第152章 ~助っ人~
「ふーん、それであたしが呼ばれたって訳ね。事情は分かったよ」
ユリスからの説明を受けた助っ人――アルカドール王国出身にしてロアやルーノの同級生の槍使い、マゼンタのショートヘアと大きな瞳が印象的な少女、リオは腰に手を当てつつ、応じた。
そう、ユリスが選出したのは彼女だったのだ。人選の理由は、ロアには容易に想像がついた。リオはかなりの槍術の腕前を持ち合わせており、更に家系柄、炎の魔法を操る力まで持ち合わせている。一行に加わればアルニカと同等か、もしくはそれ以上に頼もしい仲間になるだろう。
「申し訳ありませんリオ、急にお呼びたてして」
「いいのいいの女王様、こっちも手が空いてた所だし」
リオはぴらぴらと手を振りながら、ユリスに応じた。
彼女の、リオの仕草は軽くて、リオがアルカドール王国でも名の知れた貴族の娘だという事を忘れさせる。
「けど、何でコイツなんだ? もっと頼りがいのあるヤツにすればいいじゃねえか」
ルーノがぶっきらぼうにリオを指さしつつ、言った。
リオは彼に歩み寄り、その長い耳を鷲掴みにする。畑から野菜を引き抜くかのごとく、思い切り引っ張った。
「うわっ!? いでっ、いでででででで!」
ルーノは悲鳴を上げる。
「もう一度言ってみなさい! ほらっ、ほら!」
理由は知らないが、リオとルーノは不仲……というよりは、喧嘩友達のような関係にあるのだとロアは感じていた。しょっちゅう派手な喧嘩を繰り広げているこの二人、だがルーノもリオも、互いを憎み合ってはいないのだろう。
だから彼らのこういった、少しばかり騒がしい『掛け合い』も、ロアは止めに入ろうとはしない。
代わりに仲裁したのは、ニーナだ。
「やめたまえ二人とも、今は急を要する事態だ」
バドも続く。
「連れ去られたのは、お前さんらの仲間だろ。んん?」
少しの沈黙の後、リオはルーノを解放した。ルーノは痛むであろう耳を押さえながら、「いててて、くそ……!」と発する。リオはぶすっとした表情を浮かべて、両手を腰に当てた。
次に話の主導権を取ったのは、ユリスだ。
「ロア、このダガーは貴方に預けます」
差し出されたその武器、アルニカが落とした彼女のダガーを、ロアは受け取った。少女でも扱えるように作られたダガーは、見た目よりも遥かに軽い。眩い銀色の刃が、鏡のようにロアの顔を映している。
ユリスは説明した。
「呪文は『ディエレメンス』。唱えれば先程のように、もう一本のダガーの行方、つまりアルニカの居場所を教えてくれます」
ロアは先程の光景、ユリスがその呪文を唱えた時の事を思い出した。
思えば、アルニカがツインダガーという二本一対の武器を用いていた事は幸運だった。さらに彼女は誘拐される際、片方だけのダガーを落とし、それが彼女を追う手掛かりとなっている……不幸中の幸い、そう思うには十分だ。
だからこそ、何としても運に報いなくてはならない。
「そのダガーを頼りに、アニーを助けに行くって事ね」
リオは、槍の柄の先で地面を軽く叩いた。
ユリスは頷く。
「何も手を貸す事が出来なくて済まない」
ニーナが歩み出て、謝罪した。
彼女はロアを見つめながら、
「ネヴルムの洞窟に関しては私も詳しくは分からない。だが……余り良い噂は耳にしない。くれぐれも注意を怠らないように」
ロアは頷く。そこには共に戦った仲間への、感謝の思いも込められていた。
「正直、俺もあそこに行くのは気が引ける……どうしても行くのか、お前さん方。んん?」
バドの問いに答えたのは、ルーノだ。
「行くっきゃねえさ、危険だとしても仲間を見捨てられねえだろ」
その言葉に、ロアは笑みを浮かべた。素直でなくとも、ルーノが根っから悪いヤツではない……その証拠とも言える言葉だったから。
続いてウォーロックが、
「洞窟ノ場所ハ国ノ外レダ気ヲ付ケロ」
そしてミレンダが、膝を折ってロアと視線を合わせた。そして見たこともないような、真に迫る面持ちを浮かべる。
「ロア、おじ様の事……忘れないでね」
ゴライアとの戦いの末、命を落としたモロク。彼はミレンダの育ての親だった、ミレンダにとって、かけがえのない父親だったのだ。
ロアは精一杯の感謝と誠意を込めて、彼女に応じた。
「忘れないさ。絶対、忘れるもんか」
ミレンダは消え入りそうな声で、「ありがとう」と言った。たった数文字でも、様々な感情が滲んだ重みのある言葉に思えた。
ニーナがロアとルーノに、
「共に戦えて嬉しかった。また会おう」
「三人とも、ご武運を」
ユリスの言葉に、ロアは頷いた。
そして彼は同行する二人の仲間に促す。
「ルーノ、リオ、行こう!」
ロアは駆け出すと、二人の仲間がその後ろへ続いた。