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第19章 ~イルト~

「はっ……はっ……はっ……はっ……!!」



 一人の幼い村人の少女が、息を切らせながら逃げ惑っていた。

 数人の賊の人間達が、その少女を捕らえようと追いかける。

 足が疲れて、呼吸が苦しくても、彼女はその逃げ足を止めようとはしない。もしも捕まれば、それはそのまま死につながるからだ。


「きゃっ!!」


 幼い村人の少女が、石に躓いて転んだ。


「鬼ごっこはもう終わりにしようぜ? お嬢ちゃん」


 後ろから賊の男の声。「!!」少女の表情が、再び恐怖に塗り潰される。

 転んだ拍子に膝が擦り剝けて血がにじんでいたが、痛がっている時間はなかった。

 少女は痛みをこらえて立ち上がり、走ろうとする。その少女の前方に、賊の男が立ちふさがった。


「あっ……!!」


 少女は振り返り、逆方向へ逃げようとする。しかし、後ろにも賊の男が立ちふさがっていた。

 気が付いた時には、前、後ろ、右、左、四人の賊が少女を取り囲んでいた。


「あああっ……!!」


 もう少女に逃げ場はなかった、いや、相手は大人の男だ。逃げ出したところで、すぐに追いつかれるだろう。


「さんざん手こずらせやがって……」


 正面に立っていた賊が、剣を鞘から引き抜きながら少女に近づく。

 少女はもう、声を上げることも、逃げ出すこともなかった。ただ地面にへたり込み、涙を流して恐怖に震えるだけだった。


「じゃあな、お嬢ちゃ」


 少女に剣を突き付けて、そこまで言いかけた時、


「ぐごッ!!」


 男の首の後ろ辺りに、大きな衝撃が走った。

 途端に男の視界が砂嵐のようになり、周りが見えなくなった。「か……」泡を吹き、男は地面へ倒れ伏す。


 男の後ろには、一人の獣人族の少年が立っていた。

 灰色の毛並に、左目には黒い眼帯。その右手には、サーベルが握られていた。


「そんな子供一人を大人四人で追い掛け回すとは、勇敢だな」


 その少年、ガルーフは吐き捨てるように言った。

 彼は先ほど、このサーベルの柄で賊の後ろ首を打ったのだろう。


「ガ、ガルーフお兄ちゃん……!!」


 幼い少女が、ガルーフをそう呼ぶ。


「立てるか?」


 ガルーフは少女へと駆け寄り、手を差し伸べる。少女はそのガルーフの灰色の毛の生えた手をとり、立ち上がった。


「さあ、早く逃げろ」


 ガルーフは少女に命じる。少女は頷いて、走り去って行った。それを確認したガルーフは、三人の賊の男の方へと向き直る。


「(三対一か……分が悪いが、やるしかないな)」


 ガルーフは心の中で呟く。

 先ほどの一人は不意打ちだったから簡単に倒せたが、あとの三人はそうはいかないだろう。

 三人の賊が、剣を抜いた。ガルーフもサーベルを構えなおす。


「……行くぞ!!」


 ガルーフは右足に力を込めて、地面を蹴り、賊の男に近づこうとする。

 とその時、ガルーフは上の方から気配を感じた。


「!?」


 ガルーフは足を止める。

 彼の眼前に、大きくて、そして雪のように白い物が落ちてきた。その白い物には、長い耳、綿毛のような尻尾があった。

 ガルーフは気づく、それは「白い物」ではなく、「白い毛並をした兎型獣人族」だった。


「……君一人の手には余る相手だ。手を貸そう」


 ガルーフに後ろ姿を向けたまま、その白い毛並の獣人族はそう言った。

 どうやら敵ではないようだが、この村の者ではないようだ。


「お前は?」


 ガルーフはそう問う。白い毛並の兎型獣人族は、ガルーフを横目で見つめて、


「アルカドール王国の、イルト」


 白い毛並の兎型獣人族は、自らをそう名乗った。彼の胸元についた水晶のペンダントが、日の光を受けて輝いていた。






 ロアとアルニカは、賊のリーダーと剣を交えていた。

 アルニカが加わって二対一となったが、四本の剣による攻撃を防ぐのは容易ではなかった。腕の長さや力の差もあり、二人は押されていた。


「うっ!!」


 アルニカの腕を、敵の剣がかすめた。

 かすめた部分の衣服が破れ、そこには血が滲んでいる。


「アルニカ!!」


 ロアはアルニカを呼ぶが、彼女を気遣っている暇はなかった。

 アルニカに手傷を負わせると、賊のリーダーの男はその四本の剣を、全てロアへと向けてきた。


「雑魚が一人増えた所で、何が出来る!?」


 そう言い、男はロアへと激しい攻撃を仕掛けてきた。

 アルニカは傷のついた腕に包帯代わりに衣服の切れ端を巻きつける。そしてアルニカはダガーを拾い上げて男へと走り寄り、後ろから切り掛かった。


「!?」


 男は、アルニカの背後からの攻撃を受け止めた。それも、少しも後ろを見ずに。

 後ろに目があるとでも言うのだろうか、アルニカの動きは完全に読まれていたようだった。


「無駄なことよ、貴様ら軟弱な人間ごときに、魔族の将たるこのドルーグが負ける筈がない」






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――







【キャラクター紹介 07】“ドルーグ”



【種族】魔族

【種別】人間

【性別】男

【年齢】-Unknown-

【髪色】-Unknown-


 戦い以外で死ぬことのない不老不死にして第四の種族、「魔族」の将。数十人の魔族の兵を率い、ラータ村を襲撃した。

 全身を兜や鎧で固め、その四本の腕で四本の毒剣を振るい、ロアとアルニカを苦しめる。

 何故、ラータ村を襲撃し、罪のない人々の命を次々と奪っていくのか、その理由は謎である。







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