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第28章 ~決意~

 あれから、数時間。ライラの家の居間に掛けられた時計の針は、午後五時半を差していた。外は日が沈み始め、ルナフ村の人々は帰路についている。


「ルーノ、ルーノ!!」


 ライラは、目の前の長椅子の上で寝息を立てているルーノの体を揺すりながら彼の名を呼ぶ。しかし反応はなかった。どうやら彼は、完全に夢の中に行ってしまっているようだった。


「まったく……!!」


 ライラは呟く。そして彼女は、ルーノの長い耳に口を寄せて、


「起きろ!!!!」


 と、力の限りに叫んだ。「おわぁ!?」その瞬間、数秒前まで夢の世界にいたルーノは、突然のライラの怒鳴り声に驚き、長椅子から派手に転げ落ちた。

 ドシャン、けたたましい音が家中に轟く。


「いっててて……!!」


 ルーノはぶつけた頭をさする。次に、目の前にいたライラに視線を向けて、


「おい、オマエ!! いきなり人の耳元でデカい声出すな!!」


 ライラに向かってそう叫ぶ。しかしライラは、そのルーノの言葉に怯むどころか、


「そんなこと言ってる場合じゃない!!」


 と、ルーノにも負けない程の声で返した。寝起きでボーッとしているルーノの頭に、彼女の大声が響いた。


「うるせーな……何だってんだよ?」


 目をこすりながら、ルーノはライラに問う。


「あんた、ノイがどこに行ったか知らないか!?」


「……はあ?」


 ルーノは思い出す。

 時計の時間を見ると、午後五時半を回っていた。どうやら、自分は長椅子の上で数時間程眠っていたらしい。

 家の中を見渡すが、ノイの姿はない。


「……アイツ、帰ってないのか?」


「そうなんだよ!! あたしにも言わないで、一体どこに行ったんだか……!!」


 ライラはそう言って赤い髪の毛を掻きむしる。

 ノイには、外出するときには必ず行き先をライラに伝えるように言ってあった。

 今までは一度もライラに無断で外出することなどなかったが、今日のノイは何も言わずにどこかへ行った。

 何があろうと一人では行動せず、どこへ出かける際も四時までには帰ってくるという約束もある。

 だが、ノイはその門限を一時間半もオーバーしていた。こんな事は、今まで一度たりとも無かった。


「もしかして、ダルネス盗賊団に何か……!?」


 ライラが言う。彼女の頭には、恐ろしい予感が浮かんでいた。

 それは、ノイがダルネス盗賊団に連れ去られたのかもしれないという予感。そんなことは考えたくもなかった。が、考えずにはいられなかった。


「ノイにもしものことがあったら……!!」


 ライラの声に涙が混じっていた。彼女の瞳にも涙が溜まっている。ノイはライラの弟であり、そしてライラのただ一人の家族だ。両親に続いて彼まで失ったら、ライラは本当に一人ぼっちになってしまう。


「(アイツ、もしかして……)」


 ルーノは心の中でそう呟く。彼には、思い当たる節があった。

 そう、先ほどルーノはノイにきつめの口を利いてしまった。もしかしたらノイは、それを真に受けてしまったのかも知れない。


「(……チッ)」


 彼は心の中で舌打ちをした。

 ルーノは立ち上がると、長椅子の脇に立てかけていた自分の剣を掴んだ。そしてそれを片手に、玄関の方へと歩いて行く。


「!? ルーノ、アンタどこに行くの!?」


 ライラはルーノにそう言った。こんな場合に、彼は一体どこに行こうとしているのだろうか。


「ああ、ちょっと剣術の練習にな」


 そう答えると、ルーノは玄関の扉を開けた。


「アンタ、こんな時になに言って……!!」


 ライラにしてみれば、ノイの身が危ぶまれているこの状況で「剣術の練習に行く」などと言うルーノの思考は意味不明だった。


「アイツはオマエの弟だろ? だったらオマエがなんとかしろ。オレには関係ない」


 ルーノは言い放つ。それは、ライラにとってあまりにも冷たい言葉だった。


「な……!!」


 ライラはそう声を発したが、それ以上は何も言わなかった。

 ルーノはライラの返事を待たずに、玄関の扉を閉め、外へ出た。







「さてと……」外に出たルーノはそう呟く。


 ルーノは目を閉じた。そして、まるで瞑想でもしているかのようにじっとしている。


「…………」


 ルーノは一言も発せず、ピクリとも動かない。彼の沈黙状態は、数分の間続いた。


「…………よし」


 何かに気付いたように、ルーノはそう漏らす。そして、閉じていた両目を開く。


 鞘に収まった剣を片手に握り、両足に力を込める。次の瞬間、ルーノは自分の背の何倍もの高さまで飛び上がった。

 彼は、手近にあった民家の、赤い屋根の上に着地した。

 着地すると、すかさず助走をつけて、隣の家の屋根へと次々に飛び移っていく。


 屋根の上に着地する、そのまま助走をつけて、また別の家の屋根へと飛び移る。目的の場所を目指して、ルーノはそれを繰り返していた。


「たく、世話の焼けるガキだぜ!!」


 ジャンプしながらルーノは吐き捨てるようにそう言う。汚い言葉だったが、その言葉には思いやりが籠っていた。


 またルーノは屋根を蹴り、自分の背の何倍もの高さにジャンプする。






 同刻、ルナフ村のはずれの森の中。ノイは一人森の中を歩いていた。

 彼の表情には、何かを決意したような想いが浮かんでいる。

 ノイは、森の中にあった洞窟の前で足を止めた。


 洞窟の入り口からは明かりが漏れ、何人かの人間の笑い声が聞こえてくる。そう、この洞窟こそが、ダルネス盗賊団が根城にしている場所なのだ。


「意気地無しなんかじゃないって……証明してやる……!!」


 そう呟いて、ノイは拳をぐっと握る。再び足を動かし、彼は洞窟の中へと足を進めて行った。







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