の男達の方へと向き直り、ルーノはそう言った。


「ヒっ……!!」


「ば、化け物……!!」


 先ほどまでとは打って変わって、盗賊団の男たちはルーノの強さに恐れをなしている様子だった。「負ける」ということを知らなかったダルネス盗賊団にとって、目の前の光景は異常事態に等しい。

 仲間二人が、それも一人の少年によってねじ伏せられることなど、未だかつて無いことだった。


 それにルーノは、まだ剣を抜いていなかった。

 体術だけでこの強さ。彼が剣を抜いたら、一体どれだけの力が発揮されるのだろうか?


「た……助けてくれ――ッ!!」


 一人の男が、叫びながら洞窟から走り去っていく。


「ま、待て!! 俺も……!!」


 もう一人の男が、それに続く。

 恐らくは、ここにいた盗賊の手下の男全員が、ルーノが剣を抜いた時のことを考えていたのだろう。

 彼らは怖気づき、洞窟から皆走り去って行ってしまった。

 その様子は、村で殺戮と略奪を欲しいがままにしていた盗賊団とはとても思えなかった。

 まるで、親とはぐれた子犬を思わせる姿。

 こんな弱っちい連中に、今まで好き放題させていたのか。とルーノは思う。


「……で、残ったのはオマエだけか」


 ルーノがダルネスに言う。

 あれから数分、静まり返った洞窟の中には、ルーノとダルネス。そして岩の上にいるノイの三人。


「まさか、オマエは下っ端共みたいに逃げたりしねえよな?」


「……」


 ダルネスは何も言わずに、椅子から立ち上がった。

 そして、腰の鞘から剣を引き抜き、銀色に輝く刃をルーノへ向ける。


「いいだろう。その糞生意気な口……二度と利けなくしてやるよ」


 ダルネスは剣を構えた。


「……望むところだ」


 ルーノは返す。

 相手はアルカドール出身の者だ。それにこれまであれほどの人数の手下を従えていた者。舐めてかかるのは、危険だろう。


 ルーノは左手に握りしめていた剣の柄を握る。

 剣を鞘から引き抜いて、鞘を無造作に投げ捨てた。


 青い毛並の兎型獣人族の少年も、剣を構えた。






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