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第23章 ~ルーノ~

 同刻、ベイルークの塔からほど遠くないとある村の中に立つ一軒の小屋。

 小屋の中のベッドで、一人の獣人族の少年が眠っていた。

 長い耳に、まるで綿のような尻尾、彼は兎型獣人族だ。しなやかで、やわらかい青色の毛並をしている。

 彼の両足と右手には、包帯が巻かれていた。


「ん……」


 その獣人族の少年、ルーノはうっすらと目を開く。彼の目には、木で組まれた小屋の天井が映った。

 どこかの家の中、だということはわかるが、具体的にどこの家なのかはわからない。

 ルーノには、見覚えのない場所だった。


「……ここは……?」


 ぼんやりとしながら、ルーノはベッドの上で体を起こす。

 そして、今の自分の状況を理解しようと、手帳のページをめくるように記憶を辿る。


「オレは確か、グールと戦って……」


 頭をかきながら、ルーノは思い出していく。そう。彼はグールの突進を強引に止めて、アルニカを庇った。

 その後、グールの口蓋を掴んだまま自ら崖を踏み砕き、グールと共に崖下へと落ちていった。


 崖下へ落下していく中、不意に頭の後ろに衝撃が走った。恐らくは、崖の岩にでも頭を打ったのだろう。

 直後に視界から光が消え、ルーノは意識を失い、大きな水しぶきをあげて崖下の川へと落ちた。

 その後自分がどうなったのかは、ルーノにはわからない。

 しかし、今こうして生きているということは、自分は助かったのだろう。


「そうだ!!」


 何かを思い出したのか、ルーノは辺りを見回す。どうやら、彼は探し物をしているようだ。

 テーブル、机、そして椅子。ルーノは部屋の中に視線を泳がせる。ルーノが探しているのは、彼の愛用の剣だ。


 そして見つけた。ベッドの側の椅子の上に、鞘に納められた状態で置かれていた。


 鞘の部分を掴み、剣を自分の元へと引き寄せる。柄の部分を掴んで、ルーノは剣を鞘から勢いよく引き抜いた。


「……はあ……」


 ルーノは部屋に響き渡るほどのため息を漏らす。その理由は、彼が握っている剣によるもの。

 ルーノの愛用の剣は、刀身のちょうど真ん中あたりの場所で折れていた。


 崖下へ落ちていく間、ルーノは崖の岩面へと剣を突き立てた。剣で体を支えて、崖下へ落ちるのは免れようとしたのだ。

 しかし、剣はルーノの体重を支えきれず、折れてしまったのだ。


「オヤジにどやされちまう……」


 独り言をつぶやいて、ルーノは折れた剣を鞘へと納める。ルーノの家は鍛冶屋、そして彼の父は少しは名の知れた職人だ。「剣はお前の命、そう思って大切に扱え」それがルーノの父の昔からの口癖だった。

 今まで何度かルーノは自分の剣を折ってしまったことがあった。そのたびに、ルーノの父は家の隅々にに響き渡る声で彼を怒鳴り散らした。


「ん? いや、待て……」


 ふと、ルーノは思い出す。剣が折れた時、自分は間一髪で折れた剣の先を掴んだことを。

 右手に巻かれた包帯は、その時についた手のひらの傷を保護するための物だろう。だとしたら、この剣の折れた先は……


「あった……!!」


 剣の折れた先は、ベッドの脇のテーブルの上に置かれていた。

 ルーノはベッドから降りると、そのテーブルに歩み寄り、折れた剣の先を手に取る。

 少しの間、剣の先を見つめて、


「工房があれば、直せそうだな……」


 と一言。

 鍛冶屋の息子のルーノは、跡を継ぐ為に父から鍛冶を学んでいた。今までにも数回、折れた剣を自分で直したことはある。

 とにかく、工房を探して剣を直し、そしてロアとアルニカと合流する必要がある。

 崖から落ちる前、三人でベイルークの塔へと向かっていた。きっと二人はそこに来るだろう。


 その為にも、まず初めにここがどこなのか、ルーノにはそれを知る必要があった。

 とその時、不意に部屋のドアを開く音が響く。


「!?」


 ルーノは驚き、ドアの方に視線を向ける。ドアを開けて、一人の人間の女性が小屋の中へと入ってくる。

 ルーノから見て、彼女は歳の頃19~20程、長く赤い髪の毛をポニーテールにしている。

 背は高く、顔だちも整っていて、胸もある。なかなかスタイルはいい。


 その女性は、ベッドから立ち上がっていたルーノを見て、


「お、目が覚めたの、獣人族の坊や?」


 とルーノに一言。


「だ、誰だオマエ!?」


 そうルーノは返事を返す。女性は腰に手を当てて、


「あらあら、命の恩人に向かってずいぶんなご挨拶だねえ?」


「……命の恩人? どういう意味だよ?」


 相手が初対面で、年上の人間ということも厭わずに、ルーノは雑な口調で問う。「命の恩人」、女性は確かにそう言った。彼女はふー、とため息を漏らす。

 赤毛の女性は、後ろ手でドアを閉めて、


「あんた、この村の近くの川の岸に打ち上げられてたんだよ?」


「!? 本当か……?」


 ルーノはそう返した。

 つまり、崖下の川へ落ちた後、ルーノは川に流されて、岸へと流れ着いたということだろう。あの急流で沈むこともなかったのは、運が良かったとしか言いようがない。


「まあ、あんたを見つけたのはあたしの弟だけどね」


「そうだったのか……」


 女性はベッドの側の椅子に腰かける。彼女の長い赤毛がふわりとなびく。


「あんた、名前は? 出身はどこ?」


 彼女は、ルーノに名前と出身地を尋ねた。


「……ルーノ、出身はアルカドールだ」


「? アルカドールって……」


 女性は少しだけ考え込む。「アルカドール」という地名は、どこかで聞いた覚えがあった。

 そう、それはこの「アスヴァン」という世界の中でも絶大な力と規模を誇る、「アスヴァン三大国」と呼ばれる三つの国家のうちの一つ、「アルカドール王国」のことだった。


「もしかして、あのアルカドール王国!?」


「まあ、他に『アルカドール』っていう地名はないからな」


「へえ~」


 女性はまじまじと、まるで珍しい物を見るようにルーノの顔を見つめる。

 少し間を開けて、「オレの顔に何かついてるか?」とルーノが彼女に尋ねた。


「ごめんごめん、ちょっとね。あたしはライラ、出身はこのルナフ村」


 このルナフ村、ということは、どうやらここはルナフ村という場所のようだった。ルーノには聞いたことのない地名である。

 出身地ということは、きっと彼女は多少なりこの村には詳しいだろう。そう考えたルーノは、


「じゃあライラ、一つ聞いていいか?」


 と、ルーノは早速先ほど聞いた彼女の名前を呼ぶ。


「何?」


ライラはそう答える。ルーノは、


「この村に、鍛冶工房はあるか?」






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