第128章 ~戦力分割~
「なるほど、この騒ぎの発端は魔族か。んん? シャルトーン」
バドが煙草を銜えながら問うと、ニーナは頷く。
側に居たモロクが、
「バド、街の様子はどうなっていた?」
「国中が大騒ぎになってるぜ。魔族だけじゃなく、石人形までもが暴れ狂っててな。んん?」
バドは煙草を地面に吐き捨て、踏み消した。
そして新しい煙草を銜えたかと思うと、火を付ける。
会話をしている間にも、ロア達の耳には轟音が届いて来る。
ゴーレムが街を破壊する音に混ざり、重たげなゴーレムの足音、さらには人々の悲鳴が。
「……ところで、そこに居るゴーレムは? 敵じゃねえのか、んん?」
バドが差したのは、ウォーロックだ。
ルーノの悪戯により、一体だけロア達に味方するゴーレムである。
「コイツは心配ねえ、オレ達の味方だよ」
ルーノが返答すると、バドは「そうか……」と了承する。
といっても完全に信用しきれる訳では無いらしく、横目でウォーロックを見つめていた。
「それより、モタモタしてらんねえぞ、急いでゴーレムと魔族を止めねえと!!」
「それに、陛下も助けなくては……くっ……」
ルーノの提案に補足すると、ニーナは腕を押さえつつ表情をしかめた。
ロアが、
「怪我しているだろう。一人じゃ無理だ、僕も行く」
「私も」
アルニカが続く。
「ならば……人数も多い事だ、手分けをしよう」
一同に会している者の中で最年長のモロクが、提案する。
現在集まっているのは――ロア、アルニカ、ルーノ、ニーナ、モロク、ウォーロック、バド。
全部で七人だ。
「名案だねモロク、それでは……ルーノ、バド、君達二人はゴーレムを止めに行ってくれたまえ」
「え……オレ達二人でかよ?」
ルーノは問い返した。
一体、ニーナは如何なる理由でルーノとバドを指したのか。
「一つは、戦力の大きな獣人族を出来うる限り、ゴーレムや魔族との応戦に充てたいという事」
ニーナは応じる。
彼女がルーノとバドの二人だけを選んだのは、自身やモロクを応戦に回す為だった。
さらに、理由はそれだけに留まらない。
「それからもう一つ、ゴーレム達の動力源がある場所だよ」
「何なんですか? ゴーレム達の動力源って」
アルニカが問うた。
「巨大な魔石だよ、ゴーレム達が保管されていた洞窟の奥にある」
「あそこか……」
一度行ったことのあるルーノは、ニーナが差す場所が何処なのか直ぐに分かる。
地下深くの、あの洞窟だ。
「魔石を見つけ出し、打ち砕いてくれたまえ。それでゴーレムの動力となっている魔力の供給は止まるよ」
「あ、けどよ……!!」
しかし、ルーノには一つだけ気掛かりがあった。
彼は視線をニーナから外し、唯一の味方であるゴーレム、ウォーロックへと向ける。
「その魔石を砕いちまったら、ウォーロックも止まっちまうんじゃ……!?」
唯一の味方であるとは言え、ウォーロックもゴーレムだ。
動力を断ってしまえば、恐らく停止してしまうだろう。
しかし、ロア達にはウォーロックは心強い味方だ、暴れ狂うゴーレム達と同等の力を持っている筈なのだから。
出来うることならば、失いたくは無かった。
「気二掛ケテクレテ感謝スル。ダガ心配ハ無用ダ」
が、ウォーロック自身がルーノの心配を一蹴した。
「恐ラクハコウナルト考エ、ワタシ自ラ独立シタ動力源ヲ確保シテアル」
ウォーロックは、自らの手の平をロア達に見せる。
彼の手には、青い魔石が握られていた。
「中々ノ純度ノ魔石ダ。コレガアレバ、動力源トシテハ申シ分ナイ」
ゴーレム達の動力源の魔石とは別の動力源。
この魔石を持っていれば、ウォーロックは動力を断たれることは無いのだ。
「よし、それでは早速行動に移るとしよう」
ニーナは紡いだ。
「ルーノとバドはゴーレムの動力源の魔石を破壊に、残りは魔族やゴーレムとの応戦、及び陛下の救出に向かう。それで良いかね?」
「あ、ニーナ、ちょっと待って」
異論を唱えたのは、ロアだ。
ニーナは彼に向き直る。
「魔石を破壊しに行くの、ルーノとバドさんだけで大丈夫なの? 二人だけじゃ……」
「獣人族の中でも感覚の鋭い種族のルーノとバドこそ、相応しいと思ったのだよ」
ニーナは即答した。
兎型獣人族のルーノは、ロア達も知っている通り高い聴力を持っている。
そして蝙蝠型獣人族のバドは、飛行能力に加えてもう一つ、暗闇でも良く見える目を持っているのだ。
ゴーレムの動力源である魔石がある場所は、洞窟。
もし暗闇の中で戦う事になろうとも、ルーノとバドは全く問題無かった。
だからこそニーナは、彼ら二人を選んだのだ。
「余計な人数を増やしても、荷物になるだけだと思ってね」
「……なるほどな」
応じたのはルーノ、それ以降は誰もニーナに異論を唱えようとはしなかった。
ロア達を一瞥し、ニーナは、
「では動くとしようか。ここで長話をしていても、事態は変わらないしね」
ロア達は頷いた。
「まさか、お前さんと組むことになるなんてな。意外だったぜルーノ、んん?」
「オレもオマエと組むとは思ってなかったよ、まあ宜しく頼む」
二人の獣人族、兎型獣人族のルーノと蝙蝠型獣人族のバド。
ゴーレム達の動力源を断つ役割を負った彼らは、共にヴァロアスタの街を駆けていた。
周囲を見渡せば、ヴァロアスタの街は悲惨な有様だ。
煉瓦の敷き詰められた地面には至る所に焼け跡が刻まれ、植えられた草花は無残に踏み散らされている。
建物には火が放たれ、見る影も無く破壊されている。
そして、戦いで命を散らせた兵士や、エンダルティオの少年少女の姿も。
「にしても……随分派手にやられちまってんな、んん?」
「……チッ」
ヴァロアスタの惨状に、ルーノは唇を噛みしめる。
その時、魔族の兵士の一人が、ルーノとバドの前に立ちはだかった。
「任せろ!!」
銃を向けようとしたルーノを制し、ルーノは一直線に駆け出す。
片手に握った剣を握りつつ、
「レーデアル・エルダ……」
小声で呪文を唱える。
同時にルーノの剣に黄色い光が纏い、魔力が宿った。
「ふっ!!」
地面を蹴ってジャンプし、ルーノは魔族の兵へと斬りかかる。
彼の剣を受けとめようと即座に剣が振り返されるが、二つの剣身が触れた瞬間、
「なっ!?」
金属音が鳴り響くと同時に、魔族の持っていた剣が折れた。
ルーノは敵に向かって勢いを止めずに、追撃を繰り出す。
兎型獣人族の脚力を載せた、回し蹴りを。
「うがッ!!」
声帯から外れたような声が、魔族の兵から発せられる。
強烈な一撃を受けた魔族の兵は、蹴りに押し出される形で横へ吹き飛ぶ。
地面に転げた後で、気を失った。
「おーおー、お前さん中々容赦ねえな。んん?」
「手加減なんかする必要ねえだろ、こんなひでえ事、平気で出来るようなヤツらに」
吐き捨てるように言うルーノ、彼の剣から黄色い光が薄れていく。
彼は憤りを覚えているのだ。
ゴーレムを操ってヴァロアスタを襲わせ、街を滅茶苦茶にした挙句人の命を奪う魔族に。
辺りを見渡せば、ルーノと同じくらいの年頃の少年少女が息絶えているのが、嫌でも視界に入る。
(くそっ……!!)
剣を握るルーノの手に、力が籠る。
彼はバドを振り返り、
「バド、急ぐぞ!!」
バドからの返事を待つ事無く、ルーノは駆け出した。
その青色の後ろ姿を見つめつつ、バドは新しい煙草に火を付ける。
「……はいよ」
煙を吐きつつ、バドはルーノの背中に続いた。