表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/158

第133章 ~特攻するロア~


「まさか、あんな物まで……!?」


 言葉を発しながらも、ロアはゴライアの動きへ注意を払い続ける。

 彼が注意を集中させているのは、ゴライアがその右手に持つ凶悪な武器――蒸気機関銃だ。


「小童、猿型獣人族共は勿論だが、あの武器には特に注意を払っておけ」


「……うん」


 魔力で覆われ、黄色い光を放つ剣を構える。

 眼前のゴリラ型獣人族が持つ蒸気機関銃が、いつ火を噴くか分からないのだ。


(あんな銃に太刀打ちするには……)


 遠くから相手を狙い撃てる蒸気機関銃に、単なる剣で太刀打ち出来る筈など無い。剣の射程に入ろうと近づいている間に集中放火を浴び、粉々だろう。

 しかし、それはあくまでただの剣を用いた場合の話。

 今、ロアが手にしているのは、魔法の力を宿した剣だ。

 魔法の力ならば、弾丸を防ぐ事も可能である。汽車にて、ニーナが魔法の力で作り出した盾を使い、強盗が放った弾丸を防いだように。


「小童、魔力の盾を作り出す呪文は『レーデアル・ボルグ』だ。覚えておくがよい」


「っ……」


 ロアには、聞き覚えのある呪文である。ニーナが用いていたからだ。

 モロクはさらに、続ける。


「使った事のない呪文など使えない、そんな弱音は吐くな。使えなければ、あの銃の餌食になるだけだぞ」


「分かってる……!!」


 武器に魔力を宿す呪文は、ロアは会得している。しかし、魔力の盾を作り出す呪文――「レーデアル・ボルグ」は使った事が無かった。

 魔法の事を詳しくは知らないが、武器に魔力を宿す事と、盾を作る事は違う感覚なのだとロアは予想している。


(やってみせる……)


 しかし、モロクの言う通り、使いこなさなければ後が無い。

 ゴライアが持つ蒸気機関銃と戦える武器は、今のロアには魔法以外無いのだから。


「さあて……まとめて消し飛ばしてやるか」


 耳障りな金属音を発しつつ、ゴライアは蒸気機関銃に弾丸を装填する。

 その直後、冷たい銃口がロアとモロクへ向けられた。


「ワシからは以上だ。見せてみろ、ヌシの力を」


 モロクは、籠手を装着した両手を握る。

 ロアは彼の顔を見上げつつ、小さく頷く。


「消し飛べ!!」


 言い放つと同時に、ゴライアは蒸気機関銃の引き金を引いた。

 蒸気が噴出し、その圧力によって複数の銃身が回転しつつ、無数の弾丸が放たれる。

 耳を劈くような銃声と共に、ロアとモロクが立っていた場所が一気に砂煙に多い包まれた。

 成す術も無く、粉々になったか――ゴライアは引き金から指を外し、前方を見る。

 砂煙が次第に晴れゆく、そこには、オレンジ色の光の壁があった。


「……防御魔法か、こざかしい」


 オレンジ色の光の壁は、モロクによる防御魔法だった。

 ゴライアが蒸気機関銃の引き金を引く直前、彼が一瞬のうちに呪文を唱え、防御魔法を発動したのである。

 弾丸は全て防がれ、ただ虚しく周囲に散らばっているだけだった。


「砕けるまで、撃ち込んでやる」


 ゴライアは狼狽える様子もなく、蒸気機関銃の排莢を行う。

 レバーを引いた途端、銃口に近い部分が開き、そこから大量の薬莢がバラバラと落ちた。

 排気口からは、熱い蒸気が放出され続けていた。

 再び、ゴライアは銃口をモロクに向ける。


「ワシばかりを見ている余裕があるのか?」


「何?」


 モロクの言葉で、ゴライアは気付いた。

 その時には既に――ロアはゴライアの背後を取っていたのだ。


「おおおっ!!」


 ゴライアが最初に銃を撃った際の砂煙に乗じ、ロアはモロクの元を離れ、ゴライアの視界から外れた。

 そして周囲の木々などに身を隠しつつ、ゴライアの後方に回り込んだ。

 前方に気を取られていたゴライア、さらには周囲の猿型獣人族達。誰一人として、ロアの動きに気付く者は居なかった。

 ゴライアに向かおうとするロアに、猿型獣人族達が立ち塞がる。


「一人で来るたあ、いい度胸してんじゃねえか!?」


 短剣を振りかざしつつ、猿型獣人族の一人がロアへ言い放つ。

 ロアは黄色い光を纏った剣を振りかざし、


「嬉しくないね、君達に褒められても」


 ロアの剣と、猿型獣人族の剣が触れ合う、同時に猿型獣人族の剣が砕け散った。

 それもその筈、ロアの剣は魔力で覆われているため、通常の剣とは格の違う強さを備えているのだ。

 剣を砕かれて丸腰となった相手など、ロアには敵ですらない。

 一人を打ち倒し、もう一人、さらにもう一人。持ち前の高等剣術を用い、ロアは次々と猿型獣人族を打ち倒していき――猿型獣人族を全員、倒した。

 要した時間は、一分にも満たなかった。

 周囲に自身の部下達が居たからか、或いはモロクに隙を突かれる事を警戒していたのか。ゴライアは、ロアに蒸気機関銃を撃とうとはしない。

 だが、それも数秒前までの話。


「ふっ!!」


 猿型獣人族達を退け、ロアはゴライアへと走り寄る。

 

(とにかく、撃たれる前に……!!)


 ゴライアは、既に銃口をロアへ向けていた。

 銃弾を防ぐ方法は、ロアには一つしかない。そう、魔力の壁を作り出すことである。

 使った事のない魔法、などと言っている場合では無かった。


「レーデアル・ボルグ!!」


 モロクから教えられたばかりの呪文を唱え、ロアは剣を振る。

 直後、ロアの前に光の壁が出現した。同時に、ゴライアの銃が火を吹くのが見える。


「うっ!!」


 ロアが作り出した魔力の壁に、無数の弾丸が当たる。ガラスが砕けるような音が、ロアの耳に突き刺さる。

 もしも壁が破られれば、ロアはたちまち蜂の巣になるだろう。

 初めて使った呪文であるが故、当然ながら自信など無かった。


「ぐっ……!!」


 初めて作り出した魔力の壁だけが、今の自身を守っている。

 砕けないよう祈る事が、ロアに出来る唯一の事だった。

 しかし、


「っ!!」


 魔力の壁の右端が、僅かだけ砕けてしまった。

 それを理解した直後、ロアは自身の右肩に痛みを覚える。僅かだけ砕けた部分を銃弾が通過し、彼の肩を掠めたのだ。

 しかし、それでも幸いだった。


「っ……はああっ!!」


 弾丸が止んだのを見計らい、ロアは突っ込む。

 

「防御魔法……こんな餓鬼が……!?」


 ゴライアは驚愕していた。

 恐らくは、ロアまでもが防御魔法を扱えるとは思っていなかったのだろう。


(今がチャンスだ……!!)


 ロアは既に、ゴライアの持つ蒸気機関銃の弱点を見切っていた。

 離れた場所からでも、相手を狙い撃てる凶悪極まりない武器。しかし、一定数の弾丸を放てば排莢動作が必要となり、それには数秒要する。

 一見太刀打ちのしようが無く思えても、どうにか弾丸を防ぐことが出来れば、反撃のチャンスはあるのだ。


(くっ……!!)


 走り寄る最中、ロアの右肩を痛みが走る。

 銃弾が掠めた傷は深くはないが、全くの痛手にならない訳でも無かった。

 チャンスを掴んだように思えて、ロアに与えられたのは僅かな時間のみである。

 ゴライアが排莢を終えれば、蒸気機関銃は再び火を吹くのだから。


「チッ……!!」


 自身に向けて、ゴライアが蒸気機関銃を振り上げる。

 銃が撃てない状態にあるので、近接攻撃を仕掛けるつもりだと判断したロアは、剣を振った。

 蒸気機関銃、そしてロアの剣が衝突する――金属音が発せられると同時に、両方が持ち主の手から離れ、地面に落ちた。

 ゴライアの持つ蒸気機関銃は、特別強度の高い金属で出来ており、破壊するには至らなかった。さらにはロアも負傷している為、衝突時の衝撃に耐え切れず、剣を放してしまったのだ。


「この餓鬼が!!」


 怒号と共に、ゴライアは素手となった右腕を振り上げた。

 武器を失った彼は、直接ロアを殴るつもりである。

 それだけでも、ロアには十分な脅威だった。個人差や鍛え方によって差異は生じるが、ゴリラ型獣人族の腕力は人間の何十、場合によっては何百倍もの強さを持つのだから。


「!!」


 喰らえば、確実に致命傷となる――ロアは、ゴライアの拳を避けようと身構える。

 しかし、彼が避ける間もなく、ゴライアの拳は止められた。

 割って入ったモロクが、受け止めたのだ。籠手を装着しているとは言えども、片手で。


「っ、モロク……!!」


 巨大な後ろ姿に、ロアは呼びかける。

 モロクは彼に背を向けたまま、


「初めてにしてあれほどの強度を持つ魔力の壁を作り出せるとは、上出来だ」


 モロクは、ゴライアの拳を握ったまま、


「右肩を負傷したのだろう、しばし休んでいろ小童。この男はワシが倒す」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ