表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/158

第130章 ~ゴライア~


 ジェブロスの赤い六つの目が、ゆらゆらと薄暗い空間に浮かんでいた。

 黒い外殻を持つ蜘蛛型の魔物は、その巨大な脚を壁に突き立て、昇降機の上に居る二人を見下ろす。

 不気味な鳴き声が反響し、バドとルーノの耳に届いて来る。


「おいおい、あんなヤツが出るなんて聞いてねえぞ……!?」


「……迂闊だったな、んん?」


 狼狽えるルーノに対し、バドは冷静だった。

 彼は銃に弾を込めつつ、


「易々とゴーレムを止めさせる気はねえって事だ、あの怪物は、いわばゴーレムの動力源を守る番犬ってとこか。んん?」


 ルーノは理解する。

 魔族は、彼らの勢力でもあるゴーレムを停止させられない為に策を打っていた。

 この地下へと繋がる空洞に、あの怪物――ジェブロスを潜ませていたのだ。

 バドの言う通り、ゴーレムの魔石を守る番犬として。


「どうすんだよ、昇降機は動きそうにねえぞ……!?」


 ルーノは、自らが立つ昇降機に視線を降ろした。

 バドとルーノを乗せた昇降機は、動く気配など無い。

 

「簡単な事だ、あの化け物を始末すりゃ済む話だろ。んん?」


 ガシャン、とバドは銃を鳴らす。






 ロア、アルニカ、ニーナ、モロク、ウォーロック。

 彼らは、戦火の舞うヴァロアスタの街を駆けていた。

 魔族や魔物達、さらにゴーレムが時に彼らを襲うが、ロア達は出来うる限り労力を割かず、先に進む事を第一に進行していく。

 ロア達の目的は他でも無い――囚われた国王を助け出す事。

 一刻の猶予も、残されてはいないのだ。


「ニーナ、腕は大丈夫なの?」


 ロアは、自らの前方を走るニーナに問う。

 薬で応急手当はしたものの、ニーナは腕を押さえながら走っていた。

 その表情をしきりにしかめている事からも、痛みが完全に引いていない事は見て取れる。


「私の心配は要らない、今は自分の身、それから陛下を救う事を考えたまえよ」


 ニーナは、レイピアを利き腕の右手では無く、左手で握っている。

 

「シャルトーンの言う通りだ小童、どうやら来たようだぞ」


 モロクの言葉の直後に、敵が現れる。

 魔族の策略によって、本来守る筈のヴァロアスタ王国に牙を剥けた一体の石人形。

 ロア達は立ち止る。


「ゴーレム……!!」


 そう発しつつ、ツインダガーを握るアルニカ。


「ワタシ二任セロ」


 ウォーロックが先陣を切り、敵のゴーレムへと突っ込んだ。

 石で出来た体に大柄な体格にも関わらず、その動きは素早い。

 数秒という僅かな時間で敵のゴーレムとの間合いを詰め、ウォーロックは敵のゴーレムに仕掛ける。

 巨大なゴーレムが、正面から衝突する。

 敵のゴーレムがウォーロックに向けてパンチを繰り出す、ウォーロックはそれを片手で受け止め、もう片方の手で敵の腕を掴む。

 次の瞬間に、ウォーロックは敵ゴーレムの腕を握り砕き、続けざまにその頭部分に一撃を加えた。

 敵ゴーレムの頭部分は砕かれ、粉々になる。

 

「……」


 今し方打ち倒したゴーレムの残骸を、ウォーロックは見下ろす。

 その後ろ姿に、ロア達は駆け寄った。


「強いね、ウォーロック」


 全く同じ外見にも関わらず、ウォーロックの一方的な勝利だった。


「……他ノゴーレム達ハ操ラレテイルガ、ワタシハ自分ノ意思デ戦ッテイル。当然ダ」


 ロアを見下ろしつつ、ウォーロックは応じた。

 石だけで造られたその顔には、二つの丸い緑色の目が付いているだけだ。

 表情など読み取る事は出来ないが、どこか悲しげに見える。


「仲間だったの? このゴーレム……」


 問うたのはアルニカ。彼女の視線の先には、先程ウォーロックが倒したゴーレムの残骸が。


「……」


 ウォーロックは、小さく頷いた。

 かつて、ヴァロアスタに仕えるという共通の志を持った友だったが、今は魔族に使役され敵となっている。

 一体だけ、唯一魔族の策略から逃れられた、故に仲間を倒さなくてはならなくなってしまったウォーロック。

 ゴーレムにも、人間のような心が在るのだろうか。


「君達、立ち止まっている場合では無いよ」


 ニーナが、ロア達の背中へ促す。

 ロア達が振り返ると、今度はモロクが紡いだ。


「こうしている間にも、尊い命が奪われている。ワシらが止めない限り」


「……うん」


 ロアは頷く。

 そして彼らは駆け出した。国王を、そしてヴァロアスタを戦火から救う為に。

 魔族達やゴーレムの襲撃を掻い潜り、ロア達はその場所を視界に捉えた。


「見えてきた、あそこだよ」


 ニーナが指差した先を、他の者達は視線で追った。

 レンガで組み上げられた、巨大な時計塔が陽の光を受け、鎮座している。

 

「っ、止まりたまえ」


 時計塔の入り口に向かっていたロア達、しかし先頭を切っていたニーナが、突然他の者達を制した。

 彼女はロア達を背に、レイピアを構える。

 何事か――後方のロア達は、ニーナの後ろから前方を見やる。

 そこには、居た。


「……ヴァロアスタの飼い犬風情が、俺様達に敵うとでも思っているのか?」


 時計塔の入り口を塞ぐように、その男は仁王立ちしている。

 体中を覆う黒茶色の毛並、モロクに勝るとも劣らない巨大な体格。

 さらには射抜くような鋭い視線といい、モロクを思わせる特徴を備えた、ゴリラ型獣人族の男だ。

 その男――「ゴライア」は、口に銜えた葉巻を無造作に足元へ捨て、踏み潰した。

 確かめるまでも無く、味方である筈など無い。


「バラヌーンか?」


 剣を構えつつ、ロアは問う。


「……どんなネズミが来るかと思えば、餓鬼共ばかりじゃねえか。ヴァロアスタも人手不足か? くく、がっははははははは!!」


 ゴライアはロア達を一瞥した後、吐き捨てるように紡いだ。

 彼の高笑いが、響き渡る。


「ぐっ……!!」


 ゴライアの侮辱に憤慨し、アルニカはツインダガーを構えようとする。

 しかし、ニーナが彼女を制した。

 動じる様子も見せず、ニーナはゴライアへ問う。


「君達の目的は何だ?」


 するとゴライアは、笑うのを止める。


「決まっているだろう、我々にとって一番の脅威であるこの国を、叩き潰してやる事だ」


 三大国最強のヴァロアスタ王国は、即ちアスヴァン最大にして、最強の国家だ。

 魔族は一番の脅威であるこの国を落とす為、魔族の兵や魔物、そしてバラヌーンを送り込んだのである。


「我々にとって最大の脅威と言われていたが、いざ攻めてみればどうだ? ゴーレム共も乗っ取られ、俺様達の力の前に手も足も出てねえじゃねえか!!」


 煽り立てるかのように、ゴライアは続けた。


「アスヴァン最強の国家が聞いて飽きれるぜ、こんな糞不甲斐ねえ国、俺様達の手で滅ぼしてやる……全く以ていい気味だ!!」


 ゴライアは再び、高笑いを発し始める。

 ヴァロアスタの者全てを卑下し、侮辱し尽くした笑い声を。


「……糞不甲斐ないのは、君達の方だ」


 ゴライアに言い返したのは、ニーナでも無く、モロクでも無く、ウォーロックでも無かった。

 発したのは、ロアだ。


「魔族の力に委ねなければ、何も出来ない臆病者のくせに……そんな事を言う資格は無い!!」


「何……!?」


 ゴライアの表情から、笑みが消える。


「ロアの言う通りだね、魔族にすがらなければ大きな口を叩けない、見かけ倒しな臆病者と判断する」


「中々良い事を言うものだ、小童」


 ニーナとモロクも、ロアに続いた。

 ゴライアは怒る、自ら自身の手を握り潰しかねない力で、その拳を握っていた。


「手前ら……!!」


「さっきから偉そうなことばかり言っているけれど、多勢に無勢ですよ」


 アルニカが言う、状況は確かに多勢に無勢だ。

 ロア達に対して、相手はゴライアただ一人、ロア達にとって圧倒的有利な状況である。

 するとゴライアは怒りを引かせ、


「そいつは俺様の台詞だ」


 ゴライアの言葉を合図にするかのように、どこからともなく彼らが現れる。

 独特の声を発しながら集結し、ロア達を取り囲んでいくのは、ゴライアの僕――短剣で武装した、猿型獣人族達だ。

 ロア達は身構える。


「俺様達のテリトリーに入った時点で……手前らは終わりだ」


 ロア達の人数を余裕で越える程の数の、猿型獣人族達――ゴライアの伏兵。

 しかし、ロア達は誰一人として、恐れを浮かべる様子は無い。

 彼らの選択肢はただ一つ、立ち向かう事のみ。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ