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第153章 ~ネヴルムの洞窟~

「ここが、ネヴルムの洞窟の入り口か」


 眼前の岩山に空いた穴を見つめて、ロアは呟いた。

 ヴァロアスタ王国を後にし、ニーナ達に教わった道順通りに進む事数十分。ロアとルーノ、そしてリオの三人はその場所へと辿り着いたのだ。

 ネヴルムの洞窟。ここを抜ければ、連れ去られたアルニカを追うのに大幅な近道となる。

 額の汗を袖で拭いつつ、リオが言う。


「ふう、やっと着いたね……」


 ヴァロアスタ王国を出てから、ロア達三人はこの場所を目指して走り続けてきた。ロアもリオも呼吸を荒げている……しかし彼だけは、違う。


「よし、行こうぜ」


 ルーノだ。

 兎型獣人族の彼は、人間と違って多少走っただけでは息切れすら起こさない。全然余裕、とでも言わんばかりの表情を浮かべている。

 地面に付いた槍に身を預けつつ、リオが応じた。


「ちょっと待ってよ、少しだけ休もう……!」


 炎の魔法を使え、槍術にも長けているリオ。しかし彼女も女の子、体力面ではロアやルーノよりも乏しいのだ。

 ルーノは呆れたように反論した。


「何だオマエもう疲れたのかよ、この程度走っただけでお手上げなんざ、鍛えが足りねえぞ」


 リオはむっとして、


「なっ……! 獣人族のあんたと一緒にしないでよ、あたしとロアは人間なの。ルーノみたいに無尽蔵に体力があるわけじゃないんだから!」


 いつもならば、リオはルーノの耳を鷲掴みにしていたに違いない。しかし今は体力的に、それも出来ないようだ。

 ロアは、言った。


「いや、リオ……やっぱり休んでる暇は無いよ、早くこの洞窟を抜けて、アルニカに追い付かないと」


 リオ程ではなくとも、ロアも呼吸を荒くしていた。

 一応の理解を示したのだろう。リオは「分かったよ……」と応じつつ、体を引きずるように歩を進め始める。

 先んじて洞窟に足を踏み入れたのはルーノだった、彼は入口周辺を一瞥し、率直に言う。


「それなりに長い洞窟みてえだな……簡単には抜けられなさそうだ」


 どうやら、兎型獣人族の聴力で洞窟内の音を感じ取り、おおよその洞窟の長さを推測したようだった。

 ロアは彼の隣で、


「なるべく急いで、そして気を付けて進もう。魔物が居るって話もあったから」


 リオとルーノは頷いた。

 入口周辺は外の光が届いていて明るかったが、洞窟内は進んでいくごとに薄暗くなっていく。

 地面や壁は岩肌が剥き出しになっているらしく、歩く度に足音が反響し、自身の鼓膜に跳ね返ってくるのが分かった。どこからか、ピチャン、ピチャン……と水滴が滴る音が聞こえてきた。

 今の所、魔物や他の者が居る気配は感じなかった。しかし、この暗闇では何かあったとしても即座に対応出来る保証は無い。

 この暗闇は危ない……そう感じたロアは、提案する。


「明かりを灯した方がいいな」


 即座に、リオが応じた。


「あ、それだったら任せて」


 リオは槍の先に手をかざすと、囁くような小さな声で呪文を唱えた。


「アノーレア・デ・フレイヴィネア……」


 彼女の声に呼応するかのように、槍の先に小さな炎が灯る。松明程度の大きさで、周囲が淡く照らし出された。洞窟内の広い範囲を視認できるようになり、明かりとしては十分だった。

 戦闘の際には業火の如き炎を作り出すリオ、しかし加減すれば、このような小さな炎にする事も可能らしい。

 ロアは言った。


「ありがとうリオ、助かる」


 リオは得意げに、「どういたしまして」と応じる。彼女の炎を操る力は、こういった場所でも有用だった。

 槍の先を上げ、リオは遠方を照らし出す。その先にはやはり、殺風景な岩肌が存在するのみだ。分かれ道などは見受けられず、どうやら進める道は一方しか存在しないらしい。

 リオは言う。


「とりあえず、道に迷う心配は無さそうだね……」


 ルーノが続ける。


「今んとこ、魔物の気配も感じねえな」


 それでも、ロアは周囲を警戒し続けていた。

 ニーナ達の話では、ここは魔物も居ると噂の危険な洞窟との事。必ず何かがある筈だ。


(確かに何も無い……でも、何だ、この嫌な感じ)


 言いようのない嫌な空気を、ロアは何となく感じ取っていた。

 言葉では上手く言い表せないが、誰かが……何かが自分達を見ている、虎視眈々と付け狙っている、そんな気がしてならなかったのだ。勿論確証など無い、しかしふと気付いた時には、ロアは剣の柄を握っていた。

 リオの問いかけで、ロアは我に戻る。


「ロア、どしたの?」


 不意に声を掛けられて、ロアは少しばかり驚いた。

 

「えっ? あ、いや……何でもない」


 剣の柄から手を放して、ロアはそれまでと同じように歩き始める。

 するとルーノから、思いもしない言葉が発せられた。


「オマエも感じてるのか、ロア」


 ルーノは周囲に視線を配りながら、続ける。


「魔物の気配は確かにねえけど、何か嫌な感じだよな……この洞窟」


 兎型獣人族の少年は、ロアの思考を察していたようだった。

 対してリオは、


「どしたの、ロアもルーノも……あたしは何も感じないけど?」


 彼女に対して、ルーノが場違いな冗談を言う。


「ネボスケ太っちょには分かんねえか」


「なっ、この……!」


 ロアが仲裁する。


「やめなよ二人とも、油断してると不意を突かれる」


 ルーノが問うてきた。


「ロア、アルニカの居場所はどうだ? 結構移動してるのか?」


「ちょっと待って、調べてみる」


 ロアは、ユリスから託されたアルニカのダガーを取り出した。

 本来は二本一対になっている物で、もう一本はアルニカが持っている。このダガーに物探しの呪文を唱える事で、もう一本のダガーの行方、つまりアルニカの居場所を知る事が出来るのだ。

 ダガーに付いた黄色の魔石に手をかざして、ロアはユリスに教わった呪文を唱えた。


「ディエレメンス……」


 魔石がロアの呪文に呼応するように輝き、その光が四角い枠を形作り……その中にアスヴァンの世界地図が描かれていく。

 そこに一つ、赤い点が示された。その場所は、ユリスがした時と比べて殆ど移動していないようだ。

 リオが地図を覗きつつ、


「これ、さっきと比べて全然動いてなくない?」


 どうやら彼女も、ロアと同感だったらしい。

 ロアはリオと視線を合わせ、


「アルニカを連れ去ったあの化け物が、何かの理由で止まってるって訳かな?」


 続いてルーノが、地図に見向きもしないまま言った。


「何しろあのバカでかい図体だからな、長時間飛び続けるのは難しいだろうし、エサも大量に喰う必要があるだろうぜ。それ以外に何か、想定外の事態でも起きてくれたのかもな」


 考えてみれば、確かにその通りだった。

 ガジュロスは確かに恐ろしい魔物だが、あの巨体故に活動し続けるには結構なエネルギーが要るだろう。

 こちらは近道を選択しているし、急げばまだ追い付ける……ロアの中で、その考えは推測から確信へと変じつつあった。

 ロアはアルニカのダガーを仕舞い、ルーノとリオに促す。


「よし、先を急ごう」






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