第15章 ~語られる事実~
「保安官の人が、どうして私たちにいきなり剣を向けたりしたんですか?」
アルニカがガルーフに強い口調で問う。
最もだった。初対面の相手にいきなり剣を向けるなど、礼儀知らずどころか、無礼極まりない行為だ。
「……今、この村では余所者を警戒しているんだ」
ガルーフが答える。
「どういうこと?」
そうロアが問う。ガルーフは腕を組んで、左に視線を向ける。
彼と向かい合う位置に立っていたロアとアルニカはそれを追い、視線を右に向けた。その先には、先ほどから気になっていた墓標があった。
墓標に花を添えたり、手を合わせたりする人、墓標の前で泣き崩れる沢山の人の声が、合唱のようにロア達の方まで聞こえてくる。
「あの墓標の数……この村で伝染病でも流行ったんですか?」
アルニカの問いに、ガルーフは首を横に振った。
「伝染病などではない」
「だったら、一体何が……?」
ロアがそう聞く。これだけの死者を出す程の出来事は、伝染病以外には思い当たらなかった。地震などの自然災害ならば、アルカドール王国の方にもその影響が及ぶ筈だ。
「二日前の事だ、この村に『ヤツら』が現れたのは」
「ヤツらって?」
ロアがそう聞く。
「化け物共だよ、『人間』でも『獣人族』でもない」
「……!?」
ロアとアルニカの表情に緊張が走る。
ガルーフの言った、「化け物」、そして「人間でも獣人族でもない」という言葉に、二人には思い当たる事があった。
「そいつらは何十人もの数でこの村を襲い、破壊と殺戮を欲しいままにして去って行った。お前達も見ただろう? 壊された家や、踏み荒らされた畑や花壇を」
耳を疑う話だった。
「じゃあ、あの墓標は……まさか!?」
「そう、全員その犠牲者達だ。幼い子供から大人、老人、人間も獣人族も関係なく、無差別に襲われた」
ガルーフの話にロア達は戦慄した。この平和な村に、何故そのようなことが起こるというのだろうか。
「生き残ったのは偶然村の外へ出ていた者、すぐに地下へ避難してヤツらから逃れた者、そして剣を扱えて、ヤツらと戦えた者だけだ」
アルニカは再び墓標を見る。
墓標の前で泣き崩れる一人の老婆が目に止まった。彼女は息子、もしくは娘の命を奪われたのだろうか……
「……ひどい……!!」
感情が、声となって表れた。
「……そういえば、お前達は何用でこの村に?」
ガルーフが二人に聞く。ロアは思い出した。そう、この村で、「イルト」という人物と合流する予定だった。
「人を探しにきたんだ。『イルト』っていう獣人族の人はこの村に?」
ガルーフは、
「……その名を聞いたことはないな、余所者か?」
「そう。僕たちと同じ、アルカドール王国の人なんだ」
ガルーフは少し考えて、
「余所者なら、恐らく宿に泊まっていただろう。宿は全て壊された。その者は恐らく……気の毒だが」
しかし、イルトという人物はユリスの側近と聞いている。それなりに剣の腕はあるだろう、殺されたと決めつけるのは早い。
きっと、この村のどこかにいるのかも知れない。
「ところでお前達、今日はどこへ泊るつもりだ? 宿は全て壊されていて使えないぞ?」
余所者なのだから、きっと村の宿へ泊るつもりだったと思い、ガルーフが問う。
「あ……!! どうしよう、アルニカ!!」
「どうしようって……宿が使えないなら、また野宿しかないんじゃない?」
「野宿は危険だ。この付近では近頃獣が出てる」
ガルーフが話を割って入った。
「……何なら、俺の家に来るか?」
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【キャラクター紹介 06】 “ガルーフ”
【種族】獣人族
【種別】狼
【性別】男
【年齢】18歳
【毛色】ストームグレー
ラータ村の保安活動をしている、隻眼の狼型獣人族。
その風貌からはどこか近づきがたい雰囲気を感じさせるが、内心は優しい心の持ち主で、村の者からは信頼されている。
家には二人の弟と一人の妹がいる。両親は数年前に流行り病で亡くなった。
狼型獣人族としての能力は、人間の数万倍の嗅覚と三日三晩休まずとも走り続けられるスタミナ。
武器は主にサーベルを使用する。