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第129章 ~襲い来る敵達~

 ゴーレムや魔族達の襲撃を退けつつ、ルーノとバドは昇降機まで辿り着いた。

 ヴァロアスタの地上と地下洞窟を繋ぐ、唯一つの架け橋とも言える場所。

 しかし、その操作盤の前に人は居ない。


「こんな騒ぎの中だ。操作係は大方、逃げちまったってトコだろうな。んん?」


 バドの言葉に、ルーノは頷く。

 彼は長い耳を揺らしつつ操作盤の前に立ち、ボタンやレバーに視線を泳がせた。

 

「お前さん、動かせんのか?」


 ルーノはバドを向き、


「見た所、動力が死んでる訳じゃねえみてえだ。きっとオレにだって動かせると思うけど……」


 そう漏らしつつ、ルーノは目に付いた手近なボタンを押した。

 その次の瞬間、ガゴンガゴンという引っ掛かるような音と共に、昇降機が揺れ始める。

 ――数秒、バドとルーノが乗る間も無く、昇降機は急に下がって行ってしまった。

 直後、地下から凄まじい轟音が、ルーノ達が居る地上まで轟く。

 昇降機が、地下まで墜落したのだろう。


「……確かに、お前さんにも動かせはしたな」


「う、うるせえ!! ちょっと間違えただけだ!!」


 ため息交じりに煙草の煙を吐くバドに、ルーノは喰らい付く。

 

「ちょっと俺に見せてみろよ、んん?」


 ルーノは、バドに立ち位置を譲る。

 バドは銃を一旦仕舞い、操作盤のボタンを押してレバーを引いた。

 すると、何処からか蒸気が噴出するような音と共に、昇降機を吊り下げているワイヤーが巻き取られ始める。

 地下まで落ちて行ってしまった昇降機を、一旦地上へ引き戻すつもりだ。


「一手間増えちまったな、誰かさんの所為で。んん?」


 バドの口調は嫌味事と言うよりも、軽口と言った雰囲気である。


「悪かったな!! ……ん?」


 何かに気付いたかのように、ルーノは振り返った。

 

「どうした?」


 バドを振り返らずに、ルーノは返事する。

 数秒前とはうって変わり、その表情には険阻さが浮き出ていた。


「……気を付けろバド、来たみてえだぞ」


 その直後に、現れた。

 小柄で獰猛な、集団で行動する性質を持つ獣――ラグナール。

 野生では無く、魔族によって調教された個体だ。

 一体が現れたと思えば、直後にどこからともなくもう一体、さらにもう一体、気が付いた時には、十匹前後ものラグナールがルーノとバドの前方に居た。

 

「グルルルルル……」


 口端からボタボタと涎を垂らすラグナール達。

 恐らくは、凶暴性を高める為に敢えて餌を与えず、飢餓状態にされていたのだろう。

 ラグナール達は待ち焦がれた獲物を目前に、血走るかのような目でバドとルーノを捉えていた。

 

「俺達の匂いを嗅ぎつけやがったんだな。獣は獣人族の匂いにはより反応する……知ってたか、んん?」


「んな事言ってる場合かっつの……!!」


 狼狽える様子も無いバドの様子に、ルーノは関心すらも覚えてしまう。

 獣達が間も無く襲って来きそうなこの状況下で、よくそれほど冷静にいられる物だと。

 ルーノは剣を構えつつ、後ろを見やる。

 昇降機が地上に上がって来るまで、まだ要しそうだ。


「奴らの牙には注意しろよ。一度噛み付かれれば、簡単には放してもらえないぜ、んん?」


「余計なお世話だ、オマエこそアイツらの飯になっちまうんじゃねえぞ」


 直後、飢えたラグナール達は一斉に獲物――バドとルーノに向かって迫り来る。

 ルーノが剣を構えると、その隣でバドが銃を抜き、構えた。

 構えてから僅か、バドの銃が火を吹く。

 発射された弾丸はラグナールを撃ち抜き、物言わぬ亡骸と変えたが、それもたった一体。

 捨て身で迫り来る獣達を止めるには、時間が足らなさ過ぎた。

 先頭のラグナールが口を開ける、口蓋の上下に唾液で糸が引いていた。

 鋭い牙が、無数に生え揃っている。


「らあッ!!」


 飛びかかって来たラグナールを、ルーノは一閃した。

 魔法の力を借りずとも、彼が持つ剣は獣を一蹴する程の切れ味を備えていたのである。

 しかし、ルーノは気を抜かない。敵は一匹では無く、徒党を組んでいる。

 飢餓状態のラグナールは、仲間の死に怯む様子も無く次々と迫って来た。


「仲間よりも食欲か、強欲なもんだな。んん?」


「獣ってのはそういうモンだろ、次が来るぞ」


 数体のラグナールが、集団でルーノに向かって突撃を仕掛ける。

 バドの銃撃で数体が撃破されたものの、二体が生き残り、ルーノへと飛び掛かって来た。


(チッ、仕方ねえ……!!)


 一体を倒している間に、もう一体から攻撃される恐れがある。

 さらに前方からは新手のラグナールが襲い掛かってきており、バドも手が塞がっているようだ。

 ならばこの二匹は、自らの手で倒さなければ――そう思ったルーノは、後方を振り返り、駆け出した。

 優れた聴力を持つルーノには、ラグナールが自身の背中を追っていることなど確かめる必要も無い。

 一しきり駆けた後、彼は兎型獣人族の脚力を発揮して前方へ跳ぶ。

 植えられていた木の幹を蹴り上げ、空中で後転する。その勢いと共にルーノは、自身に迫っていたラグナールの一匹に剣を突き立てた。

 一匹を倒した後、もう一匹のラグナールがルーノに迫る。

 宙に居るルーノに牙を突き立てようと、その口を開けていた。


「おおおっ!!」


 跳びかかって来た獣に、ルーノは空中で踵落としを見舞う。

 ラグナールの頭を的確に捉えた、強烈な一撃。

 さらに落下した獣の口蓋部分を、ルーノは両足で踏み付けた。

 ラグナールの口が地面とルーノの両足に挟まれ、数本の折れた牙が飛び散る。

 

「ガ……」


 僅かな断末魔と共に、ラグナールは動かなくなった。

 二匹の内、先に倒した個体からルーノは自らの剣を引き抜く。


「中々やるな、良い脚力してんじゃねえか。んん?」


「兎型獣人族だからな、こんぐらい誰にも出来るさ」


 バドがルーノを褒めるが、ルーノは謙遜する。

 その直後、ルーノはバドの斜め背後からラグナールが迫っている事に気付く。

 一匹、隠れていたのだ。


「!! 後ろだ、バド!!」


 バドからの返事は、呑気な物だった。


「焦る必要はねえよ、んん?」


 銜えた煙草から煙を伸ばしつつ、バドは銃口を後ろへ向ける。

 視線はルーノと合わせたままだが、彼の銃は正確にラグナールへ向けられていた。

 直後、バドは引き金を引く。火花と共に、銃弾が獣の口の中へ叩き込まれた。

 断末魔を発する猶予も無く、獣は地面へ落ちる。

 生死など、確認する必要も無かった。


「こんな三下共じゃ準備運動にもなんねえぜ、んん?」


 バドの煙草、そして手にした銃口から煙が昇る。

 彼の銃の腕は本物、ルーノはそう認めざるを得なかった。


「ん、来たか」


 ルーノは振り返る。

 先程彼が落としてしまった昇降機が、昇って来ていた。


「よし、行くとしようぜ相棒。んん?」


 バドは先立って、昇降機へ向かう。

 ルーノは彼の翼の生えた背中を見つめつつ、


「……相棒?」


 




 バドとルーノは、昇降機で地下へと下っていた。

 唸るような金属音と共に、二人の獣人族を乗せた昇降機はゆっくりと降下していく。


「……嫌な気配がすんな」


 バドの言葉に、ルーノは振り返った。


「どういう意味だよ?」


「分かんねえか、んん?」


 バドは煙草を吐き捨て、踏み消した。

 そして新しい煙草を取出し、口に銜える。


「長年のカンってやつか、どうも落ち着かねえんだよ」


 ルーノは怪訝な面持ちで、バドを見つめる。

 すると、蝙蝠型獣人族の男は見つめ返してきた。


「油断するなよ、んん?」


「オマエの方こそ……」


 状況が一変したのは、その時だ。

 降下していた昇降機が突然停止したのだ、轟音と共に地震のような振動が、バドとルーノを襲う。


「うおわっ!?」


 何が起きた――そう思う間もなく、ルーノは理解する。

 頭上から、何かの気配を感じたのだ。

 視線を上に向けると、


「!! な、なんだよアイツ……!?」


 ルーノにそう言わせる程の存在が、そこに居た。

 仄暗い闇の中、バドとルーノを捉える赤い六つの目。

 長い八本の脚が金属の支柱に触れる度、火花が飛散する。


「嫌な予感の発信源、だな。んん?」


 黒い外殻、そして六つの赤い瞳を持つ、巨大な蜘蛛の魔物だ。

 顎を蠢かせつつ、その怪物――「ジェブロス」はバドとルーノを見下ろしていた。






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